古い船は安価で購入できるため、密航業者の利益も大きいとみられる。
密航業者への軍事作戦承認=事前に船破壊も―EU外相・国防相会合
時事通信社 2015/5/19 05:23
【ブリュッセル時事】欧州連合(EU)は18日、ブリュッセルで外相・国防相理事会を開き、地中海で相次ぐ密航船転覆事故を受けて、密航業者を取り締まるための軍事作戦を承認した。出航していない密航船でも事前に破壊してしまう作戦を視野に入れており、6月の外相理事会で正式に作戦開始を決定する方針だ。
EUは作戦実行のため、強制措置を可能にする国連憲章7章に基づく国連安全保障理事会決議の早期採択を目指す。作戦の本部はローマに置き、イタリア海軍の少将が指揮官に就任する。
作戦は数段階に分けて実施。第1段階で密航や人身売買の情報収集や監視を行うほか、第3段階では密航船に利用される船を捕捉し、破壊することを計画している。
[時事通信社]
http://news.merumo.ne.jp/article/genre/2873292
巨大な墓地」と化す地中海 リビア情勢の混迷で増加する難民遭難
2015-02-16 22:25:21 | 難民・移民
(イタリア沖を漂流していた貨物船「ブルースカイM」号の船内でひしめき合う密航者ら。乗船していたシリア難民が携帯電話で撮影(2014年12月25日撮影)【1月6日 AFP】)
【世界で最も危険な航路横断 横行する密航船ビジネス】
北アフリカ・中東からイタリアなど欧州へ船で渡ろうとする難民と膨大な犠牲者の問題については、これまでも何回か取り上げてきました。
(2014年9月16日ブログ「地中海 後を絶たない中東・アフリカ難民に関する犯罪 2隻で700人超が死亡」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140916など)
特に、シチリア島とチュニジアの間に位置するイタリア・ランペドゥーサ島は、チュニジアから110kmあまりしかないことから、密航船の目指す“玄関口”となっており、受け入れたくはないが、人命にかかわるだけに放置もできないイタリア政府は対応に苦慮しています。
****リビア沖で難民2000人超を救助、イタリア当局****
イタリア当局は15日、リビアから同国に向かう途中に地中海上で遭難した難民の大規模な救助活動を実施し、2000人以上を保護した。伊メディアが伝えた。
イタリア政府は同日、リビアの治安状況の悪化をうけて在リビア大使館の職員を退避させ、同大使館での活動を停止していた。
伊メディアによると、十数隻のボートでリビアを出港した難民2164人がリビアとイタリアのランペドゥーサ島間で遭難し、イタリア海軍や沿岸警備隊によって救助された。
またイタリア運輸当局によると、難民救出にあたっていた沿岸警備隊員が、リビア沿岸からモーターボートで接近してきた4人の武装した男に脅迫された。
カラシニコフ自動小銃で武装した男らは、難民が救出されて空になったボートの返還を強要したという。
昨年にはアフリカ北部からボートでイタリアへの密航を試みた3200人以上が死亡しており、国際連合は北アフリカとイタリア間海路を世界で最も危険な航路横断と指摘している。
13日には、リビアの沿岸から約80キロの沖合で、6隻のボートに乗った約600人の難民がイタリア沿岸警備隊や商船によって救出された。
またその前週には、地中海で難民らが乗っていたゴムボートが悪天候のため沈没し、300人以上が死亡する悲劇も起きている。【2月16日 AFP】
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こうした密航船は、難民を“商品”として扱い、その生命には関心をもたない業者が存在する密航船ビジネスともなっていますが、最近の密航船は廃棄目前の中古船の使い捨てが多いと聞いています。
今回は“十数隻のボート”と、小型船を使用したようですが、それにしても大船団です。
また、“難民が救出されて空になったボートの返還を強要”というのは、驚くべき強欲です。
****密航用船舶を取引する闇市場の影****
建造から数十年が経過した古い貨物船が、闇市場で中古車のように容易に取引されている。
年末から年始にかけ、数百人単位でイタリアへ密航させようとしていた貨物船が漂流しているのが相次いで見つかったが、こうした船も例外ではない。
海運専門家によると、伊当局に発見された「エザディーン号」と「ブルースカイM号」は、リサイクル用に解体したとしても、スクラップとしての価値はいずれも15万ドル(約1770万円)程度にしかならない。2隻は当局の力が及ばない闇市場で取引されてきた可能性があるという。
48年前に建造された家畜運搬船のエザディーン号には祖国からの脱出を試みる移民が360人、建造後37年経った貨物船ブルースカイM号には768人が乗っていたが、どちらの船にも通常の商用船に求められる堪航能力に関する最新の証明書がなかった。
ギリシァ・ピレウス港の海運仲立業者(ブローカー)、ウルサ・シップブローカーズのサイモン・ワード氏はAFPの取材に対し、2隻の貨物船は「スクラップにする以外、何の価値もないもの」だが、トルコのスクラップ回収場では、どちらも25万ドル(3000万円)にもならないと語った。そこまでの輸送費に最大10万ドル(1200万円)ほどかかることを考えると、船主は現金を支払う相手に船を売った方がいいと判断するかもしれないという。
匿名を条件に取材に応じた英ロンドンのブローカーは「誰かに安い金で船を操縦させて、そこに移民を乗せる。(船の調達は)中古車を買うのと同じくらい簡単なことだ」と話した。
密航を請け負う潜在的な利益は非常に大きい。伊当局によると、エザディーン号に乗っていた密航者は、地中海を渡るために1人当たり4000~8000ドル(約47万~94万円)を支払っていた。業者の利益は144万~288万ドル(1億7000万~3億4000万円)に上るという。
英海運専門紙ロイズリストの編集者デービッド・オルセン氏は「中古の船を売ること自体は世界中、どこであれ完全に合法だ。貨物船はeBayにも出品されているし、格安の船を紹介するウェブサイトもあるほどだ」と話した。(後略)【1月24日 AFP】
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こうした密航船を操舵する者は、途中で自動操縦モードにした船を放棄して引きかえしてしまい、その後の密航船は“幽霊船”として運任せにもなるようです。
****乗組員なし…幽霊船? 実は“密航者”わらわら…伊周辺海域で相次ぐ****
イタリア南部沖で多数の移住希望者を乗せながら、操舵(そうだ)する乗組員がいない貨物船が見つかり、同国当局が2日、救助した。
同様のケースは最近、周辺海域で続いて発生。“船頭”のいない「幽霊船」(伊メディア)は不法移民密航の新たな手口とされ、欧州で警戒が強まっている。
貨物船は1日午後、乗船者から「乗組員がいない」との無線通報を受けたイタリア当局が同国南部沖約150キロの海上で発見。
救援隊が2日、燃料切れで漂流していた船にヘリコプターから乗り込んで制御し、同国南部コリリアーノ・カーラブロ港まで曳航(えいこう)した。
貨物船はトルコから出港したとされ、英BBC放送などによると、女性や子供を含む約360人が乗船。国籍は不明だが、内戦中のシリアから逃れてきたともみられている。操舵していた乗組員は途中で船を脱出した可能性が高いという。
伊当局は12月30日にも、同国南東部沖で、約800人の移住希望者を乗せながら乗組員がいない貨物船を救助した。
この船には先にギリシャ当局が接触したが、異常はなく、航行を継続。乗組員はその後に船を去ったとみられる。航行を続けていれば、伊沿岸部に座礁の恐れもあった。
欧州では近年、地中海を越えてくる北アフリカや中東からの不法移民の増大が問題化し、密航業者が手引きしているといわれる。従来は漁船やゴムボートが主流だったが、今回使われたのは、ともに建造後40年以上の貨物船だった。
貨物船の場合、冬場でも大量輸送が可能で、古い船は安価で購入できるため、密航業者の利益も大きいとみられる。
国連関係者はロイター通信に対し、貨物船を公海上まで航行させた後、針路を設定して密航業者らは逃げるのが手口だと語り、「古い貨物船の利用が増えてきている」と警告している。【1月4日 産経】
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当然ながら、“商品”を積めるだけ積み込んだ船内は悲惨ですが、それでも救助されて命があれば幸いです。
****劣悪な漂流密航船内の写真、乗船のシリア難民が撮影****
冒頭写真
家畜のようにひしめき合い、むき出しの床の上で毛布をかぶって身を寄せ合う人々――イタリア沖で先週、シリア難民ら768人を乗せて漂流していたところを発見された貨物船「ブルースカイM号」の船内のこうした状況が、乗船していたシリア人女性(30)が撮影した写真から明らかになった。
写真には、さびついた船体の限られたスペースにすし詰め状態で横たわる男女や子どもたち、そして壁から突き出た棚状の部分に座り込む人々の姿がとらえられている。
この女性は、両親と2人の妹と一緒に同船に乗り込んでいた。現在妊娠7か月で、3週間前に同じように密航した夫を追って、この危険な船旅に身を投じたのだという。(後略)【1月6日 AFP】
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2月9日にわずかな生存者が救助された事件では、死者が200人とも、300人とも言われています。
****<地中海>ゴムボートが遭難、アフリカ難民203人死亡か****
◇リビアからイタリアに向かう途中
北アフリカのリビアからアフリカ難民を乗せてイタリアに向かっていたゴムボートが地中海上で遭難し、203人が死亡した恐れがあることが分かった。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の南欧担当報道官が11日、救出された生存者の証言に基づいてツイッターで明らかにした。
イタリアのANSA通信によると、ボートは7日にリビアから出航したが、悪天候で海が荒れていたため、9日に転覆したという。
生存者9人はリビア沖でイタリア貨物船に救出され、11日、イタリア最南端ランペドゥーサ島に移送された。【2月11日 毎日】
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【リビアの混乱で増加する難民船】
今回2000人以上、13日には600人が救助され、9日には死者200~300人・・・と、密航船が頻発している背景にはリビアの混乱があるとされています。
リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊後、複数の民兵組織間の戦闘が激化し、治安が極端に悪化しています。
暫定政府を支える民族派とイスラム系武装勢力の対立が、各地に割拠する部族間の抗争と同時に深刻化し、更に、仏軍などによりマリから掃討されたイスラム過激派が潜伏するほか、イラク・シリアで勢力を拡大する過激派「イスラム国」も拠点作りを進める・・・ということで、新たな内戦突入への懸念も高まっています。
16日は、「イスラム国」によるエジプト人質(キリスト教の一派であるコプト教徒)殺害への報復としてエジプト軍が「イスラム国」のリビア内拠点を空爆、事態は更に混迷の度を深めています。
****エジプト軍、リビア領空爆=「イスラム国」人質殺害に報復―過激派40人死亡****
エジプト軍は16日、隣国リビア領内にある過激組織「イスラム国」の拠点を空爆した。軍は声明で、イスラム国がエジプト人の人質21人を殺害したとする映像を公開したことに対する報復だと明らかにした。リビアの戦闘機も空爆に加わった。
声明は、報復攻撃は「われわれの権利かつ義務だ」と強調した上で、「エジプトには国家の治安を守る盾と、テロや過激主義を断ち切る剣がある」と訴えた。リビア空軍部隊の司令官は、エジプト国営テレビに対し、空爆で少なくとも武装勢力の40人を殺害したと表明した。
リビアからの情報によると、東部ダルナでは空爆により複数の家屋が破壊された。女性や子ども少なくとも5人が死亡するなど、民間人も巻き添えになっている。
空爆はダルナのほか中部シルトなどでも実施されたもようで、武装集団の野営地、武器庫などが標的となった。作戦は成功し、空爆に参加した戦闘機は既に帰還したという。
エジプトのシシ大統領はこれより先、演説で「テロを打ち負かす。エジプトは適切な方法で対応する権利を有する」と表明していた。
リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊以降、イスラム過激派の勢力が伸長。最近、その一部にイスラム国のイデオロギーが浸透し、ダルナやシルトで支配基盤構築を進めているとされる。
リビアは現在、民族派とイスラム系勢力が覇権争いを繰り広げ、政府は事実上二つに分裂している。今回は民族派が掌握する空軍部隊がエジプト軍に協力した形だが、イスラム系が介入への反発を強め、リビアの分断状況に拍車が掛かる恐れもある。【2月16日 時事】
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リビアの混乱によって、難民を救助するイタリア側には、難民に紛れてテロリストが流入することへの懸念もあります。
すでに昨年は最悪の状況となっていますが、リビアでの戦闘が激化すれば、イタリアに押し寄せる難民はますます増大します。
****地中海での難民・移民の死者数が過去最多に 国連****
欧州を目指し地中海を渡ろうとした難民や移民と移動の際に死亡した人々の数が今年、過去最多に達したと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が10日、スイス・ジュネーブで2日間の日程で開幕した国際会合で報告した。UNHCRは各国政府に人命救助対策の強化を求めた。
UNHCRによると、今年1月以降に危険を冒して地中海を渡ろうとした人の数は過去最多の20万7000人以上、このうち死者は3419人に達した。これまでの最多は、リビアが内戦状態にあった2011年の7万人で今年はその3倍近くに達した。
シリア人6万51人、エリトリア人3万4561人を含む地中海を渡ろうとした人々の大半は、イタリアとマルタに向けてリビアから出港した。仕事を求める人々などだが、最近は亡命希望者が増えている。
また難民船の死者数は世界全体では4272人だった。
ジュネーブで2日間の日程で行われる国際会合は、迫害や紛争、政情不安、貧困などを逃れるために海路で移動する人々を保護する方策について話し合われる。【2014年12月10日 AFP】
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【難しい難民対応】
イタリア政府は難民の救難に取り組んでいますが、右派からは「不法移民につけこまれる」との批判もあります。
****難民、伊へ続々6万人 中東・アフリカから、上半期****
・・・・イタリア沖では昨年10月、難民船が火災を起こして転覆し、366人が死亡した。緊急対策を求められたイタリア政府は「マーレ・ノストゥルム」(ラテン語で「私たちの海」の意味)と名づけた救援作戦を始めた。地元紙によると、海軍の監視・巡回などに月900万ユーロ(約12億6千万円)の経費がかかる。
移民反対を唱える右派政党からは「不法移民につけこまれ、人数がかえって増えている」と作戦中止を求める声も出ている。政府は「対策を取らなければ、3万人は海上で死亡していた」と反論。ただ、仲介業者の拘束は進んでいない。政府は欧州連合(EU)が関与を強めるよう求めている。【2014年7月4日 朝日】
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ローマ法王は、「地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、難民の受け入れを促しています。
****<ローマ法王>移民の受け入れ促す 欧州議会で演説****
フランシスコ・ローマ法王は25日、フランス東部ストラスブールにある欧州連合(EU)の欧州議会で演説し、欧州が「内向き」にならず、高齢者や貧困者、移民に対する連帯の精神を実践するよう呼びかけた。(中略)
フランシスコ法王は演説で「世界は『欧州中心』でなくなり、欧州はやつれ、世界の主人公ではなくなっている」と述べ、欧州経済危機を受けて高齢者や若者、貧困者の孤独が深まっていると指摘。「(移民船の遭難が続く)地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、移民の受け入れを促した。(後略)【2014年11月25日 毎日】
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難民・移民を受け入れた後、どうするのか・・・、受け入れ側には大きな負担ともなり非常に難しい問題です。
ただ、「この国は我々のものだ。お前らの来るところではない。自分の国で飢えるなり、死ぬなり勝手にしろ!」と追い払ってみたところで、命がけの渡航を試みる者が大勢いるという現実はなんら改善されず、問題は糊塗されるだけです。
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