有事における海上護衛戦力は極めて不足することが予想される
3Dプリンターで離島防衛!
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平井 修一
文系の小生は製造技術にすこぶる疎いが、その進歩の速さには実に驚かされる。3Dプリンターを使って離島防衛拠点で必要な武器弾薬を作る時代が来るというのだ。米軍はすでに研究を進めている。日本軍も3Dプリンターを活用すれば防衛能力が格段に高まるという。
部谷直亮氏の論考「3Dプリンターこそが離島防衛の死命を決する 米軍は本気で軍事転用を進めている」(JBプレス4/22)から。
<米軍では、ミサイルから食事や医薬品までを作れる3Dプリンターを研究し、実戦配備を目指して膨大な予算と人員を投入しています。が、どうも日本での取り組みはまだまだのようで議論もあまりありません。
しかし、3Dプリンターの軍事転用による「兵站革命」こそ、離島防衛の死命を決する要素と言っても過言ではないのです。
*離島防衛の難しさ(1)──兵站の貧弱性
まず、軍事用3Dプリンターがなぜ死命を決する重要な要素となり得るのか。それは離島防衛独特の難しさに起因します。中国と本格的な衝突になった場合に我が国が相当苦戦する恐れがある点、それは兵站です。
九州南部から与那国島まで距離にして1200キロメートル。これは東京から福岡までと同じ距離であり、かなりの距離です。
しかし、自衛隊の兵站拠点は九州南部から与那国島までほとんど存在しません。基地や駐屯地ですら、南西諸島方面は、沖縄本島や若干の離島を除けば、今度建設される与那国島にしかありません。
また、自衛隊の弾薬拠点が日本全体で少ないことも貧弱な点です。特に航空自衛隊は、その航空機用のミサイルおよび機銃弾の備蓄が愛知県高蔵寺支処と青森県東北町分屯基地に集中しています。
もちろん、各基地の所有する弾薬もありますが、ここがゲリコマ(ゲリラコマンド)や弾道ミサイル等で破壊されれば、航空自衛隊は各基地の備蓄だけで戦うことになってしまいます。
対艦・対空ミサイルや機銃弾のない戦闘機に何の意味もありません。那覇基地にF-15をいくら増やしても無意味になってしまいます。
*離島防衛の難しさ(2)──少ない海上輸送力
自衛隊の泣き所は輸送力です。自衛隊の保有する輸送艦艇は輸送艦3隻、補給艦5隻と微々たる数です。
もちろん、この少なさを補うべく民間船舶活用の努力など、着実な施策が少しずつ実施されており、陸自当局者の努力や柔軟な発想には頭が下がる思いです。ですが、そもそも構造的に有事の輸送は絶望的な面があると指摘せねばなりません。
*離島防衛の難しさ(3)──海上護衛戦力の不足
その理由は、海上護衛戦力の不足です。
有事には、(1)与那国島・石垣島などの住民避難、(2)南西諸島へ増援として展開する陸自の重装備や兵員を中心とする戦力輸送、(3)離島奪還に向かう陸自戦力の護衛、(4)日本近海の商業船舶の護衛、(5)来援する「はず」の米軍戦力護衛・・・等々と、てんやわんやの大騒ぎです。
これを海上自衛隊の主力護衛艦艇47隻(整備中の艦船も含めれば、より減少し、有事には損耗により減ることはあっても増えることはない)で賄わねばならないのは、正直しんどい話でしょう。しかも、どれも重要な任務で、おいそれと放棄できません。
国民保護は非常に重要です。なぜならば、過去の悪夢のような歴史を繰り返せば、沖縄は今度こそ日本から離れてしまうからです。また、南西諸島へ重装備や弾薬・人員を送れなければ物資も弾薬もない自衛隊は、沖縄戦の日本軍と同様の悲惨な目に合うでしょう。そして離島奪還を諦めるのは政治的に許されないでしょうし、日本近海の商業船舶護衛も言わずもがなです。
また来援予定の米軍を迎え入れるための護衛任務は、第2列島線(東京~マリアナ諸島のライン)付近で活動することになると思われますが、これは南西諸島からは遠く離れた海域で、南西諸島方面の輸送船護衛には全く役立ちません。その意味で、数少ない戦力は二分されます。
このように、有事における海上護衛戦力は極めて不足することが予想されるのです。
*離島防衛の難しさ(4)──中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦力が日
本の輸送船を襲う(略)
*離島防衛の難しさ(5)──エスカレーション管理の問題
もし日中間で緊張が高まった場合、これまでに述べた理由により、いざ開戦となれば輸送は絶望的になります。そもそも火砲などの重装備を輸送しても、そのための陣地構築にはかなりの時間がかかります。となれば、速やかな輸送が急がれます。
しかし、第1次大戦において、ロシア軍の動員を見たドイツ軍が、先手を打つべく開戦を決意したことで戦争となったことに鑑みれば、実はかなり危ういのです。
つまり、日本側が急速な南西諸島への輸送を開始したことが、中国側の奇襲攻撃を招きかねないということです。そうなれば、意図せざる日中戦争が開始され、しかも準備が整っていない我が国はかなりの苦戦を強いられてしまうでしょう。
つまり、緊張が高まってからの展開は、不利な状況での開戦につながりかねず、なかなかおいそれとできないのです。
*3Dプリンターの軍事転用で問題を解決
さて、こうした難題だらけの離島における戦力展開と輸送ですが、こうした問題を解決するのに大きな役割を果たすのが3Dプリンターの軍事転用による「兵站革命」です。
3Dプリンターにより、従来あるのが当然とされた、工場や弾薬庫や長距離の輸送が不要となり、まさしく兵站に「革命」がもたらされます。
将来的には、3Dプリンターで製造されたミサイルの発射数や各部隊の保有数がネットワークで管理され、それに基づき、各地に散らばり移動する3Dプリンターが製造し、部隊に最も近い3Dプリンターからミサイルが運ばれるという、分散し、移動する兵站の未来が見えます。
そうなれば、中国側のA2/AD戦術をかなり程度で無効化できます。いざとなれば、沖縄や石垣などの各地で弾薬やミサイルを製造して戦えるからです。
また、輸送の問題も解決できます。多種多様な弾薬を製造できます。その意味で、あらかじめ材料を南西諸島に用意しておけば、より少ない備蓄で様々なものを作れます。
輸送や防衛するにしても、地対艦ミサイルと対戦車ミサイルと諸々の弾薬よりも、チタンの塊と爆発物の元、3Dプリンターの方が安易なのは言うまでもありません。
しかも、これはミサイルや弾薬に限ったことではありません。最近の3Dプリンターはチタンや複合材も扱えますので、航空部品も製造できます。そうなれば、わざわざ本土の工場で生産して輸送しなくても、沖縄でF-15の修理部品を作れるということになり、あらかじめ材料や3Dプリンターを分散して配置しておけば、極端な話、輸送が不要になります。
エスカレーションの問題も解決できます。そもそも弾薬や部品に限れば大々的な輸送が不要になるからです。有事にあわてて輸送する必要はありませんし、チタンや複合材の原料輸送ならば目立ちません。逆に、「生産」するという比較的穏やかな行動による対中メッセージも可能でしょう。
また、平時でも、弾薬庫の建設ではなく原材料保管施設の建設であれば、住民の反対感情は和らぐでしょう。加えて抗たん性の面でも、ミサイルや弾薬として保管するよりも、原材料として保管する方が強いでしょう。
このように、軍事用3Dプリンターは、我が国の構造上の問題である兵站の貧弱性と困難性を解決し、中国のA2/AD戦術を無効化するポテンシャルを秘めています。つまり、我が国は非常に強靭な国土となるのです。
*軍事用3Dプリンターに注力する米軍
さて、こうした発想を着実に実行しているのが、米国です。
ほとんど完全な外征軍たる米軍のネックはその補給です。アフガニスタンに米兵1人を駐留させるための経費は年間1億円とされています。つまり1万人を配備するたびに年間1兆円の経費が増加していくということです。
これらのほとんどは、車両・海上・航空燃料、現地政府への通行料、現地業者への謝金、警備費用等の輸送関係コストが大半を占めています。当然、その解決が必須となり、これまでも米軍の「省エネ」は進められてきました。
その延長線上として、オバマ大統領の3Dプリンター産業重視政策を利用する形で出てきたのが、米軍の3Dプリンター軍事転用への熱意なのです。
実際、国防総省作成の戦略文書「4年ごとの国防計画の見直し(QDR)」の
2014年版では、「低コストの3Dプリンター技術は、戦争関連の製造業と兵
站に革命をもたらすことができる」と高い評価を与えており、かねてより
課題の補給問題を解決できる大きな要素と見做していることが分かります。
具体的な取り組みとして国防総省の取り組みを少しご紹介すると、
・3Dプリンターを中心とする高価な工作機械を個人が自由に使えるTechShopの店舗にて、退役軍人は1年間の限定で、350ドル(4.2万円)相当の訓練を受けられ、しかも年会費無料で店舗を使用できる。これは国防総省高等研究計画局(DARPA)と退役軍人省の共同プロジェクトとのこと。
・国防総省が3Dプリンターを中心テーマとする2つの研究所の創設に関与。大学や企業とのコンソーシアムで、1億4000万ドル(168億円)の資金を国家予算から提供。なお、同額以上の資金が民間等から別途提供される。
・陸軍、NASA、アラバマ大学は共同プロジェクトとして、ミサイル等を3Dプリンターで製造する研究チームを創設。既に2013年7月の時点で、ロケットエンジン噴射器の製造に成功。しかも、従来工法よりもはるかに短期間・低予算かつ同性能で作成できた。
・2014年5月、強襲揚陸艦エセックスが初の3Dプリンター搭載艦に。医療関係(歯の矯正器具、使い捨て注射器等)や作戦業務で使う模型などに使
用しているとのこと。
・2015年2月、DARPAと海軍は「Fab Lab(3Dプリンターを中心とする工作所)」を軍艦整備センターに設置し、海軍軍人への研究と訓練を開始。
以上から、彼らの熱の入れようと、批判されがちな3Dプリンターの実用性の高さがうかがわれます。
*日本も3Dプリンター軍事転用の議論を急げ
3Dプリンターは、日本の典型的な議論として、どうしても可能性よりも限界性に注目が集まりがちになります。ですが、最近ではチタン合金だけでなく、複合材でさえ扱えるようになっており、戦車や戦闘機ですら理論的には作成可能となっています。
また、3Dプリンターの欠点として、その生産速度の遅さや精度の低さがたびたび指摘されますが、先述の米陸軍とNASAが3Dプリンターで作成したロケットエンジンの例では、従来の工法と品質においてまったく遜色がありませんでした。
しかも、従来の製品が、6カ月をかけて、4つの部品を作り、5つの溶接と精密な機械加工を行い、それぞれ1万ドル(1200万円)かかったのに対し、3Dプリンターではわずか3週間、それも5000ドル(600万円)の製造費用だけで済んだとされます。
そもそも、3Dプリンターは、異なる部品を接合するのでなく一体として製品の製造が可能となります。それにより、部品同士の摺り合わせが不要となり、生産コストが下がるだけでなく、精度や耐久性もあがることがGEアビエーションなどの航空宇宙産業において指摘されています。
また、特別な専門技術や知識が不要であることも、生産コスト低下に貢献します。
無論、まだまだ発展途上の技術ですが、それを理由に投資や取り組みを積極的に実施せずに、果たして良いのでしょうか。既に述べたように、離島防衛における補給の困難性は構造的なもので、ちょっとやそっとでは解決できません。3Dプリンターの軍事転用とそれに伴う兵站革命こそが、その構造を緩和できる新しい要素、離島防衛の死命を決する要素なのです。
3Dプリンターの原型は、日本人が作ったとの説があります。その真偽は不
明ですが、我が国には苦い経験があります。
太平洋戦争前、日本は世界に先駆けて「八木アンテナ」を開発したものの、英米がこれをレーダーとして使用し、日本軍をボロボロに打ち負かし、最終的には原爆にすら使用さ
れました。
日本側は鹵獲(ろかく)したことでようやく、その存在を知りましたが、時すでに遅し。ほとんど間に合いませんでした。そうした愚を繰り返してはなりませんし、そもそも二度と南西諸島の戦いで、現場の兵士に補給面で苦労させるべきではないでしょう。
そのためにも、3Dプリンターの軍事転用についての投資や法整備も含めた施策、そして、それらについての議論が急がれます。
・・・
【部谷直亮】一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構研究員。成蹊大学
法学部政治学科卒業、拓殖大学大学院安全保障専攻修士課程(卒業)、拓
殖大学大学院安全保障専攻博士課程(単位取得退学)。財団法人世界政経
調査会・国際情勢研究所研究員等を経て現職。
専門は米国政軍関係、同国防政策、日米関係、安全保障全般>(以上)
いやはやすごい時代になってきた。武器弾薬の製造拠点が分散され、地下
壕などで製造できることはリスクの分散にもなる。工兵が担当するのだろうが、CAD、CAMの熟練工など引退した老人だって参戦できるわけだ。第二の人生をお国のために活かせるのだから、こんな幸福はない。
中共の軍事的威嚇が平和ボケの日本人を叩き起こすことになった。その点
では中共は恩人だが、いつの世でも弟子は師の屍を乗り越えていくもので
ある。合掌。(2015/4/22)