中国「ばらまき外交」の限界 | 日本のお姉さん

中国「ばらまき外交」の限界

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
中国「ばらまき外交」の限界
経済悪化が深刻なベネズエラを教訓に
2015年03月02日(Mon) 岡崎研究所
フィナンシャルタイムズ紙は1月25日付社説で、長年にわたる誤った経済政策運営によりベネズエラの経済・社会は深刻な代償を払っているが、同国の最大の債権国である中国も、法外で甘い条件での貸し付けが大きな問題を生むことを学んでいる、と指摘しています。
すなわち、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は緊急資金援助を求め中国とサウジアラビアを訪問したが、明らかに何の成果もなかった。投資家たちは、ベネズエラのベンチマーク国債を「デフォルトの危険あり」のレベルまで落とした。ベネズエラでは、何千人もの人々がカラカスのスーパーの前に列をなし、インフレは約70%に至り、長年の経済政策の運営ミスの痛い代償を払っている。
ベネズエラ最大の債権国である中国にとって、これは重大なことである。この状況は、中国が続けてきた、ほとんど条件もなく、透明性のないままに、多くの場合は資源を対価に多額のローンを提供するという形の対政府資金援助の実情を中国に付きている。
ベネズエラ政府は、中国からの貸し付けは返済が石油で行われるので負債には当たらないとして、議会の承認を得ていない。その結果、この借金は国家予算に含まれず、いかなる運営制度や石油収益分配法のコントロールも受けていない。しかし、国営石油会社PDVSAが石油を対価とした負債の返済を予定通りできなくなった際、中央銀行からの借入に迫られた。これがハードカーレンシーの不足に輪をかけ、インフレを悪化させ、食料の輸入を妨げることになった。
ベネズエラ情勢の急激な悪化は、中国が国際社会により深く関与するにあたり、大きな教訓となる。つまり、非伝統的な政策を信じるカリスマ性のある指導者に甘い条件で貸し付けを行うと破壊的事態を生む、ということである。
中国は新興国に対し気前よく大金を貸しており、ここでベネズエラでの経験から貸出条件を厳しくすると国際的な開発環境に大きな影響を与える可能性がある。しかし、中国が「底なしの貸し出し外交」(open-wallet diplomacy)に制約を
加え始めたのはベネズエラだけではない。ジンバブエは、昨年100億ドルの救済パッケージを断られ、約束された20億ドル貸付には具体的な石炭鉱山のプロジェクトおよび将来の採掘による税収が担保とされた。中国は、世界銀行やIMF、アジア開発銀行といった多国間機関が貸し付けに厳しい条件をつけるにはそれなりの理由がある、ということを学んでいる、と指摘しています。
出典:‘China’s international lending has its limits’(Financial Times,
January 25, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/ae3a606a-a2fa-11e4-ac1c-00144feab7de.html#axzz3QjVJ3kI9
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石油大国ベネズエラの経済は破産寸前で、借金を増やすベネズエラ側にも大きな問題があるが、独裁的指導者に甘い条件で資源と交換に大金を貸し付ける中国のやり方に限界があることを中国も思い知ってきている、という分析です。ベネズエラの例は、中国による、独裁体制に対する野放図な「ばら撒き外交」の限界をよく示していると言えます。
2013年1月に死去したチャベス前大統領は、脱アメリカを図り、ロシアや中国との関係を深め、石油等の資源を対価に、資金ばかりでなく両国から武器も調達していました。ベネズエラの財政は石油価格が1バレル117ドル以上でないと成り立たないとされていましたが、今や石油価格は1バレル50ドル台にまで下がっています。そして、中国への輸出量(1日50万バレル)の半分が借金の返済に充てられ、他に財政を補う道がないとなれば、破産は時間の問題ということになります。ベネズエラは、伝統的資金調達の枠組みから自らを占め出し中国に依存したわけですから、今さら国際金融市場に戻ることができるのかという疑問があります。
中国にすれば、政情不安定な中東以外からの資源確保、それもアメリカの裏庭に食い込むという政策から、ベネズエラやアルゼンチン、ブラジルへ大風呂敷を広げてきました。中国は国際金融制度の恩恵を受けてきましたが、透明性、法や規制、その下での平等を原則とする既存の制度は、中国には使い勝手が悪いといえます。しかし、中国のやり方は大きな問題を抱えていることが明らかになりました。これまでIMFや世銀の融資条件が不適切で状況を悪化させた場合、国際機関の責任が問われてきました。中国はすでに各国への融資条件を見直していますが、ベネズエラが国家破産をし、経済がますます悪化し、さらなる社会不安が広がれば、中国の責任と見なされることになります。
中国は、ベネズエラのような痛い経験などを経て、国際金融制度のルールにはそれなりに意味があることを理解し始め、さらには既存のルールを学ぼうとさえしているようにも見えます。日米には、アジアインフラ投資銀行はアジア開発銀行(ADB)を脅かす、という懸念があります。透明性やルールを無視した中国のこれまでのやり方や、影響力増大にそうした機関を利用しようとする意図を考えれば、日米の懸念には理由があります。他方、ADBのインフラ資金が不十分であることも事実です。中国は、ADBからノウハウを学ぼうとしており、ADBもそれに応じ協力しているようです。中国が国際金融制度を通じて何をしようとしているか、警戒を解くべきではありませんが、今は、米国も日本も、苦労して築いてきた国際金融制度に中国を上手く取り込み、その豊富な資金を活用することを目指す、良い機会なのではないでしょうか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4752?page=1