「不在票」問題は、インターネット通信販売の拡大が再配達の増加というかたちで物流インフラの負担を
物流パンク、間に合わずドライバーは10万円自腹で配送、ヤマトは100時間サービス残業
Business Journal 2015/3/4 06:02 松井克明/CFP
クロネコヤマトの宅急便の配送車(「Wikipedia」より)
「日経ビジネス」(日経BP/2月2日号)は『物流の復讐』という特集を組んでいる。その内容は次のようなものだ。
「『荷物は時間通り届くもの』『送料無料は当然』――。あなたはそう思い込んでいないだろうか。電気や水と同じように、あって当たり前とされてきた『運ぶ』という社会インフラ。ネット通販の急拡大による負担増と人手不足が重なり、破綻へと近づいている。これまでのモノの流れを抜本的に変えなければコストは跳ね上がり、米アマゾン・ドット・コムなど高度な物流機能を持つ企業が顧客を独占する。小売りも物流会社もメーカーも、物流を軸に経営戦略を作り直す時がきた。長らく販売や製造を支える黒子にすぎなかった物流が、産業の主導権を握る。その『復讐』の衝撃波は、日常生活から企業の現場、国家戦略にも及んでいる」
今回のキーワードは圧倒的な人出不足による「2015年問題」と、急増する「不在票」問題だ。
「2015年問題」とは、2008年に国土交通省が発表した試算で、15年には14万人のドライバー不足に陥るとの懸念を示し、実際に現在この問題が現実化・深刻化しているのだ。東日本大震災の復興と20年の東京五輪に向けての人材需要のうえに高齢化もあって、人材争奪戦がし烈になっているのだ。年末のピーク時には「明日のトラックがない!」などという事態も起きかねない。このため、企業は物流を見直さざるを得なくなり、それが販売や製造にも影響を与え始めている。
●各社の再配達を減らすシステム
次に、「不在票」問題は、インターネット通信販売の拡大が再配達の増加というかたちで物流インフラの負担を増大させている。
「ヤマト運輸によると、宅配便の再配達比率はおよそ15~20%に達するという。宅配ボックストップシェアのフルタイムシステムでも、管理する宅配ボックスの荷物の年間平均入庫数は、この10年弱で1.5倍に増えたという。それだけ不在時に届く荷物が増えているということだ」(同特集より)
現在、ヤマト運輸が進めている「第8次NEKOシステム」で目指すのは、不在票のない世界だ。ドライバーの経験のデジタル化を図るのだ。
「どの家にいつ行けば確実に荷物が届けられるのか。もうドライバー個人の“脳内ビッグデータ”に頼る必要はない。その日の配送先の偏りや過去の配送実績を基に、最短ルートを導き出して端末に表示する。(略)過去の配送実績を生かし、利用者の生活サイクルに合わせて届けられるようになる」(同特集より)
現在、発送だけを手掛ける全国20万の宅配便取扱店でも、受け取りを可能にする方向だという。
一方、不在票自体と決別したのは佐川急便だ。佐川にはヤマトや日本郵便のような細かな配送網はない。その代わりに、企業間(BtoB)物流に強みがあったことから、通販会社の物流に焦点を当てたのだ。
「通販会社は購入客に届けるための配送サービスばかり強化し、安さや速さを宅配業者に求めてきた。一方で(略)物流センターに納品される物の流れにはあまり手を打ってこなかった。(略)実際は、メーカーや卸から納品される商品の搬入や仕分けが早ければ、倉庫内の効率化につながり物流コストを下げられる。佐川はここに目をつけた」(同特集より)
“納品物流”という通販ビジネスの黒子に回ったのだ。
●日本郵便、アマゾンの動きで物流サービスに変化?
ヤマトと佐川を追う日本郵便は、不在票のリスクを限りなくゼロにした「ゆうパケット」を昨年6月にサービス開始した。厚さ3cm以下の荷物なら受け取りの認め印不要で、ポストに投函するが、これまでの「ゆうメール」とは異なり追跡サービスもある。この「ゆうパケット」の利便性に注目したアマゾンとともに、「ゆうパケット」が入る受け口の広いポストも開発したほどだ。
この動きに対し、ヤマトがメール便に代わって4月から打ち出す新サービスは、厚さ2.5cm以内の荷物をポストに投函する宅配だ。新サービスの競争が注目される。
また、サービス競争に影響を与え続けるアマゾンの動向も気になる。将来的にスーパーが牙城としてきた生鮮食品の販売にも乗り出す。
「すでに米国では、生鮮食品を扱う『アマゾンフレッシュ』を西海岸の大都市から順次拡大している。さらに昨年12月にはニューヨークで、7.99ドル(約950円)を支払えば注文から1時間以内に商品を届ける『プライムナウ』という会員サービスも開始した」(同特集より)
「速さ」が決め手になる生鮮食品などを宅配する準備を着々と進めているのだ。
●悲鳴を上げるトラックドライバー
「SAPIO」(小学館/1月号~3月号)は、こうした苛烈な企業間競争に労働者側から迫っている。それが同誌渾身のルポ、『短期集中連載 仁義なき宅配』だ。ジャーナリスト横田増生氏が価格競争の続く「宅配ビッグバン」の現実に迫ったもので、第1回(1月号)の『宅配ドライバーの1日は宅配ボックスの争奪戦で始まる』では、ヤマトの下請け業者の助手席から現場をルポ。「ヤマト運輸にとって『最大手の荷主』となったアマゾンの荷物は全体の3~4割程度」(同記事より)といい、再配達を減らすために、朝8時半までにマンションの宅配ボックスをどれだけ確保できるかを佐川、日本郵便と競い合う状況だという。
第2回(2月号)の『シェア業界2位の佐川急便はなぜ配達遅延“パンク”を起こしたか』では、佐川の下請け業者の幹線輸送車(夜中に長距離を走る大型車)に同乗してルポ。
「翌日配達を基本とする宅配便にとって、夜間の幹線輸送は切っても切り離せないほど重要である。しかし、黒子的な存在であるためと、その9割以上を下請け業者が請け負っているという理由から、これまでその実態が活字になることはほとんどなかった」(同記事より)
間違った方面の荷物を一個でも積み込むとドライバーの責任で、正しい拠点まで再度ハンドルを握って運ばなければならないという。「急ぎの荷物だったので、自分で届けることもできず、赤帽を頼んで届けてもらいました。10万円近い代金は自腹で払いました」と語るドライバーの声もある。こうした過酷な現実に下請け業者は悲鳴を上げ、配達遅延パンクを起こしたのだ。
第3回(最終回・3月号)の『ヤマトドライバー「サービス残業」の憂うつ』では、多い時は月に90時間から100時間ぐらいサービス残業をする現実に、抑うつ状態になったドライバーを紹介している。
「即日配送」や「時間指定」といったサービスの高度化の一方で、労働者の負担軽減は後回しという現状は見直しを迫られそうだ。利用者の側も「『午前指定』のはずなのに『午前にこない』」などという怒りのツイートを見かけることがあるが、こうした現実を知れば、過剰なサービスが労働環境のブラック化に直結していることに気が付き、その日に届くだけでもありがたい、となるはずだ。
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150304-00010008-biz_bj-nb&ref=rank&p=1
2013.09.29
ダイヤモンド」vs.「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(9月第4週).
佐川急便、アマゾンの負担転嫁に耐えられず取引停止…ヤマト一極集中への懸念
ヤマト運輸 HPより
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/9月28日号)は、極めて中身が濃い。まず巻頭コラム「経済を見る眼」「消費増税とオリンピック景気」では、東京大学大学院教授の伊藤隆敏氏が登場。財政再建派の伊藤氏は2015年に10%となる消費税率を、東京オリンピック開催前に20%に引き上げよと提言している。
「オーストラリアが00年のシドニーオリンピックの数週間前に、10%の付加価値税を導入した」「オリンピックに来る観光客にたっぷりと税金を払ってもらおうという抜群のタイミング。日本も財政再建のために、20年の前にぜひ消費税率を10%から20%に引き上げ、財政再建を盤石なものにすべきだ」という。英国でも、昨年のロンドンオリンピック直後に付加価値税の増税があった。オリンピック開催には、消費増税話がセットで議論されるようだ。
消費増税がらみとして、ニュースコラム「ニュース&リポート 法人版マイナンバー導入で何が変わるのか」で、16年に個人版と同時に法人版のマイナンバー制度も始まるというニュースを紹介している。個人版のマイナンバー制度では、国民一人ひとりに番号を割り振って、所得や納税実績、社会保障に関して一元的に管理するというもので、企業版も同様に企業1社ごとに共通番号が割り振られ、行政機関は事務作業の効率化を図ることができるのだ。消費税の軽減税率導入の際には(軽減税率の確定作業のために)法人番号が欠かせないこともあり、開始に向けて動き出している。
法務局の会社法人番号、厚生労働省の労働保険番号、社会保険事業所整理番号などに企業間の受発注の伝票データとバラバラの縦割り番号の問題が一気に解決される。企業としても歓迎すべきことだが、当然ながら税務署や国税庁にとっても、法人税や消費税についてのチェックがしやすくなるために、いろいろと抜け道を模索している企業にとっては、新たな対策も必要になってくるだろう。
●ヤマト運輸に重くのしかかる負担
同誌は第1特集「物流 最終戦争」で、物流業界に迫っている。「日本の物流業界の勢力図は、ネット通販の巨人、アマゾンが決めている。佐川急便の取引返上の深層とは。そして王者ヤマト運輸は次世代戦略をどう描く」という内容だ。
売り上げ拡大一辺倒だった佐川急便の顧客に対する値上げ交渉が9月末で終了する。驚きをもって迎えられたのが、ネット通販大手、アマゾンとの取引のほとんどを返上したことだ。
「アマゾンは当日配達地域の拡大、送料の無料化など、配送サービスの拡充を強力に進めてきた。その負担を転嫁されることに耐えられなくなった佐川は、大幅な値上げを持ちかけて決別した」。SGホールディングス(佐川グループの持ち株会社)の栗和田榮一会長は「海外では、サービスをすればきちんと対価を払うのが原則。よいサービスをしても、ろくに払ってもらえないのではおかしい」と語り、採算重視路線への転換を決めたのだ。
アマゾンの宅配便は事実上の「ヤマト一極」となったが、不安材料がある。「佐川の分まで引き受けて、今後も荷物が増加し続ければ、ドライバーをほとんど正社員で抱えるヤマトの負担は際限なく膨らむ」のだ。
また、ネット通販業界では、産地から直接出荷・販売している業者(産直業者)や、メーカーの通販を囲い込む動きが活発だ。アマゾンのマーケットプレイスや楽天のスーパーロジスティクスといったサービスがその典型だ。
「彼らの使う物流センターが急ピッチで増設されている。アマゾンが9月に世界最大級の物流センターを神奈川県小田原市で稼働させたほか、楽天も今後2年ほどで全国に6つの大型物流センターを新設する」
「アマゾンや楽天も、われわれにとっての競争相手になる可能性がある」とヤマト関係者が語るように、物流をめぐる戦いは業種の壁を越え、顧客企業といえどもライバルになる、激しい時代を迎えているのだ。
●コーヒー市場で激しい争い
第2特集は「激変! コーヒー市場最前線」というタイトルで、コーヒー市場の争いを解説している。
コンビニエンスストア最大手、セブン-イレブン・ジャパンが今年1月に発売したカウンター販売のいれたてコーヒー「セブンカフェ」が絶好調。当初想定していた1店舗当たり1日平均60杯を大きく上回り、100杯に迫る勢いだという。9月末をメドに全国約1万6000ある全店の導入を完了し、年間450億円以上を売り上げるメガ商材になる公算が大きい。コンビニが扱う商品の平均的な粗利益率は3割前後だが、コーヒーは5割以上とうまみの多い商品で、牛丼店のすき家も販売を始めているほどだ。
こうした現状に危機感を持つのが、缶コーヒー業界だ。缶コーヒーの売り上げは前年同期比4~5%ダウンが続く。新たなブランドを開発し、市場開拓にも乗り出しているという。日本コカ・コーラも38年ぶりの新ブランド「ルアーナ」を発売した。
インスタントコーヒー業界でも、ネスレ日本が「脱・インスタントコーヒー」として、53年間使ってきたインスタントコーヒーの呼称を「レギュラーソリュブルコーヒー」に全面刷新し、新たな顧客を目指す戦略に出た。
カフェチェーン業界では、スターバックスが9月に日本進出18年目にして、総店舗数が大台の1000店を突破。店舗数首位のドトールコーヒー(約1500店)にも迫りつつある。
セブンの参入が引き金となって業界を活性化させる。競争が商品やサービスの質を高める好例といえるだろう。今後の展開に注目だ。
(文=松井克明/CFP)
http://biz-journal.jp/2013/09/post_2999.html