本気の身代金引換要求ではない形跡がある。
テロ人質事件その後
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池田 元彦
日本を含む有志連合に対する実力誇示、世界のテロ組織へのIS(イスラム 国)支持糾合、国際社会へのIS認知と恐怖拡大PRがISの目的だったよう だ。日本政府との直接交渉をせず、身代金から筋違いの人質交換、見せしめ殺害迄、一貫して本気の身代金引換要求ではない形跡がある。
危険地域への渡航中止・引揚は、日本政府は要請出来るが強制力は一切な い。外務省も後藤健二氏に直接3度に亘り面談も含め渡航中止を要請した が、自己責任で行くと主張された為、術がなかった。本気で政府に強制力 を持たせたいなら、相応の法令整備、憲法改正を想定すべきだ。
平和憲法の制約による自国民救済の為の自衛隊海外出動、特殊部隊による 拉致犯罪組織への直接の急襲も人質救出も出来ない。又CIAのような(あ る意味法律無視の)国外活動も不可だ。そもそも大前提となる、テロ組織 との交渉ルートさえ持たず、情報収集も出来ていないのが現状だ。
ダッカ事件で、テロ集団の600万ドル現金要求に対し、200万ドルしか現金 がなく、急遽米国の支援で400万ドルを空輸し、正式旅券を発行してや り、服役中だった犯罪者の日当迄支払うという大間抜けの首相がいた。以 降無差別テロや人質ビジネスが世界に拡散した、と佐々淳行氏は言う。
危険地域に身の危険を顧みず、取材し映像を世界に発信する一連の行為 は貴重で、通常の人は出来ない。しかしその貴重な映像は、5分10分で300 万から500万でTV局が買ってくれる。
冷めた表現で言えば、ハイリスクハ イリターン(危険度高く高収益)の 請負ビジネスに過ぎない。
政府の命令や企業の派遣要請での危険地域渡航は、それぞれ政府、企業 の責任問題だ。自分の意思で、政府の渡航中止要請に拘らず渡航する以上 は、自己責任で行くしかない。
政府は救出努力出来るが、本人や家族の思 いや嘆きはあろうとも、結果 責任を受け入れる覚悟が必要だ。
後藤氏の母親は、福島瑞穂議員等社民党や田中稔ジャーナリストに乗せ られ、安倍首相へ面会を求め当然拒絶され、参議院議員会館で会見をし た。意図は不明だが、前回同様息子の命よりも別の何かが頭にある印象は 拭えない。政府への救出依頼も、政府批判を誘発させる響きを感じる。
IS側が日本国内情報を正確・迅速に掌握しているようだ。日本語の読み 書きが出来るネット上を含め複数の人間の介在を想定させる。意図有無に 拘らずISを利している関係者がいるのだ。
テロに屈しないことでは新聞・TVも冷静な報道が大半を占めるし、国民も 概ね同感している。が、TBSサンデーモーニングの岸井成格特別編集委員 の発言には驚いた。ISとの約束を守らない、という。一方的なテロ組織が 主張する期限はあっても、誰も約束等していない。倒錯が甚だしい。
元々この番組は、毎日新聞とTBSの反日クラブのようなものだが、岸井氏 の言葉は異常である。
朝日は安倍首相発言を批判し、軍事支援でなく難民の命を繋ぐ支援をし、 国連中心の人道外交をせよと社説に書く。その心は、集団的自衛権、自衛 隊派遣、軍事力増強への牽制と批判である。
反日言論人は、本末転倒の発想をする。日本政府にもっと努力せよとい うなら、国防軍、自衛隊派遣、テロ組織等の情報収集と分析組織等の設立 を求めよ。テロ組織と話合交渉等もっての外だ。
ISは国家ではなく単に巨大化した無差別テロ組織だ。異教徒や非服従の人 は、神の名において虐殺でも奴隷にもする。注目すべきは、最大の敵イス ラエルを敵のリストに入れていない。イスラエル
の軍事的反撃に遭えば、 自らの壊滅を招くので「自己責任」で敬遠しているに過ぎない。
内調軸に強力な情報機関を作れ
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杉浦 正章
テロとの「情報戦」はこれからだ
「日本人殺害効果」に味を占めて、今後の殺害も予告したという事はイス ラム国(ISIL)の日本に対する宣戦布告に他ならない。国会での共産党や 民主党による陳腐な「首相の言葉尻の揚げ足取り作 戦」に首相・安倍晋三 はかかわずらっている時ではない。
言葉尻などISILですら問題視していないし、国際的にも全く問題になって いないではないか。安倍は事態を国家安全保障における大きな転機ととら えて、対策を打ち出さなければならない。その柱 に自衛隊の人質救出能力 創設を掲げたのは正しい。
今回の事件を通じて露呈したもう一つの安全保障上のウイークポイントは 情報収集能力である。これを飛躍的に拡充する必要がある。それには首相 直属の機関として日本版CIAともいえる情報機関の 早期設置が不可欠だ。
既にある内閣情報調査室を核として拡大を図り、これに諜報能力も付与し た、新組織に発展させる必要がある。首相・安倍晋三はテロ直後に「情報 戦」を宣言した。テロに対する情報戦はこれから 始まるのだ。
今回の人質事件の情報の動きを見ていると、最初に一番気になったのがテ ロ2日前の1月18日に安倍との会談でイスラエル首相のネタニヤフが「世界 的にテロの動きに直面している。日本も巻き込まれ る可能性があり、注意 しなければいけない」と忠告した点だ。
なんで唐突にと首を傾げたが、イスラエルのモサドは世界に冠たる情報機 関であり、その情報に基づいている可能性が高いと思い直した。
問題はモサドに近い内閣情報調査室がその情報を得ていたかどうかだが、 これは分からない。しかし安倍の国会答弁で4日新たに出てきた事実は、 日本人2人の人質がISILに拘束されたのかどうかが はっきりしない点だ。
安倍は「残念ながら我々は20日以前の段階ではイスラム国と特定できな かった」と発言しているのだ。これは日本の情報収集機能がいかに弱いか という問題を投げかけている。
その弱い情報収集能力をいかに高めるかが、国家的にも死活問題として浮 上したのが今回の事件だ。内閣の情報の中枢は内調だが、その規模は内調 プロパー約70人、警察庁からの出向派遣者約40 人、公安調査庁からの出向 派遣者約20人、防衛庁からの出向派遣者約10人、外務省、総務省、消防 庁、海上保安庁、財務省、経済産業省等から若干名の計約170人だ。
米CIAが推定2万人、イギリスのM16は2,500人、モサドが1500~2000人と比 べて、比較にならない人数である。筆者は内調室長が下稻葉耕吉時代から 11代30数年にわたって主要紙幹部と内調室長との 月1回の昼食会を調整し てきた。
歴代室長は警察畑で総じて優秀だったが、外国紙の切り抜きばかりやって いた室長も約一人居た。情報はなかなか漏らさず、こちらが政局の情報や 見方を教えるケースの方が10倍ぐらい多かった が、それでも時々きらりと 光る情報があった。
もっぱらCIA情報と時にはモサド情報とみられるものがあった。少人数 にしては立派な情報組織である。
そもそも内調は吉田茂が1952年に設立した組織で、吉田はこれを土台にし て日本版CIAを作ろうと考えていた。副総理・緒方竹虎を中心に構想が 練られたが、緒方の死とマスコミの反対でとん挫 した。
当時は左傾化していた読売を先頭に、朝日、毎日が「戦前の情報統制の復 活」ととらえて猛反対したのが大きな原因である。現在の内閣が抱える情 報面での最大の課題は、諜報による直接情報が少 ないということであろう。
安倍は防衛駐在官の数を増やす方針だが、これははっきり言ってそれほど の効果は期待できない。当分は友好国の情報に頼らざるを得ないのだが、 これは人質の救済を他国に依頼するのと全く同じ で、テロ多発時代に対応 できるものではない。
何度も繰り返すが20年の東京オリンピックが今のま までは標的にされ る。少なくともされ得ることを目標に設定して早期に体 制を整える必要 がある。
それには新組織などを作っていても間に合わない。内調を中核として、 少なくとも1000人規模の情報機関に徐々に脱皮させる必要がある。マスコ ミの論調は吉田の頃と異なり、「テロ対策」という錦 の御旗にそれほどの 反対はないだろう。
少なくとも読売、産経は推進に回るだろう。安倍は ISIL事件を契機に、 今年を「安保維新元年」ととらえて、躊躇せずに国家 の弱点の修正に取 り組むべきだ。これは安倍しか出来ない し、避けて通れ ない道でもある。
欧米主要国でもテロ対策強化は喫緊の課題となってい る。カナダ首相の ハーパーは1月30日、国内でのテロ行為を未然に防ぐ ため、情報機関や 捜査機関の権限を大幅に強化する法案を議会 に提出し た。
昨年10月に国会議事堂で発生した銃乱射テロなどを受けての措置 で、議 会は与党が多数を占めるため成立は確実だ。日本も現実を見据えて 見習 うべきだ。