【辛坊持論】脅迫に屈しない後藤さんは本物のジャーナリスト | 日本のお姉さん

【辛坊持論】脅迫に屈しない後藤さんは本物のジャーナリスト

【辛坊持論】脅迫に屈しない後藤さんは本物のジャーナリスト
スポーツ報知 2月1日(日)18時3分配信
 なぜ、殺害されたとみられる湯川遥菜さんの写真を持つ後藤健二さんの映像は静止画だったのか?
 殺害予告画像の中の湯川さんは、ふっくらと「健康そう」でした。恐らくこれは、かなり前に撮影されたものでしょう。それを安倍総理の中東歴訪に合わせて合成したんですね。
 湯川さんは、2億ドルの日本の支援とは関係なく殺害されていた可能性があります。一方で最新の投稿画像は、直近に撮影されたもののようです。後藤さんの頬はこけ、顔や体に明らかな暴行と虐待の痕跡が見てとれます。
 湯川さん殺害か?の第一報を聞いてすぐにネットを検索すると、「後藤さんとみられる男性が、英語で『仲間のハルナ・ユカワがイスラム国の土地で殺された写真』と説明している。」などという記述に出くわしました。また多くのニュースサイトで、「後藤さんとみられる男性」が安倍首相にヨルダンの死刑囚の解放を呼びかけ、命乞いするコメント内容が掲載されていたんです。これらはかつて米英の人質が、アメリカの政策をののしった上で結局殺害されてしまった光景を想起させ、私も一瞬「後藤さんは脅されて、言いたくないことを言わされたんだな」と思いました。
 しかしその後、実際に犯行グループがアップした動画の現物を見て、私の理解が全く間違っていたことに気が付きました。静止画にかぶせてしゃべる「後藤さん」の声は、日本人が話す英語ではないと思われます。つまり、誰かが後藤さんを演じてアフレコしたんですね。イスラム国入りする直前に後藤さん自らが語っていた「すべて自分の責任」という信念を貫くために、どんなに脅されても犯行グループの主張を自分の口で語るのを断固拒否したってことです。だから犯人たちは静止画を公開するしかなかったんです。
 私は、後藤さんの命がけの抵抗を軽んじ、後藤さん本人が命乞いをしたかのように誤認させた一部メディアの配慮のなさに怒りを覚えます。もちろん、本当に怒るべきは、善良な市民の命を虫けらのように奪う犯人たちですけどね。
 理不尽で無法な脅迫に屈しない後藤さんの気高い姿を、私は決して忘れません。この人、本物のジャーナリストです。心から生還を祈ります。((株)大阪綜合研究所代表・辛坊 治郎)

<日本人拘束事件>海外での情報収集能力 日本の実力は? 軍事ジャーナリスト・黒井文太郎
THE PAGE 2月2日(月)13時0分配信
2月1日、「イスラム国」(IS)は拘束していたジャーナリスト・後藤健二氏を殺害した動画をネットに公開しました。もう一人の人質だった湯川遥菜氏とともに脅迫動画がネットに公開されたのは1月20日。日本中がその安否を気遣い、なんとか助かって欲しいと願ってきましたが、最悪の結果となりました。ではその間、日本政府はどのような対応をしていたのでしょうか。
過激派組織「イスラム国」による日本人拘束事件で、政府はヨルダンに現地対策本部を設置した
1月20日の「動画」公開までの動き
1月27日に菅官房長官が明らかにしたところによると、日本政府は湯川氏拉致が発覚した後の昨年8月16日に、在ヨルダン日本大使館内に現地対策本部を設置し、翌17日に総理官邸内に情報連絡室、外務省内に対策室を設置したとのこと。その後、11月1日にこれらの対策部局に後藤氏の案件も加えたとのことです。
在ヨルダン日本大使館に現地対策本部を設置したのは、現在、在シリア日本大使館が閉鎖され、その機能が在ヨルダン日本大使館に移設されていたからです。それ自体は適切な措置といえます。
その間、日本政府がどのような活動をしていたのかは不明です。イスラム国側と直接交渉があったかどうかもわかりません。今回脅迫動画が公表された後も、政府は直接の交渉はないとの見解を示し続けていましたが、ことは誘拐事件であり、必ずしも情報を公開すべきものではありませんから、真相はわかりません。
推測ですが、おそらく日本政府は関係各国に協力は求めたでしょう。ヨルダン、トルコ、アメリカなどです。シリアのアサド政権にも接触したかもしれませんが、日本政府とアサド政権は断交状態にありますので、実際のところは不明です。
ただし、どれほど力を入れて情報収集や交渉の試みを行っていたかはわかりません。少なくとも、イスラム国の一部勢力に人脈のあるイスラム法学者の中田考氏、ジャーナリストの常岡浩介氏に協力を求めたことは、なかったようです。
情報収集能力は日本の弱点
その後、1月20日に最初の脅迫動画が公表され、事態はいっきに緊迫しました。日本政府はこの時点から、本格的に対応を迫られることになります。同日中に外務省と首相官邸に対策室が設置され、中山外務副大臣がヨルダンに派遣されて、現地対策本部の指揮をとることとなりました。
ただし、いきなりそれで日本政府の情報力がアップするものではありません。日本政府としては、やはり関係国に協力を要請することと、イスラム国との交渉の仲介役を求めて、現地のイスラム系団体や有力なイスラム法学者などに接触することぐらいしかできなかったようです。
 交渉の前提として情報は欠かせませんが、これは日本の弱点でもあります。日本政府にも、海外の治安情報などを収集・分析する部局はありますが、こうした国際テロ事案において、独自の情報ルートなどはありません。それは優秀な情報要員が長い年月と資金をかけて、地道に人脈を開拓するしかないのですが、そうした活動を日本は重視してきませんでした。事件が発生したからといって、急ごしらえでは対応できないのがインテリジェンスの世界です。
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「国際テロ」情報を扱う役所は5つ
 では、日本の対外情報収集・分析体制はどうなっているのでしょうか?
 日本で国際テロ関連の情報を扱っている主な役所は5つ。「内閣情報調査室」「外務省」「警察庁」「防衛省」「法務省」です。その他に、海上のテロに関して「国土交通省海上保安庁」が加わります。これらの省庁が情報を収集・分析し、それが「国家安全保障局」に集められ、さまざまな対策の選択肢が検討されます。国家安全保障局は国家安全保障会議の事務局という位置づけですが、そこで検討されたものが事実上、政府が判断を下す元資料となります。国家安全保障局を情報収集の総元締めとカン違いしている言説を散見しますが、同局の機能は情報収集ではなく、各関係省庁から提供された情報を元に、あくまで政策の検討をすることです。
 ただし、国家安全保障会議と国家安全保障局は新設されたばかりのものであり、それが完全に一本化されているかというと、そこは微妙なものがあります。こうした重大案件では、実際には官邸の対策室が事実上の司令塔になることが多く、日日刻々と入ってくる情報は、各省庁からそこに報告され、官邸が独自に判断することも少なくないようです。
情報量が一番多いのは外務省
 なお、こうした案件でもっとも情報量が多いのは、やはり外務省です。アラブ世界に精通した職員が多いからです。外務省には「国際情報統括官組織」という情報分析専門部局もありますが、こうした事件の場合はやはり「中東アフリカ局」が中心に動くことになります。とくに、なんといっても現地の事情は現地の日本大使館がもっとも把握しており、現地の人脈も豊富にあります。これらは中東アフリカ局が取り仕切っています。
 警察庁では、警備局外事情報部の「国際テロ対策課」が中心になります。今回、ヨルダンの現地対策本部には、国テロ課が編成する現地派遣チーム「国際テロリズム緊急展開チーム」(TRT-2)と、外事情報部「外事課」の「外事特殊事案対策官」が派遣されています。TRT-2は現地治安当局に協力しつつ、情報収集も行いますが、常設のチームではなく、国際テロ対策課の職員を中心に、各都道府県警の職員が持ちまわりで指名されており、事件発生にともなって緊急招集されます。外国治安機関との連絡担当、情報分析担当、人質事件の交渉担当などもいますが、鑑識などの科学捜査の捜査員が多く任命されています。他方、外事課の外事特殊事案対策官は、テロ事件に限らず海外で日本が絡んだ突発的事態に対処するのが担当です。
 ただ、こうしたチームが急に現地入りしたからといって、すぐに深い情報活動ができるわけではありません。警察庁の場合も、外務省出向のかたちで現地の日本大使館に派遣されている職員がもっとも情報ルートを持っています。通常は「警備対策官」として派遣されていますが、「書記官」の身分で派遣されている場合もあります。また、外事情報部は正式な派遣のかたちのほかにも、長期出向のかたちで随時、捜査員を海外に派遣しており、現地の治安・情報当局との接触を図っています。
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公安調査庁や防衛省も
 また、内閣情報調査室や法務省の「公安調査庁」からも、職員が外務省出向のかたちで現地の大使館に派遣されている場合があります。彼らは彼らで、独自に情報活動を行います。現地の治安部局との接触もありますし、おそらく現地のアメリカ大使館の司法アタッシェなどとも交流があるものと思われます。人によっては、アメリカのCIAやイギリスのSIS(通称・MI6)との情報ルートがあるかもしれませんが、そこは完全に水面下の話になります。
 防衛省の場合は、活動の主力は主に「防衛駐在官」ということになります。防衛駐在官は任地国で現地の軍・国防当局と日常的に接触していますが、おそらくやはり現地派遣のアメリカの駐在武官との接触もあります。こうした国に派遣されるアメリカ駐在武官は主に情報将校ですので、そうした情報ルートもテロ事案では非常に重要になります。
 ただし、防衛駐在官が入手した情報は、防衛省で情報を統括する「情報本部」だけでなく、外務省にも報告されます。
日本は極秘スパイ活動は行わず
 このように、日本政府にも、制度としての情報収集ラインは存在します。
ただ、日本は諸外国とは違い、とにかく現地で問題となるような活動は厳禁されており、極秘のスパイ活動などは一切していません。たとえば、諸外国では偽名旅券を発行し、身分を偽装して情報要員を送りこむなどを日常的に行っていますが、日本からの情報要員はすべて本名の旅券を携帯し、身分がバレバレのまま現地国に赴任します。使える活動費も、非合法組織に与えるなどということはまず行っていませんし、あくまでオモテの情報活動に終始しています。
 それも無駄ではありませんが、いざ重大事件が発生したとき、それだけでは不十分ということになりがちです。
 また、日本にはこうした各省庁の情報担当はいますが、日本政府の専門の情報機関がありません。世界では、国際テロなどの機微にかかわる微妙な情報は、各国政府の情報機関同士の同業者サークル内で交換されていることが多いのですが、日本の場合はそこに入れる要員がいないということになります。
また、そうした情報の世界では、情報はバーターが常識であり、こちらから提供できる有用な極秘情報がなければ、いかに同盟国といえども、相手から有用な極秘情報を得られることはあまりありません。
 日本の対外情報部門には、まだまだ課題が山積しているといっていいでしょう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150202-00000003-wordleaf-pol
【人質事件を契機に考える】海外邦人の安全をどう守るか? 菅原出・国際政治アナリスト
2015.02.01 10:00
 過激派組織「イスラム国(IS)」による日本人人質事件を契機に、海外にいる日本人の安全をどう守るかについての懸念が強まっているようです。2013年1月にアルジェリアのイナメナスで人質テロ事件が発生した時にも、海外邦人の保護についての議論が盛んに行われましたが、今回の事件を受けて、日本政府の邦人保護体制や今後の対策について考えてみたいと思います。
 イナメナス事件では、テロに巻き込まれた民間企業に対して、日本政府が事前に十分な情報を提供できなかったり、現場の状況把握が遅れたことから、事件後「官民協力」の必要性が叫ばれました。その後、外務省と民間企業との間で定期的な官民協力セミナーが開催され、両者の人的交流や情報交換の機会も増え、平時からの情報共有や緊急時の協力体制などの面で大きな前進が見られています。
 一方、ジャーナリストや旅行者のように海外の危険地に行く個人については、外務省側から危険情報などを配信して注意喚起を行う以上のあまり有効な手だてがないのが現状です。外務省は個人の旅行者向けには、「たびレジ」という新たな制度を導入しており、旅行日程、滞在先や連絡先などを登録しておくと、万が一滞在先でテロや暴動などの緊急事態が発生した際には登録した個人に緊急連絡が入る仕組みになっています。
 しかし、シリアのように外務省でさえ大使館を閉鎖している国においては、当然に政府の情報収集能力も限られるので、十分な注意喚起も、邦人に事故などが発生した際の救援などもできません。このため、外務省はシリア全土を4段階の渡航規制でもっとも厳しい「退避勧告」地域に指定して、「退避を勧告します。渡航は延期して下さい」と呼び掛けています。
 アフガニスタンも同じように「退避勧告」地域に指定されていますが、同国では日本大使館が今でも活動をしており、日本人の現地への渡航を厳しく規制しています。アフガニスタンの場合は入国に際してビザの取得が必要ですから、日本政府はアフガニスタン政府と協力して日本人へのビザ発給を制限することができます。実際駐日アフガニスタン大使館にビザを申請するには、外務省の添え状が必要になりますので、外務省側はアフガニスタン渡航を希望する日本人の存在を事前に把握し、渡航を見合わせるように個別に伝えることができます。
 しかし、シリアに行こうとするジャーナリスト等は、トルコに渡航した後にトルコとの陸上国境を越えてシリアに入国するので、日本政府が彼らの動きを把握することは非常に困難です。トルコには観光客だけで年間35万人近くの日本人が訪れますので、その中の誰がシリアに渡航する気があるのかを事前に調べて渡航見合わせを要請するなど、事実上不可能でしょう。これは各国とも同じであり、シリアへ渡航する外国人戦闘員の流れを止められない理由の一つとなっています。
 海外で危険に遭遇するリスクを下げるには、現地の情報をしっかり収集して、事前に注意しなければいけない地域やエリアを把握し、犯罪などの傾向や手口を知り、各自が気をつけるしかありません。そのための情報は外務省の海外ホームページ等で十分に得ることができます。また「たびレジ」なども極めて画期的なシステムです。
 しかし、ジャーナリストのように危険な地域に入ることで仕事をしている人たちは、自分の旅程を外務省に知らせれば止められることを知っていますから、当然外務省に事前に「これからシリアに行ってきます」とは伝えないでしょう。また、たとえ外務省が事前に知ったとしても、「どうしても行きたい」と希望する個人の権利を制限することは困難です。
 危険を承知で紛争地や戦地に赴くジャーナリスト等の安全を、現在の政府の邦人保護の仕組みで守ることは困難ですし、そうしたジャーナリストたちも政府に守ってもらうことを期待していないでしょう。海外でビジネスをする駐在員や観光客等の安全を守ることと、戦場ジャーナリストの問題は、同じ「海外における邦人保護」という言葉で括れない全く別の性質の問題であることを、しっかりと認識することが大事だと思います。
菅原出(すがわら・いずる)
国際政治アナリスト、危機管理コンサルタント。米国の対テロ政策、中東など紛争地域の政治・治安情勢に詳しい。著書に『秘密戦争の司令官オバマ』(並木書房)、『リスクの世界地図』(朝日新聞出版)などがある。
http://thepage.jp/detail/20150201-00000002-wordleaf?pattern=1&utm_expid=90592221-19.P1xkJfdRQAOWrZ2xt_UEZg.1&utm_referrer=http%3A%2F%2Fheadlines.yahoo.co.jp%2Fhl%3Fa%3D20150202-00000003-wordleaf-pol%26p%3D4