自由言論の闘士、ジミー・ライ(黎智英)の自宅には火炎瓶が投げ込まれた。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成27年(2015)1月13日(火曜日)弐
通巻第4439号
自由言論の闘士、ジミー・ライ(黎智英)よ、何処へ行く
香港にささやかに残った「言論の自由」もなくなってしまうのか?
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香港の「占中」(セントラル地区を占拠せよ)運動は「雨傘革命」とも呼ばれる。
十二月にようやく収束し、「道路交通法」違反容疑などで指導者百名以上が逮捕され、その中に大スポンサーといわれ、デモ行進でも先頭をあるいたジミー・ライ(黎智英)も含まれていた。かれは十二月三日に釈放された。
ジミーは十二歳の時に広東省から香港へ流れ込んだ。
苦労して留学し、英語をマスターし、やがて香港へ舞い戻り、ファッシン小売りチェーン「ジョルダーノ」(中国のユニクロ)の経営で当てた。
その軍資金で日刊の「りんご日報」を創刊した。グラフィックを主力に新鮮な紙面作りだったので、爆発的に売れた。
香港返還前から、香港のマスコミは中国共産党の顔色をうかがうようになり、共産党系の「文ワイ報」「東方時報」「大公報」などは共産党礼賛、英字紙の「サウスチャイナ・モーニングポスト」と「香港のウォールストリート・ジャーナル」と言われた「明報」とて、広告の激減(北京がスポンサーに圧力をかけるため広告主が出稿をためらう)という深刻な事態に直面し、批判のトーンがダウン。やがて「サウスチャイナ・モーニングポスト」(南方早報)は身売り、最初は新聞王のマードックが買い、その後は共産党寄りのマレーシア華僑が買収した。同紙から往時の鋭角的な共産党批判は薄れた。
果敢な報道をつづけた「リンゴ日報」を目の敵とした中国共産党は、ジミーが経営していたジョルダーノの広東の弐店舗に放火して、警告した。かれはひるまず、ジョルダーノを手放して、むしろリンゴ日報の経営に専心した。同紙を運ぶトラックが襲われたこともあった。
こうした言論環境の中、果敢に言論の自由をもとめての創刊だったから、「リンゴ日報」はまたたくまに香港一のメディアに成長し、週刊誌『壱』も、そこそこの売り上げを示してきた。
ジミーは台湾にも進出し、新聞と週刊誌を発行した(いまは他の経営者に売却)。
▼「国際金融都市」が機能するには情報の透明性、正確さが必要
1996年だったと思う。
筆者は香港でジミー・ライにインタビューした。坊主狩りにジャンバー、あまりに若いので、彼が同社の応接室にはいってきたとき、私はお茶を運ぶ給仕かと間違えたほどだった。
会話で印象的なのは、言論の自由と香港の未来に関してだった。
ジミーは流ちょうな英語でこう言った。
「わたしはハイエクの信奉者。香港は国際金融のメッカ。つまり国際金融センターを今後も機能させようと中国共産党が考えるのであれば、(いくぶんの制約はあるかも知れないが)香港から言論の自由はなくならない。なぜなら市場というのは情報の透明性、その正確さによって成立するからだ」
ジミーは雨傘革命で逮捕された責任をとってリンゴ日報の社長を辞任した。「それでも個人的に民主化運動をささえる」と記者会見した。
その直後にリンゴ日報本社で放火未遂事件があり、ジミーの自宅には火炎瓶が投げ込まれた。
「こんな嫌がらせは過去にもしょっちゅうあったし、私はひるまない」と彼はウォールストリート・ジャーナルのインタビューに答えている(1月12日)
朝日新聞は、この言葉をいかに受けとめるのか?
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【知道中国 1185回】
――「我國萬世一統。所以冠萬國也」(日比野12)
「贅肬録」「没鼻筆語」(東方学術協会『文久二年上海日記』全国書房 昭和21年)
長崎での帰国第一夜。食事を終えて「窓ニヨレバ、燈火マタ山ヲ焼クゴトシ。ソノ景佳ナリ」。
折から長崎では、祖先供養の日々が続いていた。暗い夜空に、祖先を祭る灯か赤々と映えていたのだ。日比野の目と心に、祖国の美しさがいっそう深く染みたことだろう。「ソノ景佳ナリ」の6文字から万感の思いが伝わってくる。
千歳丸での日々を綴った「贅肬録」は、「(七月)十六日 晴 郷書ヲシタゝメ着船ヲ告ゲテ心快然タリ」の一行で終わっている。安着の知らせを故郷に届けたのであろう。
やがて「眼孔穴ヲナシ頤トガリ面色土ノ」ような面容も旧に復し「西土ノ辛勞」も癒え、気力も体力も回復したに違いない。3ヶ月ほどが過ぎた後、もう一つの上海滞在記である「没鼻筆語」を「文久二年戌十月上幹」の日付で著した。
冒頭に置かれた「没鼻筆語引」に日比野は、上海で交友を重ねた人物は数十人を下らなかったが、なにせ言葉が通じない。やむを得ないことではあるが、互いに相手を見つめるしかなく、そこで筆談ということになった。意気投合した6人との日々の会話を記録し、まとめた――と記す。
先ず日比野が、「かねて貴邦の文物を葵向(した)っており、思いがけずに今日という日を迎え素志を遂げ、これ以上の幸せはなし」と。すると相手が「長年、帰国の俊才を仰望していたところ、本日、ここでお会い致し、思慕の心を遂げることができました。長らく滞在され、御教えを願いたい」と。先ずは双方の社交辞令の後、日比野が「万里隔絶した間柄。今日、こうしてお会いでき、幸いこれに過ぎるものはない。私は『日本狂生』にて、同学を求めておりますゆえ、『請戰筆舌(筆舌にての戦いを所望致します)』」と切り出すや、相手は「甚是、甚是(望むところ)」と応じた。
詩文の交換を手始めにして、互いの教養の程度を探った後、やおら日比野が「いくつか尋ねたいが如何」と問い掛けると、「不敢當(ご随意に)」
日比野が投げ掛ける様々な質問の内容から彼が何に関心を持っていたのか、いいかえるなら何を探り出そうとしていたのかを知ることができるはず。そこで、以下、日比野が記録した順番に従って主な質問と返答を簡潔に示しておきたい。
●学校教育制度の変遷⇒歴史的経緯を踏まえた詳細に現状を説明
●目下の軍事最高指導者⇒曽国藩
●目下の軍事指導書⇒茅元儀が著す『武備志彙』
●国家にとって第一級の犯罪⇒殺人罪と反逆罪
●官僚の位階の弁別方法⇒被り物が官位の違いを表す
●子育て不能の場合⇒育嬰堂で引き取って育てるが、時に他人の義子となる
●病気の貧乏人に対する支援方法⇒金持ちの寄付金で経営される賜醫賜藥堂が担う
●かつては農業を勧める書籍があったと聞くが⇒現在は失われた
●堤防の修理方法⇒築城方法と同じ。板の中に土を入れ固く固める板築法
●通貨(銀貨)偽造の罪⇒死体を晒しものにする棄市
●貧乏な親に捨てられた子供の養育⇒各州県に設置された育嬰堂に委ねる
――この回答に対する日比野の感想は、「宋朝は慈幼局を設け、貧民の子弟を養育している。実に素晴らしいこと。貴邦の幼童養育の姿は宋朝の如きものだ」
●蝗などの害虫対策⇒官の報奨金を受け、庶民は害虫を捉え地中深くに埋める
●太平天国を避け上海に逃れる役人への処遇・罰則⇒目下は軍事費が膨大で、文官への俸給無配が続くゆえ上海への避難も致し方なく、職場放棄も処罰なし
《QED》
(ひいずみかつお氏は愛知大学教授。京劇、華僑研究の第一人者。本稿は小誌に独占的に連載されております)
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(読者の声1)1月31日、黄文雄先生を講師に「第21回台湾セミナー」を開催します。
台湾が地殻変動を起こしている。2014年11月末に行われた統一地方選挙で国民党が歴史的敗北を喫し、行政院長が辞任、馬英九氏も主席を辞任、呉敦義氏も副主席を辞任した。「9%総統」と揶揄される馬総統の低支持率に加え、国民党候補を大差で破って台北市長に当選した柯文哲氏の主張に象徴されるように、台湾の民意は政党間のイデオロギー対立を望んでいなかった。
それは立法院議場を占拠したひまわり学生運動を民意が支持した構図と同じだった。
そこで平成27(2015)年最初の台湾セミナーに本会副会長でもある台湾出身の黄文雄先生をお招きし、国民党敗北の真因や今後の台湾と中国・アメリカ・日本との展望をテーマにお話しいただきます。
セミナー終了後は、黄文雄先生を囲んだ新年会を開きます。
ご参加の方は申し込みフォーム、メール、FAXにてお申し込み下さい。
日本李登輝友の会
記
日時: 1月31日(土) 午後2時30分~5時(2時開場)
会場: 文京区民センター 3階 3-C会議室
https://www.yoyaku.city.bunkyo.lg.jp/reselve/p_index.do
演題: 台湾の統一地方選挙結果と今後の展望
講師: 黄文雄先生(文明史家、拓殖大学客員教授、本会副会長)
参加費: 1,500円(会員) 2,000円(一般) 1,000円(学生)
(当日ご入会の方は会員扱いになります)
申込みフォーム:https://mailform.mface.jp/frms/ritoukijapan/m85qxmzjhqch
・E-mail:info@ritouki.jp
・FAX:03-3868-2101
なお懇親会は講師を囲んで会場の近くにて参加費=男性:3,000円(女性2,500円 学生1,500円)
主 催:日本李登輝友の会
(読者の声2)宮崎先生の『吉田松陰が復活する』(並木書房)、なんとか読み上げました。難しいですねぇ。知らない人名がどんどん出てきて。ま、老生の不勉強がもろに出たわけですが、引用された古典も、現代語訳のところだけ読みました。でないと次に進めません。それはそれとして書き出しの「吉田松陰は旅人である」という入り方、良いですね。それから風景描写、文体があって、引き込まれるようでした。
この本、新古典ではないかと思います。
(HI生、愛知)
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(読者の声3)貴誌前号、李嘉誠の「奔香投欧」には衝撃を受けました。じつは香港駐在五年の経験があり、香港でビジネス界をリードする巨人はなんといっても李嘉誠ひきいる長江実業ですから、日本で言えば三菱と三井が日本からケイマンへ本社を移すような衝撃ではありませんか。
この事件が象徴するのは香港には未来がないということでしょうか?
(HU生、茨城)
(宮崎正弘のコメント)香港の言論は、それでもかなり自由ですし、書籍出版の世界では中国共産党をぼろくそに批判するものが香港の書店で相当売れています。
香港の街角や観光スポットでは法輪功が陣取って、機関誌やらビラをまいています。中国からの観光客は年間5000万人以上。法輪功の新聞をべつに不思議とも思わないで持ち帰っています。
言論の自由はなくならないでしょう。ですから未来を絶望視してはおりませんが、肝心の香港人の金持ちがはやばやと絶望して、豪へ、英国へ、そしてカナダへ渡りました。
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(読者の声4)貴誌を毎日のように拝読し、いつも貴重な情報をありがたく思っています。本当に、無料で読ませていただくのがもったいない気がしながら拝見しています。
ほかのメディアには有料のメルマガも多く、貴誌も無料版と有料版を分けたりなさると如何でしようか?
たとえ貴誌が有料になっても購読者は多いと思います。
(老婆心読者)
(宮崎正弘のコメント)小誌は海外取材や講演旅行中は休刊となることが多く、有料化の条件を満たせません。旅先にまでパソコンを担いでいる人をよく見かけますが、せめて旅先ではコンピュータから離れたい。
小生はツィッターやフェイスブックもやらないので、この方面での情報拡散にはついて行けません。
ともかく小誌有料化の考えはありません。拙著が、このメルマガが触媒となって書店でもっと売れることが相乗効果になるのではと思っていますが。。。
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松下村塾で孟子を論じた松陰が最後に熱烈に講義したのは兵学者としての『孫子評註』だった。この意味を現代的に検証しつつ、日本史の神髄を考える。
著者畢生の松陰論。書き下ろし!
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『「中国の時代」は終わった』(海竜社、定価1080円)
『中国共産党、三年以内に崩壊する!?』(海竜社、1080円)
『中国バブル崩壊が始まった』(海竜社、1080円)
『中国 大嘘つき国家の犯罪』(文芸社文庫、713円)
『中国の反日で日本は良くなる』(徳間文庫、680円)
『世界から嫌われる中国と韓国。感謝される日本』(徳間書店、1026円)
<宮崎正弘の対談シリーズ>
宮崎正弘 v 室谷克実 『仲良く自滅する中国と韓国』(徳間書店)
宮崎正弘 v 川口マーン惠美 『なぜ中国人とドイツ人は馬が合うのか?』(ワック)
宮崎正弘 v 石平 『2015年 中国の真実―中国は習近平に潰される』(ワック)
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