各国のリーダーが先送りした問題を解決する実行力を発揮することができるのかということが、トピックス
2013年1月9日発行JMM [Japan Mail Media] No.721 Monday Edition-7
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
Q:2013年最大の経済トピックスは?
◇回答
□津田栄 :経済評論家
■今回の質問【Q:1293(番外編)】
2013年最大の経済トピックスは、何だと思われますか。当面、どういった経済ニュ
ースに注目すればいいのでしょうか。 村上龍
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■ 津田栄 :経済評論家
「市場の期待にこたえる各国リーダーの判断と実行力」
2013年最大の経済トピックスはと言われると、正直言って、何があるのか、思いつくものがあまり見当たりません。昨年の2012年初めであれば、欧州債務危機が挙げられたと思います。
もちろん、その欧州危機が、住宅バブルの崩壊による金融・経済危機の傷が依然残って伸び悩んでいたアメリカ経済、金融引き締め、欧米経済の低迷を受けての輸出の鈍化により減速感が出てきていた中国経済、同様に成長が伸
び悩んでいたその他の新興国経済などに影響を与え、世界的な経済の減速懸念が意識されたといえます。
その一方で、日本では、2012年初頭は、野田前首相のもと、経済政策のアイデアがないなかで、リスク回避による円高、世界経済の伸び悩みによる企業の業績悪化懸念などから株式市場の下落、そして日本経済のデフレ、低迷が懸
念されていたように思います。
しかし、そうした世界経済に対する危機感が逆バネに働いたのか、2012年を通じて、欧州各国の度重なる会議や交渉などでとりあえず債務危機を乗り越えたかのように見えますし、アメリカでも、住宅市場に底打ち感が見られ、雇用状況にも改善の動きが出てきて、アメリカ経済に回復の兆しが見えてきました。また中国経済でも、金融緩和や公共投資による景気刺激策が採られ、減速感が緩和されてきているようです。
同様に、金融緩和などを行ってきたその他の新興国経済も下げ止まりがみられようとしています。
そして、日本では、年末の総選挙で、デフレ脱却を最優先に、インフレ目標の設定などの大胆な金融政策、目先の景気刺激策としての財政政策、中長期
的な経済成長戦略を打ち出し、自公連立の安倍政権が誕生して、その政策期待から円安、株高が続いています。
つまり、恐れていた世界経済の伸び悩み、あるいは不況が回避され、先行きへの期待から、世界の主要な株式が、2012年を終わってみれば、 年初よりも上昇した結果になっています。
そうすると、2012年当初懸念された経済危機を切り抜けてきたかのように見えますが、よく見ると、問題は目先の対応で先送りされており、依然くすぶり続けているなかで、先行きの経済への期待が現実に実現できない恐れがないのか、また切り抜けるために行われてきた各国の金融緩和政策の弊害がでてこないのかという問題もあります。
このように考えてみると、2013年最大の経済トピックスは、こうした欧州の債務危機問題、歳出削減を先送りしたアメリカの財政の崖問題、景気刺激策で浮上させようとしている中国などの新興国の経済的な矛盾の問題、そしてアベノミクスと言われる日本の安倍首相の経済政策の実現の問題など、世界が抱える問題を根本的に解決されるのか、そのために果敢に実行できるのかということになりましょう。
つまり、各国のリーダーが先送りした問題を解決する実行力を発揮することができるのかということが、最大の経済トピックスといえましょう。
具体的にみると、欧州債務危機は、5日の日経新聞の真相深層にも書かれていましたが、根本的な解決のために予定されていた経済・財政統合に向けた制度改革が先送りされ、一人勝ちのドイツに対して経済不振で悩む南欧諸国からの不満が強く、しかも景気浮揚のための財政出動を望む南欧諸国に対してドイツが財政健全化を要求する構図の中で、ユーロ諸国内での亀裂が生じる可能性があります。
その兆候は、これまで改革を突き進んできたイタリア・モンティ首相が、緊縮財政による国民生活への影響から、国民の人気を失い、辞任に追い込まれて、2月に総選挙が行われることに表れています。
それは、ギリシャやスペインなどでも同じ状況です。
債務問題を解決するために財政健全化の改革を行う必要はありますが、景気悪化をどこまで国民が我慢できるのか、そのための欧州の経済・財政統合の制度改革をどう進めるのか、
今年は欧州のリーダーの根本的な危機克服への決断が求められるし、その決断いかんによっては、再び世界経済に多大な影響を与えるといえましょう。
アメリカも、同じことが言えます。
確かに住宅市場は、ようやく回復の目が見え始めていますし、雇用も、4日発表の12月雇用統計によれば、失業率7.8%、非農業部門の雇用者数がほぼ予想通りの15万5000人と、6か月連続で10万人を超えています。
ただ、住宅市場の回復は始まったばかりで、その力は弱いといえます。
また雇用の回復の状況を見ると、雇用が増加しても依然としてパートが多く、またIT,航空、金融などの主要な業界ではリストラが続いている一方、日本でも起きたように根雪のように失業が構造化して長期失業者が減らない状況にあります。
そう見てくると、アメリカ経済は回復の兆しが見えてきましたが、依然として弱いといえましょう。
そして、そのような経済状況にあるのは、ぎりぎりまで解決を遅らせてきた財政の崖問題があるといえ、しかも今回、富裕層への増税については合意に至りましたが、歳出削減については2月まで先送りしたことが、経済が力強さを発揮できない要因があるといえます。
その意味で問題は先送りされただけで、依然として財政の崖問題をどう解決するのか、アメリカの民主・共和の議会指導者、オバマ大統領などのリーダーの決断が、求められているといえましょう。
中国についても、金融緩和と公共投資で経済の減速感が緩和され、再び安定成長に戻るかのように見えますが、一方で再び不動産バブルやインフレが起きるリスクが懸念され、同時に貧富の格差が拡大しているなかで、政府への信頼感が薄れてきていて、 政策がうまく効果を発揮できるのかという問題は解決されないままにあります。
こうした点で、今年は、中国の次期主席である習近平氏が、経済回復と不動産バブル・インフレをいかにバランスをとっていけるのか、また貧富の格差を縮小し、政府の信頼感を取り戻せるのかという問題を解決する決断と実行力が求められるといえましょう。
その他の新興国についても、金融緩和政策などで景気下支えしてきましたが、今後安定的な経済成長に復帰できるのか、各国リーダーは行動を求められるのではないでしょうか。
そして、今年、日本の安倍首相は、国民に訴えたデフレからの脱却、そのためにインフレ目標の設定の日銀とのアコード、あるいは景気回復のための短期的な景気対策としての財政政策、中長期的な経済成長戦略などが実際に行われるのか、その実行力が問われるといえましょう。
もちろん、ここまで円安が進むと、輸入物価により、物価全体がジワリと上昇する可能性があり、デフレからの脱却の可能性が出てきますが、
一方で労働者の賃上げなどが抑制されると、実質的に所得減少となって、国民生活が苦しくなりますので、デフレから脱却しても所得・国民生活の改善が起きないと、安倍首相への国民の支持が低下する恐れがあります。
また短期的に財政出動により景気回復を図るといっても、1000兆円にも膨らんだ政府債務の中で、よほど効果的・効率的な政策を打たないと、財政赤字だけが膨らみ、それが国民負担を増やして先行き懸念を高めたり、大きな金利上昇を招いたり、あるいは日本売りにつながるような株安、円安につながるなどの問題も起きえます。
そうしたことを含めて、安倍首相は難しい判断を求められますし、実行力が求められましょう。
もう一つの問題は、これまで危機回避のために、各国の中央銀行は、大胆な金融政策を行ってきましたし、大量の資金を市中に流してきました。
問題は、それをいつまで続けるのか、そしてそれを止める時には、大量に市中にまわっている資金をどのように回収していくのか、そうした判断が、各国中央銀行のトップに、今年は求められるのではないでしょうか。
もちろん、経済的危機がまだ終わっていないとするならば、 金融緩和政策を継続していくという判断がなされるでしょうし、そうでないとしたら、 どのように市場に伝えて、緩和政策の中止を進めるのか、また市場からどのように資金を回収するのかなど極めて難しい判断を行う必要があるでしょう。
(個人的には、過去において、日銀の早すぎた金融緩和の中止という失敗を考えれば、インフレ気味になるまで、金融緩和を継続するべきではないかと思いますが)
結局、これまで切り抜けてきたかのように見える問題は、先送りされているので、問題が解決し、先行きに明るさを感じている市場などの期待を裏切ることのないように、その根本的な解決のための決断と実行力が、各国のリーダーに求められていますし、そこが2013年最大の経済トピックスになると思います。
最後に、経済に影響する国際的な政治問題は、今後大きくなるような気がきます。
日中間に起きた尖閣諸島をめぐる対立は、解決する糸口が見えず、今後紛争に発展する可能性があり、それが、日中間の経済関係を深刻化させる恐れがあります。
その他、 シリア内戦問題、イランの核開発問題におけるイラン・イスラエル間の対立、あるいはイスラエル・パレスチナ問題、エジプトの政情不安問題など中東における国際的な緊張が、世界経済に影響を与える可能性があります。
その結果として、株式や為替にも大きく影響することになります。
そうしたことから、もっと世界の政治的な側面に注意していく必要があるのではないでしょうか。
もう一つは、世界各国は、緊縮財政に向かっていますが、バブル崩壊による景気刺激策のあと緊縮財政に向かうことによって、さらに一段の景気悪化を招き、恐慌すら起きえるという過去の経験から、どこまで財政健全化のために財政を緊縮していくのか、その結果として経済への影響はどこまであるのかなどにも気をつけなければならないのではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。 (
グズがトップでは、その国はどんどん貧乏になるだけです。
民主党のおかげで、どれだけ日本は消耗したか、、、。
安倍首相の決断と行動力に期待したいし、
ちゃんと、安倍首相が正しく動けるように神さまに祈らねばと思います。
クリスチャンのわたしにできることは、日本人の救いのために祈ること。
他にもできることは、あると思うので、いいことは続けようと思います。
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