程度によっては処分を免れることも。
「勤務中のFX」~就業時間中の取引がばれたら
プレジデント 2月3日(金)10時30分配信
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ばれても程度によっては処分を免れることも。
勤務中のFX取引は私用メールの可否と似た議論になるだろう。
最近は社員を懲戒解雇するときに、使用者が勤務時間中の私用メールやネットサーフィンをその理由として主張してくることがある。インターネットへのアクセス履歴を突きつけられ、そのまま何も言えず辞めざるをえなくなったというケースが非常に多いのだ。
会社が処分できるかどうかの分かれ目は、勤務時間中に費やした時間の多寡や当時会社がどのような社内体制をとっていたかによる。
就業時間中は、労働者は職務専念義務を使用者に対して負っている。職務と関係のないことをすれば職務専念義務違反となり、場合によっては懲戒事由に相当するとして解雇される可能性も出てくる。
ただ、就業時間中といっても手が空く場合はいくらでもある。そのときに外部との連絡に迫られて、私用メールを打つことはありうるだろう。わずかでも私用メールを打ったら即座に懲戒処分が可能ということではない。
実際、「就業時間中に送受信したメールが1日あたり2通程度であれば職務専念義務に違反はしない」という判例も出ている。
もう一つの社内体制の問題とは、会社が社内ルールを整備しているかどうかという問題である。
みんなが私用メールや私用電話を自由にしているような職場で、特定の社員だけそうした行為を問題にして解雇して裁判になれば、不公平な扱いとして、解雇は無効になる可能性が高い。逆に就業規則をきちんと整備し、社内でのメールやネットの使い方に関するルールを定め社員にアナウンスしている会社で、社員がルールを逸脱した場合は社員側にとって不利な状況といえるだろう。
IPメッセンジャーで6カ月間に約1700件の私的なやりとりをしたとして解雇された事件がある。裁判所は労働者の行為が職務専念義務違反、服務規律違反にあたるとしたものの、職場でパソコン等の私的利用は黙認されており、通常の限度は超えているが他の従業員から特段の注意がなされず、業務上の問題も生じていなかったとして解雇無効の判決を出した。
■一度注意されたらきっぱりやめること
FXなどの経済取引も基本的には右のような基準で考えればよいが、FXは経済行為であるため、あまりにプロフェッショナル的になっている場合は、職務専念義務違反に加えて二重就職や副業をやっているとみなされる可能性もある。要は会社の設備を利用して継続的にビジネスを行っている、という側面が出てくるのだ。
会社のパソコンを長時間使いFXで毎月50万円儲けていたとなれば、副業であると言われかねない。副業禁止規定があればそれに該当し、会社の設備や機材の許可なき私的使用を懲戒事由に規定している会社であれば、それにも引っかかってくるだろう。
ただし、長時間労働がはびこり恒常的に夜中まで拘束されるような会社では、所定労働時間外に外部と私用メールをしたり、FXで必要な連絡をしたりすることは懲戒事由とまではいえないだろう。
人間は社会生活上、社外と連絡が必要なのは当然である。そのような場合に残業時間中、外部と連絡を取ることは企業としても甘受すべきであるからだ。
休憩時間中は基本的に何をしても自由なので、お勧めはしないが休憩時間に自分の携帯やパソコンを使ってFX取引をすることに問題はない。ただ、何らかのいかがわしい取引に手を出したり、大きなトラブルに巻き込まれたりしたことが報道され会社の名誉を傷つけたら、休憩時間中の行為でも懲戒処分が行われることがある。
会社側が勤務中のFX取引がはびこる状況を正したいとしたら、いきなり厳しい処分を下すのではなく、対象者にまず口頭で警告するなどきちんと段階を踏んで、改善されないとなったときにはじめて厳しい処分を下すべきであろう。
逆に従業員側は一度注意されたらやめるのが基本である。ただ、ほかの同僚もやっているのに自分だけ注意された場合には「なぜ自分だけ注意するのか」と確認したほうがよい。何か別の意図が含まれている場合があるからだ。
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弁護士
小川英郎
宮内 健=構成
プレジデント 2月3日(金)10時30分配信
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ばれても程度によっては処分を免れることも。
勤務中のFX取引は私用メールの可否と似た議論になるだろう。
最近は社員を懲戒解雇するときに、使用者が勤務時間中の私用メールやネットサーフィンをその理由として主張してくることがある。インターネットへのアクセス履歴を突きつけられ、そのまま何も言えず辞めざるをえなくなったというケースが非常に多いのだ。
会社が処分できるかどうかの分かれ目は、勤務時間中に費やした時間の多寡や当時会社がどのような社内体制をとっていたかによる。
就業時間中は、労働者は職務専念義務を使用者に対して負っている。職務と関係のないことをすれば職務専念義務違反となり、場合によっては懲戒事由に相当するとして解雇される可能性も出てくる。
ただ、就業時間中といっても手が空く場合はいくらでもある。そのときに外部との連絡に迫られて、私用メールを打つことはありうるだろう。わずかでも私用メールを打ったら即座に懲戒処分が可能ということではない。
実際、「就業時間中に送受信したメールが1日あたり2通程度であれば職務専念義務に違反はしない」という判例も出ている。
もう一つの社内体制の問題とは、会社が社内ルールを整備しているかどうかという問題である。
みんなが私用メールや私用電話を自由にしているような職場で、特定の社員だけそうした行為を問題にして解雇して裁判になれば、不公平な扱いとして、解雇は無効になる可能性が高い。逆に就業規則をきちんと整備し、社内でのメールやネットの使い方に関するルールを定め社員にアナウンスしている会社で、社員がルールを逸脱した場合は社員側にとって不利な状況といえるだろう。
IPメッセンジャーで6カ月間に約1700件の私的なやりとりをしたとして解雇された事件がある。裁判所は労働者の行為が職務専念義務違反、服務規律違反にあたるとしたものの、職場でパソコン等の私的利用は黙認されており、通常の限度は超えているが他の従業員から特段の注意がなされず、業務上の問題も生じていなかったとして解雇無効の判決を出した。
■一度注意されたらきっぱりやめること
FXなどの経済取引も基本的には右のような基準で考えればよいが、FXは経済行為であるため、あまりにプロフェッショナル的になっている場合は、職務専念義務違反に加えて二重就職や副業をやっているとみなされる可能性もある。要は会社の設備を利用して継続的にビジネスを行っている、という側面が出てくるのだ。
会社のパソコンを長時間使いFXで毎月50万円儲けていたとなれば、副業であると言われかねない。副業禁止規定があればそれに該当し、会社の設備や機材の許可なき私的使用を懲戒事由に規定している会社であれば、それにも引っかかってくるだろう。
ただし、長時間労働がはびこり恒常的に夜中まで拘束されるような会社では、所定労働時間外に外部と私用メールをしたり、FXで必要な連絡をしたりすることは懲戒事由とまではいえないだろう。
人間は社会生活上、社外と連絡が必要なのは当然である。そのような場合に残業時間中、外部と連絡を取ることは企業としても甘受すべきであるからだ。
休憩時間中は基本的に何をしても自由なので、お勧めはしないが休憩時間に自分の携帯やパソコンを使ってFX取引をすることに問題はない。ただ、何らかのいかがわしい取引に手を出したり、大きなトラブルに巻き込まれたりしたことが報道され会社の名誉を傷つけたら、休憩時間中の行為でも懲戒処分が行われることがある。
会社側が勤務中のFX取引がはびこる状況を正したいとしたら、いきなり厳しい処分を下すのではなく、対象者にまず口頭で警告するなどきちんと段階を踏んで、改善されないとなったときにはじめて厳しい処分を下すべきであろう。
逆に従業員側は一度注意されたらやめるのが基本である。ただ、ほかの同僚もやっているのに自分だけ注意された場合には「なぜ自分だけ注意するのか」と確認したほうがよい。何か別の意図が含まれている場合があるからだ。
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弁護士
小川英郎
宮内 健=構成