あまっているらしい
工業品・原材料の供給過多が火急の調整局面を迎えている。
中国人民銀行(中央銀行)天津分行研究処の研究員グループが
このほど発表したレポートによると主要工業品目で軒並み生産力が
過剰になっており、一部には生産能力全体の6割が余剰という深刻な
業界も出ている。生産者物価指数(PPI、卸売物価指数)は半年間
下落を続けており、企業業績の悪化と金融リスクの増大も招きかねない
状態となっている。2004年春からのマクロコントロールの総決算とも
いえる需給調整は、第11次5カ年計画滑り出しの今年、成長リスクを
占う上での重要指標となりそうだ。【上海・杉本りうこ】
■鋼材、セメント、電力……
レポートによると主要工業品目のうち、鋼材が年産力
4億7,000万トンに対し余剰1億トン(利用率74.5%)、
セメントが13億5,000万トンに対し余剰3億トン(77.8%)となるなど
生産力が過剰となっている。特に電池は1,600万トンのうち800万トン
しか消化されず半数が持て余され、さらに鉄合金では2,213万トン
のうち実に6割が余剰となる深刻さだ。
こういった工業品目の需給逆転は近年懸念され続けてきたが、
ここに来て電力まで供給過多の兆候を示し始めた。
レポートは全国の現存の発電能力5億キロワットに加え、数年中には
さらに生産力拡大で2億キロワット増えるとして、潜在的な供給過多の
可能性をはらんでいると指摘。
レポート同様に供給過多問題を深刻視している中国証券報の記事も、
「7,200万キロワットの電力生産拡大が見込まれる2006年は電力の
需給バランスの転換期となる」と予測している。
2004年から急速に悪化した電力事情は日系企業の懸案だったため、
供給増は生産環境にゆとりをもたらすが、長い目では社会資本投資の
大きなムダが生じようとしているといえる。
■“引き締め”で投資に拍車?
工業全体にまん延する生産・供給過多を引き起こしているのは、
固定資産への投資過熱だ。
業種別に投資の伸びをみると、05年は専用設備製造が前年比68.9%増
と前年の伸び率を34.2ポイント上回ったほか、鉄道運輸でも29.2ポイント
上昇の45.7%増となるなどしている。
また鉄金属採掘は05年初めからの当局の厳しい業界引き締めで
50.9ポイント減と大きく冷却されているものの、伸び率は依然として
114.6%と極めて高い状態を解消できないままでいる。
投資の拡大そのものは経済成長を支える重要な柱だが、需要とかい離
した投資過熱はデフレも誘発する成長のブレーキとなる。
過熱抑制には早くから警戒感を高めていた中国当局は、04年春から
マクロコントロールを進めていたが、経済産業省の通商白書(05年度版)は
「政府による投資抑制強化の方針が伝わる中、駆け込み的に(投資)需要
が拡大した」と指摘し、当局の引き締めムードが逆に投資マインドに
拍車をかけたという見方も出ている。
■増産、価格下落の「らせん」
過剰な固定資産投資による生産力過多は、製品の価格に如実に
陰を落としている。PPIは05年、5月の5.9%をピークに下降に入り、
8月に5.3%に持ち直した後は直近の06年2月まで6カ月連続下落を
続けている。消費者物価指数(CPI)同様、インフレ・デフレ傾向をみる重要
指標であるPPIの下落は、堅調な成長を続けたい中国にとっては
看過できない“黄信号”だ。
人民銀天津分行のレポートはさらに、05年は建築用素材のうち鋼材が
22%、板材が38.6%値下るなどし、原価割れを起こしていることも指摘
している。中国当局が懸念するデフレは、個別の素材ではすでに起こり
つつあるともいえる厳しい状況だ。
この結果、工業企業では05年、幅広い業種で業績悪化が顕在化。
1~11月に限っても、企業の赤字総額が1,844億3,000万元に上り、
前年同期比58.5%増えている。
特に生産過剰感の強い鉄鋼業界では、赤字額が88億元と158.2%もの
大幅増となっている。レポートは鉄鋼業界では生産力過多を基調に
しながらも「中級・高級鋼材は依然として供給不足で、大量の輸入に
依存している」とも指摘しており、業界のかじ取りの難しさを示唆している。
こういった価格の下落と業績悪化は、まだ各業界に残る03年からの
増産計画のあおりで今後も続くことが予想され、増産と価格下落が
繰り返されるスパイラル状態が起こることも否定できないという。
■不良債権は不可避
レポートが警鐘を鳴らしているのは、最終段階として予測される
金融リスクだ。鉄鋼、エネルギーといった業界は国有企業が多く、
地方や中央当局の政策支援の下で金融機関から巨額の融資を獲得
している企業も非常に多い。
供給過剰による業績悪化のスパイラルが続けば、こういった融資が焦げ
付くのは時間の問題だ。対策として、商業銀行は生産過剰業界への
融資を引き締め、すでに融資済みの企業に対してはキャッシュフローの
推移に注目するなど金融リスク予防に全力を挙げるべきだとしている。
ただその一方で、「生産力スクラップは不可避だが、スクラップにより
相当数の不良債権が発生することも不可避」と厳しい見通しも示している。
工業品生産の調整が避けられない06年は、金融全面開放の年でもあるが、
生産調整による金融リスクの回避は非常に難しいかじ取りが求められて
いるといえそうだ。