中国の李肇星外相はヒトラーを引き合いに、傲慢無礼な記者会見を行った。
産経新聞(2006年3月13日付朝刊)「正論」より
歴史確定は政治家の仕事に非ず
乗ってはならぬ中国の靖国追求
政治評論家 屋山太郎
《東条ヒトラーを同列扱い》
3月7日に中国の李肇星外相は小泉首相が靖国参拝をやめないことにいらだって、ヒトラーを引き合いに、傲慢無礼な記者会見を行った。
政治家も外務官僚も実に手軽に「歴史認識」の共通項を探ろうとするが、そのようなことは民主主義国では不可能だと知るべきだ。栗山尚一元駐米大使は雑誌『外交フォーラム』で1,2月号に「和解-日本外交の課題」と題して書いているが、副題に「反省を行動で示す努力を」とある。
この諭旨を一言でいえば、中国の気の済むまで日本は謝り続けろということにほかならない。
その謝罪のあり方"見本"として氏は、ドイツの周辺国への謝り方を紹介しているが、外交官が日本とドイツを比べること自体、常識が狂っている。ヒトラーのやった犯罪はユダヤ人種の抹殺のた
め市井に暮らすユダヤ人を連れ出し、何百万人もガス室に送って虐殺したのである。この行為と軍官僚として戦時体制の内閣を引き継いだ東条英機首相の戦争行為とは全く質が異なる。
ニュルンベルク裁判を模して行われた東京裁判では「人道に対する罪」に該当しなかった。次官までやった外交官がヒトラーと東條首相を同列に扱うとは信じ難い話だ。その栗山氏ですら、譲歩に譲歩を重ねて中国の歴史認識に近づいたとしても、中国は満足しないだろうという。
《現在と将来・語るのが本分》
どうにもならなくなった二国間関係は「条約を結ぶ」という行為でリセットされるのが国際ルールだ。日本は1952年のサンフランシスコ平和条約で連合国49カ国との関係をリセットし、フィリピンやビルマ(現ミャンマー)に対しては賠償を含めた条約を結んでリセットした。
韓国、中国とは、1965年の日韓基本条約、1978年の日中平和友好条約でそれぞれリセットした。
これに比べてドイツはヒトラーの政権が崩壊し、米英仏ソの占領が開始された結果、周辺国のどことも条約は結べなかった。だからこそユダヤ人への個人補償を余儀なくされたのである。ドイツ人はユダヤ人虐殺の罪を全部ヒトラーにかぶせているが、ホロコーストにかかわったドイツ人は何万人にも及ぶ。日本人は「悪い奴は東条英機だ」と責任回避して逃げるような卑怯なことはしなかった。
2005五年11月、フランスはかつてのアルジェリアの植民地政策とその責任をめぐって議会で大論争となった。その際シラク大統領は「フランスには官製の歴史はない。歴史を決めるのは議会ではなく歴史家の仕事である」との声明を出して議論は打ち切られた。
いわゆるA級戦犯が靖国神社に合祀された1978年10月のあとも大平正芳、鈴木善幸前相は靖国神社参拝を続けたが、大平首相は合祀問題について、「A級戦犯あるいは大東亜戦争についての審判は歴史が致すであろうと私は考えております」と答えている。そもそも政治家は、現在と将来を語るのが本分であって、過去の歴史解釈を確定するのが任務ではない。
《フィンランド化を恐れる》
1998年訪日した中国の江沢民国家主席は宮中で「歴史認識」について"説教"をたれたが、翌99年北京を訪問したカンボジア首相から中国と150万人を虐殺したポル・ボト派の関係を聞かれ、「われわれは過去のことより将来のことを語るべきだ」と叫んだという。
中国人は神道や神社については全く理解していないと東洋史の泰斗、岡田英弘・東京外語大学名誉教授は断言する。にもかかわらず、中国がしつこく靖国問題を追及するのは、マスコミを含め日本の指導層が割れるからだ。
山崎拓氏らは「靖国問題が次の総裁選の争点になる」と全く見識のないことを言う。
当家せん国務委員(副首相級=外交担当)は「小泉首相にはもう期待していない」と2月8日、野田毅日中協会会長に語ったという。これは言外に次の総理には中国の気に入る人物を選べといっているに等しい。
国際政治用語に「フィンランド化」という言葉がある。
冷戦中、ソ連に取り囲まれたフィンランドは、独自の外交政策をとればソ連に押しつぶされかねず、ソ連の気に入る外交を余儀なくされた。現在の日本はさながら中国に圧迫されたフィンランドだ。
日本人は首脳会談をすること自体が外交だと思っているが、会談をやること自体に何の意味もない。日本が政・経にわたって手を引けば、圧倒的に困るのは中国の側だと認識させるべきだ。
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