インドネシアの人権擁護家ムニ-ル氏が暗殺された事件の結末 | 日本のお姉さん

インドネシアの人権擁護家ムニ-ル氏が暗殺された事件の結末

MUNIR(ムニ-ル)

    * 人権擁護活動家暗殺から1年を経て

   以前にもチャンプル便りで触れたことがあるが、2004年9月7日、世
  界でも有名なインドネシアの人権擁護家ムニ-ル氏が、ジャカルタのス
  カルノ・ハッタ国際空港からシンガポール経由にてオランダへ向かうガ
  ルーダ・インドネシア航空機(GA974)の中で急死した。

   ムニ-ルはこれまで、国や軍に対して非常にシビアな態度を取って
  きた人権擁護活動家であり、政府から煙たがられていたことはこの国の
  誰もが認めるところであり、世界も認めていた。数年前の学生運動で多
  くの学生が軍の銃声に倒れたときにも、一人政府に闘いを挑んでいた。
  

   遺体はオランダで検死解剖となって毒薬が検出された。その後国内で
  も、何百人に及ぶ関係者を対象にした調査が行なわれ、シンガポールの
  チャンギ国際空港トランジットの際の飲食物、もしくは機内で用意され
  た飲食物に疑いがもたれ、最終的には機内で用意された飲み物から毒薬
  をもられたことと断定された。

   この後からが面白い。事件から2ヵ月後の 11月にはこの事件専門の特
  別チームが警視庁主導で作られて、より突っ込んだ捜査が開始されたの
  だが、ムニ-ルの妻で同じく人権擁護活動に身を投じているスチワティ
  らほか人権擁護活動家の懇願で、12 月には大統領令による特別調査チー
  ムも発足した。

   しかし、事件の概要がまったく見えてこない。メディアや各種人権団
  体などから厳しいコメントが飛び出てくることになる。そんな中、予想
  を上回るとてつもない時間のかかった翌2005年3月、問題のあった同機
  に乗り合わせていたガルーダ・インドネシア航空所属パイロットで一搭
  乗者であった人が容疑者となった。その翌月には、いわゆるキャビン・
  アテンダントの女性2人も容疑者となった。

   そして、今回の事件にインドネシアの諜報機関 BINが関与(当時の
  BIN長官が容疑者となったガルーダ・インドネシア航空パイロットへ27回
  にもおよぶ携帯電話へのコンタクトを試みていた)していることが明るみ
  に出るが、この国の司法は諜報機関に近寄れない。

   大統領もリップ・サービスを増して「国を挙げて問題の究明に全力を注
  ぐ」的なことは言うのだが、いっこうに黒幕が見えてこない。BIN長官の
  容疑者とのコンタクト問題も、じゃぁーそれが本当なのかどうかなど調査
  が進められない。各メディアは、3人の容疑者を裁判で黒としたところで
  ケース・クローズとされてしまう可能性が高いと警鐘をならす。

   結局、事件から1年3ヶ月後に当たる2005年 12月、容疑者の1人である
  パイロットに 14年の判決が言い渡された。

   この事件、これだけでは終わらない。被害者家族も次なる動きを始めて
  おり、容疑者側も次なる動きを模索している。そうした中、警視庁長官が
  容疑者パイロットの妻に電話を掛けて、「ご主人がすべてを公にするよう
  あなたから説得して欲しい!」といったふざけた依頼まで飛び出した。こ
  の容疑者の妻は非常に気丈で、「私の夫はすでに全てを告白している。」
  と答えたらしい。また、家族全員に国がボディー・ガードを用意するとい
  う警視庁長官からの配慮(?)にも、「身の危険はまったく感じないので
  必要ない。」と応じたらしい。

   ここから簡単に想像がつく。このパイロットは全てを告白したが、その
  内容が表には出てこない。そのすべてというのは、諜報機関のかかわりだ。
  そして警視庁長官が容疑者の妻に言わんとするところは、「あなたのご主
  人が自分の意思で自分ひとりで暗殺を企てたと本当のことを言わせなさい。
  」ということなのだ(普通小説や映画ではこうなる……)。

   これがインドネシアだ。この1年、政府高官や高級国家公務員の汚職問題
  がドンドン明るみに出てはいるが、それが裁判まで引っ張られた後にどの
  ような結果になったのかは見えてこない。最近、2件ほど、汚職で得たお
  金を国に帰すという事例も発生したが、これは氷山の一角。そのほとんど
  が闇に消えていく。確かに問題が明るみに出るのは進歩だが、結局のとこ
  ろ根本的な変化はない。

   今回の事件、亡くなったムニ-ルの妻だけでなく、容疑者となったパイロ
  ットの妻も必至に闘っている、自分たちの家族を守るために。暗殺という形
  で人の命が消されてしまったのに、インドネシアの民主主義を声高に訴える
  現世権でさえ、故意にか否か、何の手も打てない。そう、これがインドネシ
  アなのだ。
 
                           Written By Ryo

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