お風呂の掟
身も心も疲れ果てた時辿り着く場所、それは日帰り温泉。
昨今はサウナブームで、[整う][サウナー][熱波師][サウナ飯]等の言葉を、よく耳にするようになった。
魅力的な新しい施設が次々に誕生し、癒しを求める人々のオアシスとなっている。
しかし自称日帰り温泉プロの私としては、サウナだけでは満足出来ない。
温泉は必須だ。
そして源泉かけ流しで無くてはならない。
そんな私が厳選したお気に入り施設は幾つかあり、静岡のみならず、近隣の山梨県にも足を伸ばし、時折観光も楽しみながら出かけている。
山梨には季節のフルーツや、清里にある萌木の村(猫の店がある)、原村から蓼科に向かう途中にあるバラクライングリッシュガーデン等、お気に入りの場所がある。
また近年ではコストコも出店された為、更に誘惑の多い場所となった。
それら観光の帰りに立ち寄るのが日帰り温泉である。
そこには必ず[お風呂の掟]がある。
お風呂で1番大切な事、それは
[常連さんの前で正しくしなければならない]
である。
どこのお風呂でも必ず常連さんがいる。
現場のお風呂を知り尽くし、慣れた佇まい、そんな人を見かけたら常連さんだ。
大抵5人程のグループで大きな声で話している。
そんな常連さんは、新人を見抜くのも早い。
お風呂の入り方もチェックしている。
[お風呂の掟]を破るとどうなるのか。
常連さんの話に静かに耳を傾けると、
[あの子髪の毛を結んでいないよ]
[あの人身体を洗わずに湯船に入った]
等、たちまちグループ内で噂となる。
しかし正しくお風呂に入っていると、常連さんはとてもフレンドリーだ。
[どこから来た?]
と必ず訊かれる。
また、お風呂は大切な情報交換の場でもある。
どこの温泉がいいか、新しい日帰り温泉の情報等話しが飛び交う。
そう、ここはお風呂の社交界なのである。
また、そこで働いているスタッフの方の予備知識、お食事処のメニュー等、貴重なお話も聞く事ができる。
[私はメニューの端から端まで食べ尽くし、全ての味を知っている]
という方。
また、
[みんな裏メニューの納豆汁美味しいって言ってるけど、作り方見てたら味噌汁に普通の納豆入れてるだけだよ]
等、多少夢の無くなる現実を知ることもある。
お食事処は楽しみの1つでもある。
あるお気に入りの施設では、健康志向も相まって、タニタ食堂のメニューを取り入れている。
そこの豆乳ソフトは大好きで、豆乳という響きで罪悪感は無くなる。
温泉に入れば0カロリーだ!
温泉には、人々の心を和らげる魔法がある。
もう一つの[お風呂の掟]
それは
[女王は透明人間]
である。
常連さんの中でも更に上級のプロがいる。
それが女王だ。
その方は大抵グループから外れ、1人お風呂と向き合っている。
サウナの高い場所(1番熱い場所)にmyサウナマットで席を置き、なぜか座禅を組んでいる方が多い。
誰も近づけない、声もかけられない、修行のように崇高な姿で熱風と戦っている。
本当は場所取りは禁止だが、女王なので周りも一目置いている。
実際、サウナ→水風呂→サウナ→水風呂と休むまもなく繰り返し入られている。
(女王には整う時間はないのか?)
そんな心配をよそに、ひたすら修行をしている女王を尊敬の眼差しで見つめながら、
(ヨシ!わたしもあと5分がんばろう!)
と熱風に挑んでみるのだが、なかなか難しい。
更に水風呂はもっと難しい。
冷え性の私は真夏でも片足を入れただけで[ヒィィ〜っ]と声を上げてしまう。
しかしサウナで整う為には水風呂を習得しなければならない。
躊躇してなかなか水風呂に入らない私に常連さんは[エイって入っちゃえば大丈夫だよ]とエールを送ってくれる。
ここは常連さんの声援に応えなければならない。
隣では女王が平然と美しい佇まいで浸かっている。
(エイっ)と心の中で声を上げ、浸かってみると、最初は辛いけれど、段々と水の中が温かく感じられるようになる。
しかし3分以上浸かると流石に芯から冷え、内臓や呼吸も冷たくなるのがわかる。
その頃には水風呂の気持ち良さを感じられる為、より長く浸かっていたいのだが、耐える事が出来ない。
しかし私は長時間水風呂に浸かる技をとうとう編み出した。
それは、水風呂に浸かりながら隣の温かい湯船に手だけ入れる、というものだ。
不思議だが、このように入ると結構な時間耐えることができる。
手を温めると全身に広がるのだ。
これからの寒い季節、手袋の威力を感じた。
忘れてはならないのが飲料水だ。
サウナの後には水分を取らなければならない。
最近ではオロナミンCをポカリスエットで割った[オロポン]という飲み物が流行りだそうだが、私に言わせればそんなの邪道だ。
身も心も解毒した後には、新鮮な水が1番だ。
富士山の雪解け水バナジウムや、地下から汲み上げられた天然水等、身体に染み渡る水を提供してくれる施設もある。
サウナ後は、心から水が美味しいと感じる。
そして外気浴で小鳥や風の音を聴きながら整う。
源泉も楽しむ。
翌日は驚く程お肌の調子が良くなっている。
そんな話を生徒さんとしていると、[どこですか?]と訊かれる事が多い。
つい自信たっぷりに場所を教えてしまうのだが、お風呂で生徒さんに出会ってしまったら恥ずかしい。
人は、とても仲良しか他人なら恥ずかしくないけれど、何となく知り合い、という間柄はとても恥ずかしいものである。
こんなことでは次回お風呂に出かける際ドキドキしてしまう。
教えてしまったことを少し後悔しつつ、でもこの素敵なお風呂情報を世に知らせたい、と思う今日この頃である。