お山をわたる北風が、
ひゅーひゅーごーごーなってるよ。
子ぎつね颯太のおうちはね、お山の真ん中、林の中。
大きな岩と岩のすきまに、とうさんが穴ほって、かあさんが枯っ葉詰めて作ったの。
どんなに北風が冷たくても、楓太のおうちはぽっかぽか。
とうさんは狩りが上手で、ジャンプが上手。
いっつもぴょーんとジャンプして、鳥や野鼠、お魚もとってくる。
だから、おなかはいつもいっぱいさ。
とうさんとかあさんは、林の外へ出たらだめ。
おっかない人間がいるよって。
だけど僕は出かけちゃう。父さん母さんいない時。
だって、だってね、野原のむこうに、お地蔵様が待ってるんだもん。
そう、そう、お日様ぽかぽかあったかい日、ミツバチさんを追いかけて。
いつのまにやら、林の外。野原のむこうに立っていた。
そこであったよ。お地蔵様に。
にっこりわらって僕をみたよ。
とうさん、かあさんいない時、僕はいつでもかけてった。
初めて出来たお友達、お地蔵様のところへね。
暑い暑い夏の日も、紅葉が真っ赤な秋の日も、沢山、沢山お話聞いたよ。
お地蔵さんの住む村は、昔は、人間がいっぱいいたってさ。
お山の木を切って、材木をつくる仕事の人たちが。
子供も大勢いて、お地蔵さんの周りで、歌を歌ったり、花をつんだり賑やかだったこと。
でもね、冬になり、雪が降った。
お山も野原も真っ白。真っ白。
とうさん、僕に怖い顔。
雪の上では足跡がめだつ。
ひとりで出かけちゃ、絶対だめだと。
だけど僕は心配で。ひとりぼっちのお地蔵様。
寒くて泣いていないかと。
雪がやんでお月様が、そうっとやさしくささやいた。
今夜なら大丈夫、私がてらして、連れてってあげる。
颯太、巣穴をとびだした。雪の上を走る、走る。
頭も肩も真っ白け、優しいお顔と、真っ赤な前垂れだけがみえた。
大丈夫、寒くない。寂しくて、泣いてない。かけよる颯太。
お地蔵様、ニッコリ笑って、いつもの元気な声がした。
大丈夫、私は一人じゃない。私を忘れない沢山の命と繋がっているから。
ほら、ここが、こんなに、あったかい。
颯太が前垂れにそっと顔を寄せると、あったかい。
年に二回、お墓詣りの時に、新しい前垂れをかけてくれるひでばあちゃん。
村で育った子供達。颯太やミツバチ。小鳥や草木、おひさま、おつきさま。お星さま。
雨さん、風さん、雪さん、雲さん、土さん。
みんな、お地蔵様のハートの中にいた。
お地蔵様は颯太に言った。
私達は、みんな一緒。愛の中にいる一つの家族。だから、寂しくないのよと。
颯太、こっくりうなずいて、おうちに向かって駆け出した。
父さん、母さん帰らぬうちに、急いで帰ろう。しかられる。
♡
ありがとう♡だいすき