【湖の国】空を見届ける流離艇
何百年、何千年を遡った。数々のパラレルを巡った。飛晶のエネルギーを動力源として、人知れず飛ぶ艇。『架空園』と呼ばれるその巨大な探査空挺は、ひょんなことから、旅路に終わりを告げることになる。「御姉妹様、ヴァリスネリア御姉妹様!」「あら機関長、どうなさったの?」「グルマンがまた勝手に亀裂からつまみ食い?」駆けてくる機関長のシスターに亜麻色の髪の姉妹は各々声をかける。ファルカとシグリ、架空園の乗組員を束ねる長にシスターは切らした息を整えながら、ためらいがちに伝えた。「あの、大変申し上げにくいのですが…飛晶のエネルギーが想像より早く尽きてきています。もはや我々が元居た時代に戻ることは叶わないかと…」「まぁ…やはり航空戦時代があった世界線で予想以上に消耗してしまったのですね。」「え、じゃあどうするの?せっかくとったログも無駄になっちゃうじゃない!」姉妹の焦る声に近くにいた乗組員もざわめき始めた。今まで自分たちは、住んでいた世界を離れ、失われた歴史を追ってきた。姉妹は、せめて、その結果だけでも残せないかと思考を巡らせる。「ねぇ、機関長。私たちのいた世界線への渡航レンジはどこまでなら行ける?」「は、はい…!浮遊用の飛晶エネルギーもフルで回せば当代50年前ほどまでなら…!」「いや、浮遊用のリソースは残して。この船が浮いてないとそれこそ文明が歪む。」「では…さらに過去のリーヴェに?」問いかける機関長に、シグリは頷く。それに続いてファルカも口を開いた。「そうねシグリ…、一生涯観測者として活動するのも悪くないわ。」「…でしょ?せっかく王命まで賜って活動しているのに、まだこの使命を終えるのは早いよ。」いつの時代もやることは変わらないし何なら自由時間も長く取れそう、と、シグリは楽しそうに微笑んでいる。「なってしまったものはしょうがない、お父様だってこんな事が起こりうると覚悟はして送り出してくれたんでしょう?」「そうね、この現実を悲観することはない。いつか元の時代と交わると信じて今しかできないことを楽しめたらいいですわ。」ファルカも微笑み、どうかしらみんな?、と首をかしげる。その優しい表情に、乗組員たちの表情も綻び、安堵している。その様子に機関長も胸をなでおろした。「では他の者たちにも伝えて参ります。…貴女様方と共に最期まで旅ができることに感謝申し上げます。ありがとうございます、これからもよろしくお願いします。」「えぇ、それと、目的地に着いたら、架空園の加護を解いて浮遊のリソースに充てて頂戴。…私たちも、貴方たち全員がこの艇の乗組員であることを誇りに思います。」一礼し去っていく機関長の背を見届けるファルカにシグリが声をかける。「さぁて、これからどうするかな…未来へのメッセージとかログを残したり…あ!なんなら庭園の一般開放とかしちゃう?あとは商売とかしてさ~」「シグリ、あまり過去に干渉してはなりません。お父様に叱られますよ。」「何だよ~…一応元の時代のログには残ってたんでしょ。それに、この艇が未来で修繕されて、また過去を巡っていくこともさ。」「…ふふっ、みんなには言ってませんからね。墓まで持っていきましょう、これは。」「はぁい、…庭園の土にはあと何回私たちが埋まるのかな。」空はいつまでも青い。永遠にさまよい続けるその艇の終着点は、何処なのか。時空を流離う者たちの楽園は、ただそこで、君を待つ。