物心つく頃には虐待が日常的だったアタシの母親とアタシの関係。


専門的な知識はないので確証付ける言い方は出来ないし、
『当時の小さなアタシ』はすっかり成長してしまったので、タイムマシーンでも発明されない限り詳しいコトを確かめる術もないケド、


きっと、この頃から小さな心は恐怖と混乱とで萎縮し始めていたような記憶が残ってる。



それでも母親は母親。

痛くて怖くて意地悪なイメージしかないはずなのに
アタシは彼女が大好きだった。

同じ家で生活していたのに、何故か一緒に過ごす時間は少なくて、
だからと言って当時彼女は働きに行ってた訳でもなく、
時々家の中で見かけるくらいだった母親。


今だからわかるけど、
同じ家に居ながら、彼女はアタシの育児放棄をしていた…。



普段アタシの世話は祖母がしてくれていたケド、
身体の弱い祖母が入院すると、
まだ小さなアタシは祖母の長女(母の姉)に預けられていた。


叔母がアタシを預かれないと
渋々、母がアタシを『預かって』くれていました。


ホントに渋々…。


それでもアタシは嬉しくて、にこにこしながら母を眺めたり…。

それだけでもアタシにとっては【特別】なコトで、


だけどそれは母の【不機嫌】という爆弾に着火していたんです。

『ジロジロ見るな!!』

母がイライラし始めると
烈火の如く怒る母親から『口撃』と平手打ちが始まり、

そのうち、手のひらが痛くなると平手打ちから拳に替えて、背中やお尻、太股等を殴り始める。

叩かれたり殴られた箇所は痛くて熱くて涙が止まらないけど、母親の怒りが収まると




なんでなんだろう…。




母親の手のひらが気になってた。



アタシを叩いて赤くなってたお母さんの手…。

それを見ると心配で、また泣き出してしまう。

『お母さん、おてて大丈夫!?痛い!?』

母の手を触ると母はまた怒る。

『お前のせいでこうなったんだろ!?

触るな!!』


そう怒鳴ると、彼女は腕でアタシを突き飛ばす…。


まだ幼かったアタシの体は容易に飛ばされてしまう。




それでも母親の赤くなった手が心配だった…。


涙で母の手が見えなくならないよう必死に涙を拭うけど、
怖くて悲しくて淋しくて、
後から後から涙が溢れた…。


きっとね、なかなか信じてもらえないでしょうが


アタシは母の手を握った記憶がないんです。

もちろん、母に手を握ってもらった記憶もありません。
ただ記憶に残ってないだけなのかもしれないケド……。


まだホントに小さな頃、
手を繋げないくらい小さな頃、

母の指を握りしめた記憶はあります。

よちよち歩きの頃、しっかり握りしめた彼女の人差し指。

足がもつれて彼女の指をギュッと強く握ってしまうと、小さな掌に彼女の爪も刺さったけど
母と一緒に繋がれてるコトが嬉しかったっけ…。

おじいちゃんでもなく、おばあちゃんでもなく、『母』だから…。







あの頃のアタシと向き合うには
彼女があまりにも小さすぎて、かける言葉がみつからない。


彼女の求めてるのは母の愛で、母の温もりで、母の笑顔だから…。


アタシには母親のかわりなんて出来ないもん。



眼を閉じてイメージをする…。

『小さなアタシ』と『大人になったアタシ』。



『泣かないで。』


あなたが泣き止むまで傍にいるから…。

手を繋いで、そして抱きしめてあげるから…。


時代を超えて、悲しみと寂しさを感じる…。


あの頃の感情は、時を経て大人になったアタシでさえ

苦しくて寂しくて堪えられない…。

頭の奥に、彼女の泣き叫ぶ声が響く。


気が済むまで一緒に泣いてあげるから…。

ひとりぼっちになんてしないから…。

ね、いつだってアタシ達は一緒だもん。

ふたりはひとり。


小さなアタシと現在のアタシ…。

ゆっくりでいいから、一緒に進もう。


いつかあなたが泣き止むまで

アタシだけは離れたりしないから。