きのう、我慢できずに心の声を漏らしてしまいました。

 

 

こちらの投稿についたコメントに、たくさんの方が反応されました。
(投稿ではなくコメントに!)
 

そして、話のポイントがそれてしまった(ような)ので、投稿した経緯をまとめておきます。

 

 

  どの教材の話?

 

ほぼ毎年、”とあるコース”を担当しています。非常勤講師です。

日本にある日本語学校のようなスケジュールで、受講生は月-金の週5日間通います。

クラスには複数人の講師が入ります。

 

”とあるコース”で使用する教材は、”とあるコースオリジナル”教材です。

専任の方が汗水流して作られたものです。完成までには大変な苦労があったと思います。でも、全体的におかしな作りになっています。「限られた人員と日数と予算だったから仕方がなかった」という事情はよくわかります。ですが、事情を知らない、事情に全く関係がない、学習者がいちばん大変な思いをしてしまいます。

 

つまり、”とあるコース”を受講してくれる学習者のために作ったはずなのに、結局、”とあるコース”を受講してくれた学習者に余分な負担がかかってしまうということです。

 

”とあるコース”は、いろいろな問題を抱えていますが、冒頭の投稿に関する部分のみについて話します。

 

そして、投稿では「これは車の雑誌です」と書いたのですが、「チンさんは中国人です。日本人じゃありません。」も、同じ理由で疑問を持ったので、そちらの文を使用して、話します。

 

  メイン教材の構成

 

”とあるコース”のメイン教材は、Can-do、モデル会話、単語、単語の使用例、文型という順で構成されています。

 

これだけみると、”行動中心アプローチ”に基づいた教材なのね!となるのですが、実はそうじゃありません。

 

入門の最初の課の一部を紹介します。(注:特定防止のため少し変更しています。)

 

Can-do

初めて会う人に自己紹介するとき、自分の趣味や家族のことなどを簡単な言葉で言うことができる。

 

文型

NはNです/NはNじゃありません

例)鈴木さんは、日本人です。中国人じゃありません。


(絵を見て答える)
チンさんは日本人    。中国人    

Q:チンさんは学生ですか。

A:チンさんは           

 

みなさん、この文型の部分は、Can-doを達成するために、本当に必要でしょうか?

 

 

  ゴールに必要なものは何?

 

上述のようなCan-doをゴールとした授業をする時、次の文を理解し、言えるようになる必要があるでしょうか?

 

チンさんは、中国人です。日本人じゃありません。

マイケルさんは、会社員です。医者じゃありません。

 

わたしは必要がないと思います。

 

実際に勉強する学習者をイメージしてみます。

スミスさん

出身 アメリカ ニューヨーク  

趣味 バスケットボール

家族 3人

来年の春から日本に住む予定。

 

Can-doを確認してみると、場面は「初めて会う人に自己紹介する時」です。

自己紹介ですから、チンさんやマイケルさんのことを話す必要がありません

 

そして、自己紹介で、出身地を話すなら、

 

アメリカから来ました。

 

と言えれば十分だと思います。でも、出身地の都市名を言いたい場合もあると思うので、

 

アメリカのニューヨークから来ました。

 

と言えると、もっといいかもしれませんね。

 

また、〇〇人と表現したほうがいいと思われるのなら、

 

 アメリカ人です。

 

と言えれば十分だと思います。

 

では、「日本人じゃありません」は必要があるでしょうか?

 

わたしは必要がないと思います。

なぜなら、場面は「初めて会う人に自己紹介する時」だからです

 

自己紹介をする時に、

 

アメリカ人です。日本人じゃありません。

 

とか、

アメリカ人です。フランス人じゃありません。

 

と話すのは、どんな場面で、どんな人に対して自己紹介する時でしょうか?

ちょっと思い浮かべることができません。

 

では、初めて会う人に自己紹介する時、どんなことを言うでしょうか?

もちろん、大学のゼミで、取引先で、入社した時、友達の家族に初めて会った時、など色々な場面が考えられるので、答えは様々だと思います。

 

日本語入門レベルの学習者が最初に言えるといいなというのは何でしょうか?

 

名前・出身と適切な挨拶(はじめまして・よろしくお願いします)が言えれば十分ではないでしょうか。

 

つまり、

 

はじめまして。

スミスです。

アメリカのニューヨークから来ました。

よろしくお願いします。


と、「初めて会う人に自己紹介する時」に、「言うことができ」ればいいということです。

 

 

 

上述のCan-doには、さらに「趣味や家族のことなどを簡単な言葉で」とあるので、

 

バスケが好きです。

家族は3人です。

 

などと、言えれば十分だと思います。
 

 ※注  個人的には家族のことは自己紹介で言う必要性がないと思います。

 

では、次の文を理解して、言えるようになる必要があるでしょうか?

 

野球は好きじゃないです。

 

わたしは必要がないと思います。

 

(繰り返しになりますが)

なぜなら、場面は「初めて会う人に自己紹介する時」だからです。

 

まとめると、

 

初めて会う人に自己紹介する時、自分の趣味や家族のことなどを簡単な言葉で」、たとえば次のように、

はじめまして。

スミスです。

アメリカのニューヨークから来ました。

バスケが好きです。

家族は3人です。

よろしくお願いします。

と、「言うことができ」ればいいということです。

 

 

  〇〇です/〇〇が好きです だけでは不安という方へ

 

ここまで読んで、わたしが「~じゃありません」を勉強しなくてもいいと言っていると勘違いされる方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

 

では、いつ、「日本人じゃありません」「野球は好きじゃないです」を提示すればいいのでしょうか?

 

それは、たとえば、次のようなCan-doの授業をやる時です。

 

Can-do

はじめて会った人に、名前や出身などを質問された時、答えることができる。

 

 

Can-doに「質問された時」とあるので、

 

Q:出身はどちらですか?

Q:韓国の方ですか?

Q:野球が好きですか?

 

などと、「質問された時」に、

 

A:(アメリカの)ニューヨークです。

A:いいえ、韓国人じゃありません。

A:いいえ、野球は好きじゃないです。

 

などと「答えることができる」ということです。

 

つまり、Can-doで示されたゴールを達成するために、本当に必要なことだけをピックアップして提示するということです。

 

 

ここで、もう一度、質問します。

 

Can-do

初めて会う人に自己紹介するとき、自分の趣味や家族のことなどを簡単な言葉で言うことができる。

 

というCan-doで示されたゴールを達成するために、授業で、次のような内容を取り扱うことは、必要でしょうか?

 

文型

NはNです/NはNじゃありません

例)鈴木さんは、日本人です。中国人じゃありません。


(絵を見て答える)
チンさんは日本人    。中国人    

Q:チンさんは学生ですか。

A:チンさんは           

 

必要じゃありません。

なぜなら、Can-doで示されたゴールを達成するために、必要な内容じゃありませんから。

 

 

  この道は、本当にゴールにつながっている?

 

ここまでで見てきたように、わたしの心の声が漏れ出てしまったのは、

 

 ゴールと内容が合っていない 

 

ということに、教材を作った方々が

 

 全くといっていいほど、気がついていない

(何年経っても改善されないので)

 

ことへの憤りだったのです。

 

もしかしたら、同じような憤りを感じている方がいらっしゃるかもしれません。

「Can-do」や「行動中心アプローチ」という単語だけを知っていて、その考え方の”キモ”を知らない方が多いような気がします。

 

 

どんなに励ましても、道自体がゴールにつながっていないのでは、歩くのを途中でやめてしまいます。

 

みなさんの今、歩いている道は、本当にゴールにつながっていますか?

 

 

  参考

 

行動中心アプローチを詳しく知りたい方は、冒険家こと村上吉文さんのこちらの動画リストがオススメです。

(「02a線形モデル以外の学習モデル」からが、具体的な説明になっています。)

 

 

国際交流基金の「いろどり生活の日本語」にも、教え方がアップされています。

イメージができない方は、ぜひ見てみてくださいね。

 

 

  最後に

 

文型積上げを否定しているわけではありません。

日本語の文型を”知識”として知りたいということがゴールの場合は、ひとつひとつ丁寧に文型について説明し、確認していくのはとてもいいと思います。

ちなみに、香港では、非常に文型に詳しい香港人の先生が数多くいらっしゃって、広東語で懇切丁寧に説明してくれます。”知識”として日本語の文型を知りたいと思う学習者は、先生を選びたい放題の素晴らしい環境です。

 

また、行動中心アプローチが万能だとも思っていません

人と人がコミュニケーションをするとは一体どういうことなのかを深く考えていくと、このアプローチが対応できる範囲というのは、ごく限られた範囲なのではないでしょうか?

 

 

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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