もう、30年近く前の話になるが…

わたしの結婚が決まったある日、母親から近所の家具屋さんに行こうと誘われた。

嫁入り道具である箪笥を買わないと…ということだったので、軽いノリでついて行った。


いくつか候補があり、その中でも、少し傷がついているので、現品特価で店員さんから勧められた箪笥(背の高いのと低いの)を、母はいたく気に入ったらしく、

「これを買いなさい」

と強引に勧めてきた。

立派な箪笥だとは思う。モノはいいんだと思う。

でも、見るからに大きくて重そうで、正直、こんな大層な箪笥、必要無いんだけどな…とも思う。

「私にはこんな立派な箪笥、必要ないよ」

と、一応言ってみる。

「絶対これにしなさい。これなら、嫁入り道具として誰から見ても恥ずかしくない品だから。少し傷はあるけど、そんなの使っているうちにつくわよ」

「勿論、あなたの貯金から出しなさい」

「え?」

値札を見ると、80万円なり。

「こんな高いの買うくらいなら、あの箪笥で充分」

いくらわたしがそう言えども、母は頑なに譲らなかった。

要するに、それを買わないと帰れないという状況だった。

箪笥に80万を使うくらいなら、もっと違うものに使いたい。

飲み込んだ言葉は、虚しく消化され、

「買います」

という言葉に変換された。

母は満足そうだった。


今その箪笥は、大きく嵩張るため、行き場を無くし、広い長男の部屋で厄介者と化する。

これまた変な話なのだが、箪笥にまだ着られるわたしの洋服など入ったままの状態で、夫が長男のベッドやら何やら全てをその箪笥のある部屋へ移動させてしまい、開かずの扉となってしまった。

長男が独立した部屋を欲しがったことが原因だが、それにしても、中身を出さずに家具を入れる人は見たことない。

子ども達が小さい頃に使っていたオモチャなどが入った大型クローゼットも、使えない状態で長男の使用する家具が入ってしまった。

わたしには何の断りもなく…。