2023

年12月16日作成

12月14日、東京を出て、M氏と我々の今年のジジイ旅は一路空路で鹿児島へ。

目的地は知覧と鹿屋。

鹿児島県知覧町に、「武家屋敷」というところがある。自分の父親の親戚筋が九州熊本にあるが、鹿児島を訪れたのは2回目だ。街に入ると風景は一変、江戸時代の薩摩藩の「麓」に飛ぶ。この「武家屋敷」の成り立ちを調べてみたら、次のような記載。

・・・中世以来の守護大名，薩摩の島津氏は，豊臣秀吉の九州平定で敗れ，領地を大幅に削減されたが，武士の数は減らさず。このため，薩摩藩は他の藩より武士の割合が高くなり，全人口の４分の１程度を武士が占めていた。そこで他の藩のように，本城である鹿児島城の城下に全ての武士を集住させることができず，独自の外城制度として，各地の山城の周辺に「麓」（武家屋敷群）をつくり，数十人から時には数千人を配置することにした・・・。

そこで何をしていたかというと、武士達は心身鍛え、農耕に従事、平和な世にありながら武芸の鍛錬に励んだという。

鹿児島という土地は、訪問してみてわかったのだが、遠い昔に鹿児島湾から噴出した火砕流が堆積した非常に厚いシラス台地から成っている。広い平野部は少なく，薩摩藩内の山城は，このシラス台地を利用して，その端に当たる場所に築かれた。

山城は戦国時代までは日本中に「麓」はあったが，江戸幕府の命令で破壊され，一つの藩に一つの城という制度に変わった（一国一城制度）。ところが薩摩藩では，破壊すると田畑にシラス土が流れてくると幕府に言い訳，山城を壊さなかった。なかなか頭良くてスマートだ。これにより、15mを超えるような空堀に囲まれ、武士達が戦時に籠る曲輪などがいくつも集まっている山城の跡が、県内各地に数多く残ることになったという。

実際に、有事の拠点として残していたとも言われていて、山城では軍事訓練が日常的におこなわれていたという。トムクルーズと渡辺謙主演の「ラストサムライ」を見ればわかる通り、武士たちが農村にあって武芸を鍛えあっているあのシーンを想起すればいい。

つまり、天然の要害を利用して、外敵から（恐らく当時は幕府の密使などから）身を守るために、便法を使って自らの守りを固めていたのだ。

その武家屋敷の７箇所の中に“佐多直忠庭園”、があった。中に入ると、年配のおばあちゃんがいて、我々が庭の様子や建屋を見学していると、「どちらからおいでなすったか？」、と聞かれたので、「僕らは今日東京から来た。」、と。おばあちゃん曰く、「この小さな庭園は、京都の借景の庭園を模倣して作られていたんだ。」、という。遠くに見える山を比叡山に見立てて、右側に右大文字、左側には出町柳の山麓を思わせる風景なのである。この正体の知れないお婆ちゃんと話し込んでいるうちに、ご主人が、医師だったということ、みると、息子が阪大医学部を出て、血液内科の先生をしていることなどを語り始めたのである。思わずおばあちゃんの話に引っ張り込まれて長居をしてしまったが、面白かった。徳川時代から脈々とのこの地に暮らし、島津家のために、地域の人たちのために働いて来ながら、子孫は医学の道に進むようになった。

帰宅後、あのおばあちゃんの言っていることが本当だったかどうか気になって、“佐多ファミリー”に関連する情報を集めてみると、佐多愛彦先生という人物にヒットする。

“佐多直隆の四男として生まれ、鹿児島医学校を経、1890年（明治23年）に帝国大学（現・東京大学）選科を卒業^[1]。同大学助手、市立富山病院医員を務めた後、1894年（明治27年）に府立大阪医学校教諭となった^[1]。1897年（明治30年）よりドイツに留学し、1900年（明治33年）に帰国^[2]。帰国とともに医学博士の学位を得た^[2]。1902年（明治35年）、府立大阪医学校校長・同病院長に就任し、医学校が大阪医科大学に改組されると引き続き学長を務めた^[1]。また竹尾結核研究所初代所長、大阪血清薬院初代院長を歴任した^[2]。

その他、ドイツのハレ自然科学帝国学士院会員、名誉評議員、日独文化協会会長を務め、1930年（昭和5年）には第8回日本医学会総会会頭を務めた。“

佐多愛彦さんは、なかなか立派な医師で有ったようだ。果たしてこの佐多ファミリー一族。年代から推測すると、このおばあちゃんの義父ないしはその父が佐多愛彦さんで、１９５０年まで生きた佐多愛彦さんの人生にも多少関わっている。「医学以外に興味なく、これだけの資産にも、お金にも執着なかったので、私が税金や不動産管理の仕事を、UFJ銀行の人から学び、継承して来た。今ではここら（知覧町）の税務署の人間より、私の方が色々知ってるよ。もっと若かったら、奈良と鹿児島を行き来して、不動産管理の仕事を広げたいんだがね。」、とのこと。このおばあちゃん達者で元気だ。息子さんは父親同様、阪大病院の血液内科の医師として関西の方で働いているんだと。おばあちゃんもう少し若かったら、知覧の不動産王になっていたかも。今は佐多家の庭園管理の仕事に従事し、当地を旅するひとたちに庭を見せ、世間話や昔話をしながら、穏やかに人生のときを過ごしている。

人の生きた人生に触れた感じがして、面白かった。

佐多屋敷

薩摩武家屋敷のお婆ちゃんと話す。歩く歴史の本