由依のことが好きだって気づいてから自然とプールから逃げている自分がいた。

 

あの日以来、なぜだか気が進まない。

由依とだって毎日のようにLINEでやり取りだってしてたのに、それもぱたっと閉じてしまっていた。

 

私、何がしたいんだろう。

 

スマホを投げ出してベッドの上になだれ込む。

 

由依のこと好きなら、逆にもっと一緒にいる時間を増やすべきなのに。

それができないのは私自身が弱いせいなのかな。

 

なんか由依とこれ以上会ったら、自分の気持ちを抑えられなくなりそうで恐い。

 

今日は大学の講義も全部終わってやることもないし、これからの時間なにもすることがないってのに、ぽけーっとしたまま時間を消費している。

 

 

ああ、由依に会いたいな。

 

会ってプールで一緒のレーンで泳ぎたいなあ。

それからもっともっとおしゃべりだってしたい。

いつものあの低いテンションの由依と戯れて笑わせてやりたいな。

由依、由依。

 

 

最近はずっとこれだ。

何か物思いに耽ることがあればゆい、ゆいって。

ホント、好きすぎるよね。

 

 

ピンポーン

 

 

あ、誰か来た。何か頼んでたっけ?

わかんないけど、とりあえず出ないとな。

 

重い腰をよっこらせって起こして玄関までのそのそ歩いてく。

ガチャッと開くと、そこに思いがけない顔がひょっこりと現れた。

 

 

「理佐…」

 

 

「由依っ!?なんでここに」

 

 

「前に住所聞いたことあったじゃない?って、じゃなくて、なんでプール来ないの?」

 

 

「なんで、って」

 

 

由依が好きすぎて、それに気づいてしまって、会うのが怖くなりましたって。

それが本当の理由なんだけど…

 

 

「なんとなく?」

 

 

「嘘」

 

 

「え…」

 

 

「理佐は嘘ついてる」

 

 

「嘘じゃないって」

 

 

「まぁいいや」

 

 

ほらって由依は手を差し出す。

え、なにこれ握ればいいの?

じゃあお言葉に甘えて…

 

 

 

「プール行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

それから由依は文字通り私を引っ張って市民プールに連れてきた。

途中、覗き込んだ横顔はやけに真剣な面持ちをしていて、なんだかこっちまで黙り込んでしまった。

 

会話もないまま目的地に辿り着いた。

玄関口を抜けて受付を黙って済ませる由依。

更衣室にばたんと入り込んで、由依は遠目に見えるロッカーにすたすたと歩いていった。

 

結局、前と一緒でこの距離感は変わらないままか。

いやいや、自分で拒否ったのではないか。

 

まぁいっか、とりあえず着替えよ。

 

二人で来たってのに、会話もしないまま対角線上に別れて着替えを済ませる私達。

プールサイドで合流したときに初めて由依が言葉を発した。

 

 

「理佐、私から逃げてるでしょ」

 

 

「え!?」

 

 

「この前ここで一緒に着替えるの戸惑ってから、ずっとそんな感じだもん」

 

 

「そんなこと…」

 

 

「ある!」

 

 

「……」

 

 

もうこれ完全にバレちゃってるな。

どうしよう…嫌われちゃったのかな?

女の子同士だもんね、受け入れられないよね流石に。

 

また黙り込んでしまう。

 

 

「そうやってなんでも頭の中で整理つけようとするの、理佐の悪いところだよ」

 

 

「そうだね」

 

 

「私にいろいろ聞いてくれてもいいじゃない」

 

 

じゃあ、聞いてみようか。

由依のこと好きです。

最初見たときから一目惚れでした。

あなたのその綺麗なお顔と瞳とフェイスラインとすらっとした身体全部が好きです。

泳いでるあなたの姿を眺めるのが今一番ハマってる趣味です。

付き合ってくれますか?って

 

そんなこと聞けるはずないじゃん。

私ってこう見えて結構奥手なんだもん。

 

 

「今日は最終レッスンだから」

 

 

「え?今日で終わりなの…」

 

 

「うん」

 

 

ああ、こりゃ本格的に嫌われたっぽいな。

 

 

「今日は私と理佐で勝負します」

 

 

「勝負?」

 

 

「そう。50+αって言うんだけどね」

 

 

由依が説明してくれたとおりだとこう。

レーンの端と端に並んで両方が同時にスタートを切って50メートル泳ぎ切る。

そのあともう25メートルの半分を泳いで相手がその地点に達していなければその人の勝ち。

もちろんその逆、自分が25メートル半分に辿り着く前までに相手がついてれば負け。

これなら、二人だけでも勝ち負けがはっきりわかるでしょ、って得意げに由依は言う。

 

 

「勝ったら相手に好きなこと聞けるってのはどう?」

 

 

「聞いたら答えなくちゃ駄目?」

 

 

「駄目、理佐そうしないと答えてくれそうにないもん」

 

 

「わかった」

 

 

お互いにストレッチしながらプールを見渡す。

今日は最終レッスンということで、必然か偶然か、他に泳いでる人が誰もいなかった。

 

 

「理佐が私のこと好きかどうか聞いてみたい…」

 

 

「…!!」

 

 

ぼそっと呟いただけなのに、その言葉はしっかりと耳に届いた。

由依は笑顔で振り向いてこう続けた。

 

 

「あっ、今のは独り言だからね、気にしないで勝負に集中してね」

 

 

「あ、あぁうん」

 

 

集中なんてできるはずがない。

今の言葉が由依の真意ならば、私だって覚悟を決めなきゃ。

さっき由依に迫られて答えきれなかった質問を勝利の際に聞いてみたい。

 

 

 

 

 

 

 

お互いに端と端、25メートル先の位置についた。

 

スタートの合図は簡単だ。

時計の針が0秒のところを指したところで一斉に開始。

 

あと10秒。

 

由依との特訓のおかげで短距離スピードには自身がある。

クロールで長い時間泳ぐ勝負だったとしたら私には部がないけど、これなら私にもチャンスはある。

そんな条件を示してくれたのは由依なりの気遣いだろうか。

 

秒針が0秒に還る。

私と由依は一斉にスタートをきった。

 

由依との特訓した際に覚えたクロールで必死に前に向かって水を掻く。

水を掴むイメージで。

掻く腕はできるだけ後ろを大きくとる。

頭の位置はずっと水面に並行にしたままで。

 

 

半分くらいきたところで由依とすれ違う。

まだスタートして少しの距離だっていうのに、もうすでに由依にリードされているように感じた。

 

さすがの由依。

いつもはゆっくり泳いでいるように見えるけど、本当は短距離もすごく速い。

 

 

25メートルターンの位置が近づいてきた。

教わったとおりに顎を引いて水中で回転してターンキックを決める。

 

再び前に向かってクロールしたところで気づいた。

由依の位置が近い。

 

さっきは中央付近ですれ違ったのに、ターンを決めたあとすぐ目の前に由依が迫って来てるように感じた。

 

必死に掻く腕を早める。

息継ぎの回数を減らして無我夢中に前に腕を回す。

 

思ってたとおり、今度はだいぶ中央より手前で由依とすれ違った。

このままじゃ負ける。

 

さらに必死にもがいて前に進もうと心がけるが、身体に力が入りすぎてうまいように前に進まない。

 

駄目だ。

これじゃあ由依に教わったことができてない。

戻さなきゃ、自分の泳ぎを。

 

 

ゆっくり息継ぎをして楽な姿勢を心がける。

負けたっていい、由依の最終レッスンなんだからこれは。

由依に教わったとおりに泳いでみよう。

 

 

二回目のターンを決める。

 

もうすでに中央付近には由依が立っているように見えた。

それでも私は緩めることなく自分の泳ぎを進めた。

 

水を掴む感覚を腕で感じるように掻いて。

水面に並行になるように力を抜いて浮くような感じで。

 

 

ようやく中央に辿り着いたときにはやはり由依がもうすでに辿り着いていた。

 

私の完敗だった。

 

でも由依はゴールを決めた私を笑顔で出迎えてくれて、ハイタッチまで求めてきた。

 

 

ぱしん

 

 

「おめでとう理佐」

 

 

「ハァハァ」

 

 

「全力で泳いでくれてありがとね」

 

 

「…はぁ、どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

それから二人でプールサイドのベンチで休憩をとっているときだった。

 

 

「理佐って私のこと好き?」

 

 

「っ!なんて…」

 

 

だって、はぁはぁと息を整えてるタイミングで行ってくるんだもん。

準備出来てなくて酸素が足りなくなった。

由依ちゃんせっかちね。

 

 

「ああ、ごめんまだだった?」

 

 

「いいよ…」

 

 

「で?」

 

 

「好きだよ、大好き」

 

 

「やったー!!」

 

 

由依は地べたに座り込んでいる私に覆いかぶさって抱きついてきた。

突然のことにまた酸素が足りなくなりそう。

 

 

「どうしたのっ!…由依ってば」

 

 

「えへへ~」

 

 

「もしかして由依も私のこと…」

 

 

「うん好き」

 

 

「いつから?」

 

 

「一番最初から!」

 

 

由依が言うには、最初会ったときから私を見て気になっていたらしい。

だからレーン開いてるかどうか聞くのも、他の誰でもよかったはずなのに、気づいたら私のもとに辿り着いていた。

このレッスンだって理佐と仲良くなりたいがための口実…

 

 

ってええ!!まじで!?

 

頭が爆発してどうにかなっちゃいそう。

 

もうこれ私たち運命の相手どうしとかそんな間柄なんじゃないの?

嬉しすぎてやばい。

恋の成就ってこんなに幸福感を味わえるものなんだ。

 

そんな妄想をしてると背中にいる由依からぼそっとまた独り言が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「両想いなんだから、今日は一緒に着替えてくれるよね?私勝負にも勝ったし」

 

 

 

 

この子には苦労しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プラトニックーン』

 

 

 

 

 

 

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思いつき中編小説でしたー!

 

本当はゆいぽんの生誕小説として上げようと思っていた題材なのに、遅くなりすぎてしましいました。

 

 

水泳というのは完全に思いつきでそうなりました。

 

理佐がゆいぽんの姿に一目惚れしてその世界に取り込まれていく様を描いてみたいと思っていて、

そこにプールで優雅に泳ぐゆいぽんの姿がぱっと思いつきました。

 

理佐目線というのはかなり難しかったですけど、こういう奥手でビビリな理佐ちゃんもいいかなぁって(笑)

できればそういう姿も新生櫻坂でも披露していただきたいものです。

りさぽんファンたちの妄想がこういう形になって現れますので…(笑)

 

 

短い中編小説でしたが、読んでいただきありがとうございました!

良ければコメントなど投稿してやってくださいな~