「13期メンバー  加賀 楓!」

一瞬の驚きと息を飲むような静寂の後、会場は想像していなかった、歓喜の轟きに包まれた。

 

ハロープロジェクトのファンなら、研修生加賀の名前を一度は聞いたことがあるだろう。

特技は剣道、爽やかで、いつもキリっとした彼女。研修生生活も4年目を迎えていた。

特に、ここ数年は名実ともにリーダーの役割を担い、ハロプロリーダーの矢島からも「研修生は加賀ちゃんに任せたよ。」と、非情な励ましを貰った事もあった。

 

13期メンバーが研修生から昇格する事が発表になってから約一か月。メンバーから漏れ出てくる数少ない要素をつなぎ合わせて、様々な予想が交わされたが、加賀を予想する声はほとんどなかった。同時期にアップアップガールズ2期の募集も発表され、そのリーダーに加賀が就任するのではないだろうかという意見が大勢を占めていた。

さらに、ネットで飛び交っていた「楓ファクトリー」。加賀をリーダーに新チームを作ってほしいという希望も多かった。加賀を慕う後輩が多かったことも、加賀を中心とした新グループ結成の現実味を高めていた。

 

加賀13期が無いと見られていた一番の理由は、研修生時代の後輩である羽賀朱音の存在だ。

羽賀が研修生に入った時すでに、加賀はリーダー的存在であり、ハロプロのイロハを教えたのは加賀だった。その、羽賀の在籍するグループに入り、後輩になるという前例がなかったので、最初から加賀の名前は驚くほど上がらなかった。

 

しかし、譜久村がいつになく気持ちを乗せ、かつ、はっきりと言い放った名前は、「加賀 楓」だった。

 

舞台の階段を、加賀は、溢れる感情を振り払うかのように、急ぎ足で降りてきた。

武道館の中心に立ち、大きな歓声を上げるファンを改めて前にした瞬間、必死に保っていた笑顔から、涙がこぼれてきた。ほんの3秒くらいだったろうか。下を向き、溢れ出る涙を拭った。

しかし、すぐに顔を上げ、加賀らしい加入の挨拶、「一から努力し、先輩たちを追い抜きたい。」と言い切った。

 

4年前に研修生に入り、デビューを見送ってきた後輩の数は20名以上、12歳から16歳の4年間は、人生の他のどの期間よりも、変化が多く、長く感じる4年間だったに違いない。

 

武道館のステージで、多くのファンの歓声を身体いっぱいに受け、俯き、溢れ出る涙を拭った3秒間。

その時間は、目標を見失わず、挫折を克服し、自分と向き合い乗り越えた者だけに与えられる、貴い3秒間であったに違いない。