今日は、「新型うつ」の話。

職場や学校など、ある特定の環境では一般的なうつの症状(不眠や気分の落ち込みなど)が出るけど、
その環境から離れたら、何事もなかったかのように心が安定すること
を、指すそうです。

NHKも、この新型うつを番組で取り上げました。
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0927/

うつ症状がひどい部下を思い、上司が休職を勧めて、休職した途端、
facebookなどのSNSで、楽しそうに旅行やスポーツをしている部下の記事を見て、
「あいつはなんなんだ!休みを取るために、うつを演じていたのではないか!」と、
憤慨することは、少なくないそうです。

新型うつを、「甘え」と切り捨てる声も少なくありません。

かく言う僕も、正直なところ、新型うつに対しては否定的な考えをもっていました。
うつは、「脳内物質の異常」で起こるだろうと考えている神経科学の立場からすると、
職場を離れた途端、異常だった脳内物質が正常に戻るわけがないと思っていたからです。

しかし、たまたま身近に、新型うつになり、休職した友人がいました。

その友人が、

「元気だったときから、会社と家では、完全にONとOFFで分かれていた。」

「仕事を家に持ち込まない。遊びや趣味を職場に持ち込まない。」

「最近は残業続きで、帰宅しても、すぐ寝るだけの生活だった。」

そう話したとき、僕は新型うつも、本当にひとつの精神疾患なのかなと、思いました。

学生時代から公私混同せず、真面目に研究に取り組み、
こちらが心配になるほど、根を詰める友人でした。

そんな友人を知っているからこそ、友人の新型うつを「甘え」だとは到底思えず、
仕事と私生活をきっちり分けてきた友人だからこそ、
職場では、うつの症状が顕著に表れて、
私生活では、心が安定しているのかなと、なんとなく思いました。

もちろん、この「新型うつ」を利用して、
本当に「休みたくて、うつを演じている」人もいるかもしれません。

だけど、やっぱり、当事者でないと分かりにくい精神疾患だからこそ、
専門家でもない人が、ほんの少し聞きかじったくらいの知識で、
「そんなのウソだ。甘えだ。」と、切り捨てるのはいけない
と思うのです。

今度、新型うつのメカニズムについて書かれた論文があったら、
そちらを紹介します。

新型うつの人の、脳内はどうなっているのでしょう。
「今回も、自費でよろしいですか?」

「はい。会社にはバレたくないので。」


先日、付き添いで心療内科に行きました。

待合室で順番を待っている間、スーツを着た40代の男性が会計をしていました。

そのときに、その男性と受付の女性が、
交わした会話が「会社に通院を知られたくないから自費負担にしたい」という内容でした。

学生の僕にとって、男性の言葉は驚きでした。

社会人は、保険を使うと、勤め先に「どこの病院に行ったか」が「バレて」しまうそうです。

つまり、もしあなたが、心の不調になって、精神科や心療内科を尋ねたとき、
勤め先に、「この人は、精神科に通っているのか。」と思われる可能性があるということです。

風邪をひけば、気兼ねなく内科の先生に診てもらい、
花粉症であれば、気軽に耳鼻科の先生に診てもらいます。

しかし、「精神科」や「心療内科」には、
内科や耳鼻科のように通院できない現実があるのだと、気が付きました。

精神疾患にかかる人は「心が弱いからだ」と、
誤解に満ちた偏見で、評価する人たちが、
まだまだ、社会に多くいるからではないでしょうか。

どうか、この記事に目を触れた方は、
もう少し、精神疾患について理解を示してみませんか。

風邪や花粉症は、病院に行かなくても、徐々に回復していくことが多いですが、
精神疾患は、中々自然に回復するものではありません。

だからこそ、病院にかかることは何も恥ずべきことではなく、
僕が心療内科で出会った男性のように、隠すべきことではないと思うのです。

病院に行けば、瞬時に回復することはほとんどありません。
それでも、専門家に判断を仰がなければならないこともあると、僕は信じています。

会社に通院がバレたくないがために、自費で医療費を払い続ける男性が、
何に臆することなく、保険を使える日が、1日でも早く来ることを、心から願っています。
このブログを立ち上げたきっかけは、友人の突然の自殺でした。

友人の周囲にいた方々から話を聞く限り、彼は「うつ病(※)」になっていたと思いました。
(※ 恐らく「単極性うつ病」です。「単極性」の意味については、別の記事で紹介します。)

しかし、彼が唯一相談していた人物は、

「落ち込むことなんて、誰でもある。気にするな。」

と、彼に話したそうです。

確かに、人は誰でも感情の浮き沈みがあります。
しかし、学生時代は意欲的に物事に打ち込んできた人が、
仕事が始まる月曜日が来ることに、すこし異常とさえ思えるほど不安を感じ、
給料の半分以上を、自己啓発セミナーに費やす様子は、
単なる「感情の浮き沈み」ではないと、少なくとも僕はそう思いました。


「誰でも落ち込む」「そんなこと気にするな」

そう言われてしまうと、

「あぁ、自分は病気じゃないんだ。」「まだ頑張らないといけないんだ。」

と、思い込み、専門家にも当たらず、自分を追い込み続けるのです。
一人で悩み、追い込み続けた結果が、彼の場合、「現実との別れ」でした。

もし、彼が相談していた人物が、もっとうつ病のことを知っていれば……。

もし、社会が、もっとうつ病を正しく理解していれば……。

そう思うと、僕は神経科学という分野で、
精神疾患の研究している身として、心や精神の情報を、
世の中に発信しなければならないと、思いました。

しかし、あくまで僕は、精神科医でもなければ、医学部生でもありません。
したがって、これからこのブログで書くことが、100%お医者さんと同じものではありません。
それでも、1つの情報源として耳を傾けて頂けると嬉しいです。