まず向かったのは集合場所である小田急電鉄新宿駅。
乗車予定の「はこね29号」の切符は「ロマンスカー@クラブ」で予約ずみ。あとは自動券売機で発券するだけなので簡単です。

待ち合わせがホームだったこともあり、ちょっと早めにホームに入りました。

学生時代までは毎日利用していた小田急の新宿駅ですが、基本構造は変わっていませんね。

友人と合流し、程なくしてロマンスカーが入線してきました。

50000形VSE車が第1ランナーです。

小田急箱根観光特急の切り札として2005(平成17)年に登場した50000形VSE車は、現在2編成が活躍中。

3000形SE車~10000形Hi-SE車までロマンスカーの伝統だった連接構造を復活させましたが、編成を前後対称とするため車体長を伸ばして10車体11台車としました。従来の11車体よりも車体が大型化しましたが、アルミダブルスキン構造の採用によって強度を確保して重量増も抑えています。強度を確保した分は窓の拡大にも活かされ、十分な眺望も確保。
座席も窓側に5度傾けて通路側の人も景色を見やすいように配慮されています。

展望室とパンタグラフ付車を除いた客室の天井は車両限界いっぱいまで使ったドーム天井となっています。

この天井はヴォールト(Vault)天井と呼ばれますが、VSE車のVはこのVaultから取ったものです。
13時40分、「はこね29号」はミュージックホーンを鳴らしながら発車。日本で最初のミュージックホーンを採用したのは小田急3000形SE車。当時はエンドレステープで走行中鳴らし続けていましたが、やがて騒音問題となってだんたん鳴らす区間が減少し、30000形EXEの登場と共に一旦廃止されたものがVSE車で復活しました。余談ですが名鉄のミュージックホーンも有名ですが、導入は小田急に遅れたものの、名鉄は電子ホーンを初めて採用しました。
梅ヶ丘からは複々線となり、各駅停車を次々と追い越していきます。

そしてVSEでは飲食品のシートサービスも復活。

VSEでは無線LANを使ってスムーズなサービスを実施しています。
小田急ロマンスカーの伝統を復活させたVSE車ですが、より快適な乗り心地を追求して新しい装備も備えられました。
まずは車体傾斜システム。これは台車の空気バネに空気を入れて車体を傾斜させてカーブ通過時の横G(定常加速度)を低減させるものです。具体的にはカーブ外側の空気バネに空気を送り込むことによって車体を最大2度(先頭車は1.8度)傾斜。これによって、従来車の横Gは0.08Gだったものを0.046Gに減少させています。従来車体傾斜システムや振り子システムは横Gを0.08G~0.09Gを超えない範囲でスピードを上げるアイテムとして使用してきましたが、小田急は横Gを減らすアイテムとして使用している点が大きく異なります。
また先頭台車にはフルアクティブサスペンションを搭載し、左右動揺と反対方向に空気を送り込むことによって動揺を打ち消します。小田急ではスピードアップよりも乗り心地向上を優先させたためか、フルアクティブサスペンションの作動も良好で、先頭車の乗り心地もいい印象でした。
そして、連接台車には自己操舵機構を採用しているため、急カーブ区間でも横圧による騒音が低減されていました。すべては快適な旅のための装備ですが、VSE車は上手く仕上げられたみたいですね。
ところで小田急は鉄道の高速化に関して、メーカーや国鉄技術研究所の技術開発にも積極的に協力し、小田急も積極的に新技術を導入していた時代がありました。
技術研究では、カルダン駆動、空気バネ式自然振り子システム、空気バネ式強制振り子システム、油圧式強制振り子システムなどの研究が行なわれた他、実用化技術では2200形の発電ブレーキ(HSC-D)や3000形SE車の軽量低重心車体、連接構造、ディスクブレーキなどが代表的です。
特にSE車は国鉄の新型特急電車の開発のデータを提供していて、狭軌世界最高速度145km/hを達成しています。
その点では小田急電鉄は、国鉄特急電車時代や新幹線の基礎となっている技術を積極的に導入してきました。VSE車は方向性がスピードよりも乗り心地にシフトしたとはいえ、スピリットはそのまま継承していると言えるでしょう。
そんな思いをはせながら小田原に到着。
ここから新幹線に乗り換えます。

新幹線はEX-ICを利用。モバイルSuicaと連動しているので、携帯電話だけで入場できます。

入線してきたのは700系。今や東海道新幹線最古参です。

C13編成は元々JR東海の編成でしたが、JR西日本の300系3000番代置き換え用としてJR西日本に譲渡されました。外観はJR東海車ですが、車内アナウンスは「いい日旅立ち」が流れます。
700系は300系のモデルチェンジ版として1997(平成9)年に量産先行試作車が登場し、1999(平成11)年から量産車が登場。JR東海の0番代C編成、JR西日本3000番代B編成、そしてJR西日本「ひかりレールスター」用7000番代8両編成E編成が製造されました。

300系よりスピードと乗り心地を向上させ、500系よりも製造コストダウンを狙って、JR東海とJR西日本が共同開発した700系は、最高速度を285km/hに引き上げるためにエアロストリーム形状の先頭部デザインを採用したほか、500系の経験を活かした低騒音シングルアームパンタグラフと碍子カバー、2面側壁、それに先頭車とグリーン車、パンタグラフ付車にセミアクティブサスペンションを搭載しました。
車体はアルミダブルスキン構造を採用、VVVFインバータもIGBT素子となっています。
今回はあえてパンタグラフ付の12号車に乗車。この車両にはセミアクティブサスペンションが搭載されています。700系のセミアクティブサスペンションは、左右動揺を緩和するために減衰力を4段階で変化させます。フルアクティブサスペンションと比べて動作は緻密ではなくなりますが、軽量化と製造コストダウンが図ることができます。もちろん最新のN700系には劣りますが、東海道新幹線の270km/h運転では700系のセミアクティブサスペンションでもまだまだいけますね。

東海道新幹線は日本の高速鉄道のパイオニア的存在なのは言うまでもない話ですが、東海道新幹線0系の開発には小田急に導入された技術もかなり影響を与えていました。
まぁぶっちゃけてしまうと、新幹線開発を含めた新規技術開発を各メーカーが競いあっていた時代に、そのテストベッドとして小田急が協力して、その成果を国鉄の特急電車や新幹線に活かされたとみるべきなのですけどね。
いずれにしても小田急と新幹線というのは、日本の鉄道高速化では重要なポジションにいたんだなってことを再確認しました。
(後編に続く)