バカはもう持ってる本を何度も買うからバカなんだけど、“みなさまの善良な語り手” であるところのこのおれ、にゅっくり朝丸ロケットも例外じゃねえんだ。
狭くてもナイスなおれの部屋の慎ましい本棚を漁ってみりゃ兄弟よ、じつに7冊のアンソニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』があったって言うんだから度を越してる。
何冊かはこれからが楽しみなシャープやマルチックたちにプレゼントしたりもしてるはずなのにな。
まあ、何度読んでもいいものは何冊あったっていいだろう?
こんなスロボを書き散らすと、良識ぶった善男善女の皆様方におかれましては、おお!神さま!と思わず眉をひそめる向きもあるかもしれねぇけど。
1962年発表のこのポリティカルSFのオール・タイム・ベストは知名度こそあれど、決して、コチコチの遵法精神に凝り固まった小市民必携の一冊ってわけじゃあない。
ヤポンスキの兄弟たちよ、あんたがたの9割まではこの作品を、スタンリー・キューブリック監督のナイスな映画のタイトルとして知っているわけだから、小難しい中にいやらしいお楽しみを混ぜ込んだ当世の教養ある若者のファッションの最高のだと思ってるのかもしれない。
「映画は見たけどよくわからない」
まあそんなところだろうな。
だがそこで終わるのはもったいない。
キューブリックが傑作フィルムを撮るとき下敷きにしたのは真面目に勤めに出て、堅実な貯蓄計画を厳守し、夜になったら家に帰り、あの愉快な「入れたり出したり」は愛するワイフとだけだよ、みたいな合衆国のベックたちが目を釣り上げないよう、バージェスが綴った最後の章をストンと裁断機で切り落とした安全版にすぎないのさ。
1980年にキューブリック作品の最高にイカしたビジュアルで表紙を飾り立てて出版された邦訳版も映画と同じく米国版を底本にしたものだ。
なるほど
なるほどなるほどなるほど
なるほど……ハ、ハ、ハ、だ兄弟よ。
牙を抜いて安心安全、治安を第一にご大切に、の精神で調整されたお優しい「時計じかけのオレンジ」を見てこの作品をみくびっちゃいけない。
早川書房から出ている〈完全版〉を読めば誰にでもわかるはずだ。
「時計じかけのオレンジ」は人類開闢以来一度も途絶えたことのないあの人種。
社会の中で一番多様性に富んだその他もろもろ、ふきだまり、不良少年のためのいつまでも色褪せない最新で最高の一冊だってことを、今だけでもいいから信じてみてほしい。
あんたがたは自分がまじめ、マジメ、真面目で堅実に、しかし見知らぬ他人を傷つけないよう優しく生きてる天使のような、そこまでは言わなくても少なくとも平均よりはそれに近い側にいる人間のつもりでいるのかもしれない。
だけどよ、それが本当かどうか考え直したことはあるかい?
あんたがたは本当に優しいと言える側なのかい?
じゃあ収入の何割を動物の保護に充ててるんだい?
法律で救えていない宗教二世の問題に立ち向かうためになんの勉強をしたの?
先週は何人の酔っ払いを車にはねられないよう安全な場所に誘導してやった?
まさかその程度のことに費やす時間も割かず、ちまちまと老後のための資産運用の計画を練ったり、少額の投資に血道を上げていたんじゃあるまいね?
だとしたらマンガだね、大笑いだ、なあ兄弟よ!
あんたがたは平均より優しいなんてことは、おお神様!天地がひっくりかえったってありゃあしないんだ!
あんたがたは自分のちっぽけな楽しみを守るために救える相手を地獄に突き落とす損得勘定もままならないばかな小悪党だ!
ご立派な六法全書に載っていない種類の人間を認めず、当人たちの抱える事情を無視して分類することでようやく「救ってやれる」と見下すアカの社会主義野郎だ!
あんたがたは時計じかけのオレンジを読まなくちゃならない。
それも、仕事に役立ちそうなお利口ぶった実用書だの自己啓発本だのを派手にひっちゃぶいて、ぱぁっと雪みたいに降らしたご機嫌な部屋でだよ。
最後のページを繰ってパタンと本を閉じた時、ようやくあんたがたは薄汚い我利我利亡者よりはほんの少しましな、社会の最底辺より少し下のイカした不良に成り上がれるってことだけは、これはおれが請け合うよ。
そうなったらもう一度聞くことにしよう、兄弟よ
よう、これからどうする?
