
ダメかと思ったけど、先ほど終了。
クエの数が少ないから、と甘く見過ぎていたわ。
ペロはペロでした。
黝い無地の空に下弦の月が昇り始めた頃。
それは騎士団長アルバートの、予定外の些末な案件が重なりに重なった公務が片付いた時間だった。控えの従騎士を先に下がらせ、ひとり執務室の扉を閉じる。
本来ならば星見の晩餐に出席する筈だったのだが、それは国王主催のものではなく急ごしらえの宴であったので、アルバートがそれを優先させる必要はなかった。
必要はなかったはずだが。
静まり返った長い廊下を歩きながら、彼はふと立ち止まった。眼鏡をそっと指で押し上げて、窓の外を見つめる。
朧な光が中庭を藍色に染めていた。深更の空には願いを叶える星の姿は既にない。中空に浮かぶ月が放つ淡く青白い光が、その姿を消してしまったのだろう。
半分に欠けた月の姿は冴え冴えと遠く、つい彼女の横顔を重ねてしまった自分に苦笑する。彼女はもう眠りについた頃だろうか?
自室に戻り、服を着替えようと寝室の扉を開けようとしたとき。いつもと違う雰囲気にアルバートは眉を顰めた。
静かに扉の取っ手をまわして、音を立てずに暗い部屋に入る。オイルランプの火を床燭台に移すとぼんやりと明るくなった。
そして。ベッドの上を見た瞬間、アルバートは首を横に振り大きく嘆息した。
ベッドの真ん中に窓側を背にし緩く手足を丸めて、すやすやと寝息まで立てて眠るプリンセスの姿がそこにあった。
寝間着の上にガウンを羽織っただけという、プリンセスにあるまじき格好で。他人の、それも男の部屋に、更に真夜中に勝手に入り込んで眠っているとは何事だ。
とはいえ、さすがにアルバートにも察しはついている。晩餐会に出なかったのが気になったのだろう。朝まで待てなかったのか。彼女は自分の行動がどういうものか、わかっているのだろうか?胸の奥を掴まれるような感覚が、アルバートにやるせない笑みを浮かべさせた。
再び一つ息を吐き出すと、ベッドの上のプリンセスを見下ろす。
主に断りもなく、お行儀良く枕の上に足を乗せて(つまり逆さ向きに寝ている)。シーツに広がる長い金の髪は幽かな灯りに淡く煌めき、無防備に横たわる体の曲線のその先の、ガウンの裾が乱れて裸足の足首から続く白いふくらはぎが覗いていた。
つい、と目を反らしサイドテーブルを見やると、トレイに瓶とグラスが2つ置かれているのに気づいた。ワインのボトルかと思ったが、それは見た事もない琥珀色の瓶で、ラベルには異国の文字が書かれている。グラスの片方の底にはそのボトルの中身と思われる液体が残っていた。
待っている間に飲んでいたのだろう。
剣帯を外して椅子に置き、重い外套を脱いでそれも椅子の背に掛け、手袋を外す。
「プリンセス」
そっと声をかける。
何も反応がない。ベッドに膝を付いて上がると彼女の顔を覗き込んだ。
「起きてください、プリンセス」
軽く肩を揺すってみる。くぐもった声の混じった吐息が漏れ、長い睫毛が震えたものの伏せられたままで開く気配がない。
「プリンセス?」
もう一度肩に手をかけると、彼女は手を少し伸ばしたかと思えば体を捩って、アルバートの反対側を向いてしまった。
熟睡しているのか。そして寝相が悪いのか。そっと顔を覗き込むと、彼女の吐息がふわりと鼻を掠める。微かなアルコールと、甘く柔らかな花のような匂いがして引寄せられる。
「…ん」プリンセスが小さく息をついた。アルバートは慌てて体を起こし、声をかけようとしたが。
また、ころんと彼の向こう側へ寝返りをうってしまった。本当に寝ているのだろうか。
「おい」
先ほどまでとは違った、低い声で呼ぶ。
「プリンセス」
声をかけた途端、プリンセスは更にもう一回転して、アルバートから離れる。肩が小刻みに揺れていた。
つづくーヽ( ´¬`)ノ