【背景・目的】
可視光(波長400~700nm)を生体組織に照射すると、組織表面で光が拡散(散乱)されて可視光が内部まで届かず、生体組織の内部を観測することが難しい。
一方、近赤外線(本投稿では波長1000~1500nmとする)を生体組織に照射すると、組織表面から最大で20~30mmの深さまで光が到達することが知られている(※1)。近赤外線はX線や核磁気共鳴(MRI)と比較すると、安価で安全に使用できるため、医療業界における生体内部の観測・検査に期待されている。
しかし、近赤外線の利用は、生体内部の「観測」について研究が進められているものの、生体内部の「測定」についてはあまり研究が進んでいない。そこで本投稿では、近赤外線を使用して生体内部の「測定」について考察してみた。
【方法・考察】
光を利用した「測定」は、ランベルト・ベールの法則が広く知られている(※2)。この法則は、物質に光を照射すると特定の波長の光が吸収されるため、光吸収によって減少した光量を測定することで、物質の濃度を測定することに利用できる。
しかし、生体内部の測定には課題があり、本投稿でほはこの課題をクリアする方法を考察する。
ここで、以下の図のように近赤外線を生体組織に照射し、表面から20mm深さの反射面から反射光を取得した場合を考える。「検出器」には図中の「反射面」以外の深さから反射する光も入ってくる。これらの「反射面」以外の深さからの光を除外し、特定の深さに位置する「反射面」のみからの反射光だけを検出器に入れる方法は、すでに共焦点、光干渉、光音響など複数知られているため、本投稿では説明を省略する(※3※4)。尚、本投稿では「共焦点」を利用した場合についての説明とする。
しかし、検出器に入る反射光を「反射面」から反射する光のみに絞ることができても、その反射光は、以下の図に示す「光吸収される光路長」を通過するとき、光吸収され続ける。これでは、生体組織の表面から20mmの間にある全体の物質量は算出できても、反射面のみに限定した物質量までは算出できない。
そこで、以下の図の「反射面1」から「反射光1」を取得し、「反射面2」から「反射光2」を取得するように、複数の反射面から特定の反射光を取得した場合を考える(入射光となる光源は同じ光)。反射面をズラす方法は、焦点位置をズラすなど方法が容易であるため、説明は省略する。この場合、反射光1では光路長1で、反射光2では光路長2で光吸収されるものとする。
この反射光1と反射光2の光強度の差分を計算した場合、その計算結果は、光路長1と光路長2における光吸収量の差分となり、反射面1~反射面2の間にある特定深さ領域における光吸収量と考えることができる。ただし、同じ入射光だとしても、反射面1に到達する入射光強度と、反射面2に到達する入射光強度は、その面に到達するまでに光吸収されてしまうため、異なることが懸念される。その場合、反射光2の強度を補正してから反射光1との差分を算出する必要がある。
ここで、パルスオキシメーターや文献にあるように(※5※6)、2波長差を利用した場合を考える。
例えば、水の吸収波長は1450nmにピークになり、波長1450nmの光を測定光、波長1300nmの光を参照光とした場合、測定光と参照光の反射光の光強度に差が生じると考えられる。ここで、波長による光散乱量の差が、波長による光吸収の差と比べて非常に小さいと仮定し、参照光と測定光の反射光強度が下記の図のようになる場合を仮定する。
まず、参照光の光吸収量が0だと仮定すると、「参照光の反射光強度2(強度:8)」は「参照光の反射光強度1(強度:10)」と同じ「10」となる。「参照光の反射光強度2」と「参照光の反射光強度1」の倍率は1.25倍となり、これを補正倍率とする。
次に補正倍率(1.25)×「測定光の反射光強度2(強度:5)」により、「測定光の反射光強度2」を「強度:6.25」と補正する。
更に「(補正済)測定光の反射光強度2(強度:6.25)」」と「測定光の反射光強度1(強度:8)」の差分と、測定光と参照光の吸光度差から、ランベルトベールの法則の従えば、生体組織内部のおける特定深さ領域の「水分量」を算出することができると考える。
以上で、近赤外線と2つの共焦点系(光干渉システムでも可)を利用して、生体組織内部の特定深さ領域の水分量測定の方法について考察してみました。最後までご覧いただきありがとうございます。
【補足】
測定波長と参照波長の選択は、測定対象の領域深さや、装置の価格や性能などから、水分量であれば1450nmのピーク波長からズラしてもよいものと推測する。
参考文献:
※1: 近赤外蛍光プローブによる生体内イメージング法の開発
https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2019/201903souan.pdf
※2: ランベルト・ベールの法則
https://www.optics-words.com/kogaku_kiso/Lambert-Beers-law.html
※3:共焦点顕微鏡とは?レーザー顕微鏡との違い、原理や歴史についてわかりやすく解説
https://www.yokogawa.co.jp/library/documents-downloads/technical-information/lsc-what-is-confocal-microscopy/
※4: 光音響効果による不透明多層膜厚の計測
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2004S/0/2004S_0_792/_pdf/-char/ja
※5: 生物分析化学演習
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/9/5/9_5_329/_pdf
※6: パルスオキシメータの原理 深堀解説
https://www.konicaminolta.jp/healthcare/knowledge/expert/principle/index.html
※7: 生体組織内に存在する物質量の測定方法及びその測定装置
https://patentimages.storage.googleapis.com/f0/32/41/6c835814376184/JP2014025899A.pdf




