雅喜：あれ・・

クルミ：・・・！！

雅喜：・・あった、こんなとこに紛れてた。はい

クルミ：・・・・・・
雅喜：・・ん？・・あぁ、仕事のギャラだよ。成功報酬ってやつ
クルミ：何の仕事だよ
雅喜：まぁ、サラリーマンじゃねぇの？
クルミ：物騒だろ。銀行預けろよ

雅喜：いつ死ぬかわからねぇのにか？

クルミ：・・・・・・

百瀬：彼女のマンションに？
雅喜：えぇ。
百瀬：告白したんだね、君の病気を
雅喜：彼女はなんとなく・・察していたようなところがあって・・
百瀬：消えたいという匂いから、死というエッセンスを嗅ぎ取ったわけだ・・聡明な女性だね
雅喜：聡明？風呂で手首切って、想像したんです
百瀬：君に近づこうと
雅喜：はっ・・バカな女です
百瀬：バカというのは、時々素晴らしい褒め言葉だ。特に男が女に使う場合。“限りなく愛おしい”という意味に変換される

雅喜：・・はい・・

百瀬：彼女はなんて？薄々気づいていたといっても実際言われるとショックだったろうにねぇ・・
雅喜：大丈夫だと言いました。
百瀬：大丈夫？
雅喜：自分は治せるからって
百瀬：脳の腫瘍を？
雅喜：お前はブラックジャックかって、ジョークでも笑えない

雅喜：あ、クルミなら笑えるかも・・
クルミ：・・え？何が

雅喜：けど・・ルリ子は真面目にそう言ったんだと、あとでわかりました
百瀬：・・大丈夫かい？変な宗教にハマったり・・

雅喜：宗教？
百瀬：妻の闘病生活の時、私は藁をも掴む気持ちがあった
雅喜：えぇ、
百瀬：不思議と、そういう人間をその手の連中は嗅ぎつけてくるんだよ
雅喜：そうですか
百瀬：実は、クルミくんに目を覚まさせてもらった。私に向かってこう言ったよ
雅喜：・・“あんたバカじゃね？”（笑）
百瀬：あはははっ（笑）そう。

雅喜：お前いいこと言ったなぁ～（笑）
クルミ：よせよ
雅喜：心配いりません。ルリ子のは別に、金のかかる方法じゃありません
百瀬：ならよかった

雅喜：言葉です。
百瀬：言葉・・

雅喜：はい

雅喜：・・それでは、失礼します

クルミ：・・・・・・

雅喜：・・ただいま・・

ルリ子：だーめー！もっと大きい声で言って！
雅喜：え？・・・・ただいま！！
ルリ子：・・おかえり！よし、ワンポイント！
雅喜：ワンポイント？何？

ルリ子：バカにしたらだめよ？言葉には、使い方によっては人を傷つける力もあるの
雅喜：まぁ確かに、それで自殺する子供とかいるよな
ルリ子：大人にだって言葉のパワハラ、セクハラ、いろいろあるわ
雅喜：そうだねぇ・・
ルリ子：でも逆に、癒す力もあるの。褒められると嬉しい気持ちになったり、そうじゃなくても日常の“おはよう”、“こんにちは”、“おやすみ”、そうした言葉を明るく交わすだけでも元気になるの
雅喜：そうしたポイントを、積み重ねる
ルリ子：そうよ？言霊って言うでしょ？

ルリ子：たぶん言葉には、使う人の気持ちが入り込みやすいのよ。“おはよう”、“おやすみ”。そういう挨拶の中ででも、あたしは常に言霊を乗せるわ。あなたの腫瘍は消える、魔法の言霊。
雅喜：てか、念力？あっ、スプーン曲げみたいなもんだね

ルリ子：ふざけちゃだめなの！受けるあなたがアンテナ立ってないときちんと受信できないんだから

雅喜：・・別れさせ屋のギャラ。全部ここに突っ込んである。500万くらいはあるかな～・・
ルリ子：いつも持ち歩いてたの？
雅喜：受け取ってくれ。
ルリ子：あたしが？
雅喜：俺には金は必要ない。生活費でも食費でもなんでもいい。あぁそうだなぁ・・君の言葉の治療費、ってのもある
ルリ子：・・・・・・

雅喜：金とってもらった方が、効き目あると感じる。アンテナビンビン立って
ルリ子：・・・なら、バイト辞めるね私

雅喜：え？
ルリ子：これからは24時間、雅喜と一緒にいる
雅喜：（笑）・・ちょっとうざいけど・・まぁ、残された時間もわずかだろうし
ルリ子：死なせないって言ったでしょ？！
雅喜：・・そうだね、その言い方は悪かった

ルリ子：規則正しい生活をしよ？夜には眠る。一人じゃないから眠れるよね？
雅喜：あぁ
ルリ子：朝には起きて、ゆっくりとお散歩に行こ？
雅喜：年寄りみたいだな
ルリ子：そうやって、ずーっと年を重ねていくの。二人でずーっと。
雅喜：・・あぁ。ありがとう
ルリ子：7ポイント！！

雅喜：ん？
ルリ子：“ありがとう”は7ポイント！
雅喜：高いな・・他に7ポイントは？
ルリ子：“ごめんね”
雅喜：“ごめんね”？
ルリ子：“ありがとう”と“ごめんね”。この二つを言い合える二人は、ずっとずっと幸せに暮らせるの
雅喜：ずっと、ずっと？
ルリ子：“ずっと”一つが1だから、“ずっとずっと”は2ポイント！
雅喜：そう考えると、結構面白いな
ルリ子：でしょ？

シニカレ21話。