マリリンの握手会事件を聞きつけてルリ子の家を訪れたであろう雅喜。

インターホンが鳴り、扉を開けるとそこに立っていたのは三枝だった。

三枝：顧問弁護士に任せて、示談という方向で話を進めている
雅喜：そうですか・・
三枝：マリリンと言ったかな？事務所にCM契約を匂わせたら手のひらを返したようだと言っていたよ
雅喜：彼女の様子は？
三枝：取り調べでは黙秘権を行使しているらしい
雅喜：俺の・・
三枝：そう、君に害が及ばないようにだろう
雅喜：すいません・・身元引き受け人も含めて、あなたにこんなお願いを・・
三枝：事件を知れば、頼まれなくてもそうしたよ

三枝：それにしても・・
雅喜：俺があんな嘘を・・だけど、まさか彼女があんな行動を取るなんて、普通・・
三枝：常識的には考えないわなぁ
雅喜：ですよね

三枝：ただ・・彼女の常識では・・いたって普通の行動、だったのかもしれない
雅喜：そんな・・
三枝：見方によってはとてもシンプルじゃないか。君の恨みを晴らす
雅喜：結果、傷害罪で拘留されても・・

三枝：刹那を生きるってそういうことかもしれない
雅喜：刹那・・？

三枝：どう思った？
雅喜：・・え？
三枝：彼女がマリリンを張り倒したと、ニュースで知った時
雅喜：あぁ・・もちろん驚きましたよ
三枝：それから？
雅喜：シャレになんないって
三枝：・・それから？

雅喜：・・何を言わせたいんです？

三枝：愛おしいとは思わなかったかね？
雅喜：・・愛おしい・・？

三枝：そんな女は滅多にいない。なんだかんだ自分の方が可愛い。人間ってそういう利己的な生き物だからね
雅喜：・・ええ
三枝：それを容易く、自分を投げ打つような行動をする女なんだ・・君のためにね？
雅喜：欠落してるんですよ・・何かが
三枝：ほんとにそう思う？・・それだけかね？

三枝：君はもしかして・・心のどこかで、彼女がそうした行動をしてくれないかと・・望んではいなかったかね？
雅喜：まさか・・
三枝：だから我を忘れて彼女を今度は救うために、クライアントである私に助けを求めてきた
雅喜：他にそんなことを頼める力のある方が知り合いに・・
三枝：放っておいてもよかった
雅喜：いや、それは・・
三枝：君がついた嘘だから責任がある？馬鹿な！そんなのは信じる方が悪いと、逃げることはいくらでも可能なはずじゃないか
雅喜：別れさせ屋としての、
三枝：プライド？あははは、よしてくれ！

三枝：言っちゃ悪いが、そこまで誇れるような職業かな？・・人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえってなもんだろう。まぁ私だってそんな偉そうなことを言えるような人間じゃない。君にもう少し待てと言われたにもかかわらず、嫉妬心から君の正体をバラしてしまったんだからね
雅喜：ええ・・
三枝：薄々、気づいてきているんだよ

三枝：君も、私と同じでね・・彼女の、素敵さに

雅喜：俺はただ・・
三枝：だから離れ難く思っている
雅喜：それは違います
三枝：いろいろ理由をつけてでも、また会いたくなる
雅喜：そういうことじゃ・・

三枝：欠落していると言ったね？しかし、そこにこそ、心の美しさが集約されている。鋭角に切られて、ダイヤのようにキラキラしている
雅喜：俺は・・
三枝：普通の男ならドン引くだろう。しかし君はそうはせずに助けてくれと泣きついてきた

三枝：もしかして君の方も、何か欠落しているんじゃないかね？
雅喜：・・・・・
三枝：彼女を、愛おしいと思うんだろう？

三枝：愛し始めてるんだ

雅喜：・・・・・・・

警察署から出てきたルリ子を待ち伏せていた雅紀。

まさか自分を待ってくれていると思わなかったルリ子は笑顔で駆け寄る。

雅喜：大変だったね・・
ルリ子：カツ丼出ないのよ？びっくりした
雅喜：そう・・

ルリ子：ごめんね？
雅喜：どうして君が謝るんだ？
ルリ子：いや、迷惑かけたかなって
雅喜：もろもろやってくれたのは三枝さんだよ
ルリ子：あっくんが？そっか、急に対応変わったからなんでかなーとは思ってたけど

雅喜：俺は何もしてない
ルリ子：迎えに来てくれてるじゃない
雅喜：それぐらい、当然だろ
ルリ子：どうして？
雅喜：だって・・俺がついた嘘で・・
ルリ子：嘘だったんだってね！弁護士さんに聞いて笑っちゃった！マリリンに謝らないと（笑）

雅喜：どうして笑うんだよ・・そこ怒るとこだろ
ルリ子：まぁ、信じたあたしが悪いってのもあるんじゃない？
雅喜：信じるように話したんだ
ルリ子：話し方は関係ないよ。私は、あなたの言うことを信じることになってるから
雅喜：なってるから、って・・
ルリ子：じゃないと迷うでしょ？疑ったりとか面倒臭いし。だから全部信じることになってるの、あたしの精神構造って
雅喜：どんな構造だよ
ルリ子：だよね。つまりあたしのシステム上の問題だから、別にあなたは悪くないってこと

シニカレ14話。