我が家の墓地には、先祖代々の墓石の他に、新たに建てられた墓石があります。

しかしその下には、遺骨は無く魂だけが眠っているお墓なのです。


先生 その241


ボクのおやじとおふくろは、ギリギリ戦後生まれですが、祖父母やその兄弟はみんな戦争を体験しています。祖父さんの男兄弟は5人いましたが、終戦当時18歳だった一番下の弟さんを含めて、全員軍隊にいた経験を持ちます。


その中で唯一、戦地で亡くなられたのが三男の明さんです。

詳しい話は聴いていないのですが、ビルマ(ミャンマー)戦線で戦闘中に亡くなられたとのことで、遺骨はありません。享年は21歳、まだ自分の家族を持つことはできませんでした。


祖父さんは兄としての責任感から、ミャンマーの戦場跡地を訪ね、彼の地の石と土を拾ってきて我が家の先祖代々のお墓の隣に、明さんの墓石を建立しました。

そして調べられる限りの明さんの戦友を集めて、墓石のお披露目を行うことにしました。今から約30年前の出来事です。


これは後で伝え聞いたことですが、この時小学生だったボクは、法要を営む席に集まったお客さんに奇怪な行動をとったらしいのです。


母や祖母、叔母たちがお茶の支度をしているとき、何を思ったのかボクがお茶を出した時のこと。皆さんを前に挨拶をしたらしいのです。


「今日は私の為に集まっていただき、ありがとうございます」


???

言い間違えただけかもしれませんが、その場にいた戦友の方や、明さんの兄弟は「明に生き映しだ」と驚いたとか・・・。いや、ひょっとしたら、明さんの魂が憑依していたのかもしれません。

いずれにしても、当然この方にお会いしたことはないのですが、この話を聴いてからボクは明さんを他人とは思えなくなってしまいました。


今日は終戦記念日。

ボクのおふくろが生まれた町は、海軍の基地が近くにあったり、予科練の訓練所があったのですが、自分が生まれるちょっと前まで戦争をしていたという実感はあまり感じなかったようです。

奇襲に怯えることなく過ごせる日々は、あたりまえではないことに感謝して生きる。それが明さんを始め、戦争で亡くなられた方々に対する恩送りと信じています。