7.1「マイク・ペンスに関する文を挿入せよ」

トランプ大統領は、1月6日の朝に3回ツイートし、午前8時06分に不正選挙の嘘を繰り返し、午前8時17分に選挙人票の集計を遅らせるよう圧力を行使し、共和党議員に同じことをするように午前8時22分に要請した。彼は、その多くが選挙人票に集計にすでに異議申し立てることを約束していた連邦議会の共和党議員の仲間に電話をかけた。そして、彼の弁護士や、トランプ大統領に対して権力に留まる方法を助言していたスティ―ブ・バノンとルドルフ・ジュリアーニを含む顧問たちに電話をかけた。

トランプ大統領がその日の朝に接触を試みたがそれがかなわなかった、彼の計画にとって不可欠であった人物がいた。午前9時02分、トランプ大統領は、交換台交換手に副大統領に電話を掛けるよう依頼した。ペンス副大統領は、電話に出なかった。

その代わりに、午前9時52分と10時18分の間、大統領は、数時間後の「アメリカを救え集会(Save America Rally)」で彼が行うこととなる話に関して彼のスピーチライターのスティ-ブン・ミラーと話をした。トランプ大統領のスピーチは、連邦議会による反対を奨励することを狙ったものから最終的に暴徒の暴動の扇動となるものに至るまでを36時間のうちに一挙に実現させるものとなった。

話が終わったわずか4分後の午前10時22分に、ミラーは、改訂版をスピーチライターたちにEメールで送り、「合衆国大統領による編集を示す赤いハイライト」を含む「これらの変更をできるだけ速く始めるように」という指示を彼らに与えた。原稿全体に「不正」という用語をたっぷりとばらまくような表面的ないくつかの修正を行ったが、群衆の怒りを新しいターゲットである一人の男に焦点を当てることとなる実質的な修正が行われた。

既に書かれていた原稿のいずれも、ペンス副大統領に一切触れてはいなかった。しかし、今度は、まさに最後の段階で、トランプ大統領は、副大統領を名指しして非難する次の文章を挿入した。「本日、我々は、共和党員が我々の選挙の完全性を求めて力強く立ち上がるか否かを目にする。そして、マイク・ペンスが真に偉大で勇気のある指導者として歴史に残るのかどうかを見ることになるだろう。彼がなすべき唯一のことは、彼らが認定したいと欲している嘘の不正な情報を与えられた州に違法に提出された選挙人票を差し戻すことだ。問題となっている7州のうちのわずか3州で我々が勝利しており、大統領になり、拒否権を有している。」

トランプ大統領が午前11時に演説すると当初定められていた30分前になぜこれらの文言を付け加えたのかをスピーチライター・チームの誰もが説明できなかった。しかし、午前10時49分には、「エリプス」でテレプロンプターの設置を行っていたスピーチライターのヴィンセント・ヘイリーは、今度は、中止して副大統領に言及している部分を削除するよう指示された。

ミラーは、トランプ大統領の上級顧問の一人であるエリック・ハーシュマンが彼に対して当日の朝に短い補足意見書の中で、彼らが採用している法的見解に自分が同意しておらず、その法的見解は事態を前に進めることができず、かえって非生産的であるので、副大統領と認証手続きの中における副大統領の役割についての言及を削除するように要求したと述べた。

第5章で詳細に説明されたように、ホワイトハウス内のハーシュマンらは、副大統領が連邦議会の両院合同会議中に選挙人を拒否する一方的な権限を有しているということを主張しているジョン・イーストマンの理論を強力に批判していた。トランプ大統領は、イーストマンの憲法違反で違法な理論に基づき、ペンス副大統領に対して認証された選挙人を拒否するか、選挙人票の集計を遅らせるように圧力を加えていた。ペンス副大統領は、意見を変えようとはしなかった。副大統領は、トランプ大統領の要求を一貫して拒否した。

その日の朝、さらに4回ツイートを行った後(それらはすべて選挙に関する嘘を拡散するものであった)、トランプ大統領は、彼のナンバーツーに対してアメリカ国民の意思を覆すように説得する最後のチャンスがあると明らかに考えた。

第5章で述べられていたように、トランプ大統領は、午前11時17分にペンス副大統領に電話をした。その間にトランプ大統領はすぐにいらだち、あるいはいきり立ち、一見して動揺し、かつ怒りだした、二人の間のその電話はほぼ20分続いた。そして、トランプ大統領は、ペンス副大統領が合同会議を妨害するか遅らせることを拒否したとき、副大統領を侮辱した。

その電話の後、キース・ケロッグ大将は、室内に居た人々がすぐに「エリプス」での演説の編集に戻ったと述べた。午前11時30分に、ミラーは、彼のアシスタントであるロバート・ガブリエルに主題だけで本文のテキストがないEメールを送った。「 電話があるまで待機せよと挿入すること。」午前11時33分に、ガブリエルは、スピーチライター・チームにEメールを送信した。「マイク・ペンスに関する文を挿入すること。受領したことを確認して欲しい。」1分後、スピーチライターのロス・ウォーシントンが電話でヴィンセント・ヘイリーに接触したと確認した。ヘイリーは、彼がテレプロンプターを操作中に「副大統領に関する厳しい文を」彼が追加したと証言した。

最終的に書かれた草案には、ペンスに関する次の言及があった。「そして、我々は、マイク・ペンスが真に偉大で勇気のある指導者として歴史に残るのかどうかを見ることになるだろう。」その一文は彼が挿入したものであったのかは自信がなかったが、「国立公文書記録管理局(NARA)」が提示したEメール交信録とテレプロンプターの草案は、ヘイリーが間違っていたことを示した。
トランプ大統領による圧力に抵抗した後、ペンス副大統領に関する言及とヘイリーが掻き立てた大統領のいらだちは演説の中に復活された。

興奮した電話の後、トランプ大統領の個人秘書のニコラス・ルナは、ホワイトハウスの厚紙に書かれたメッセージをトランプ大統領に手渡した。そして、大統領は、彼の演説を行うために「エリプス」に向けて出発した。「国立公文書記録管理局」が保存したメッセージには、以下が記録されていた。「準備はすべて整っており、大統領次第です。」最終的にトランプ大統領が演説する時間になったとき、彼は、ペンス副大統領に対して繰り返し彼の怒りを向け、しばしば、原稿草案に書かれていなかったアドリブの発言を加えた。

7.2「私は皆さんとそこで一緒になる」


トランプ大統領は、5万3千人ほど集まっている支持者を「エリプス」での舞台後方のテントから眺め、ますます興奮して怒りだした。これらの集まった人々の約半分の2万5千人が磁気探知機によって前進を拒否され、武器を調べられており、会場は自宅で見ているテレビの視聴者たちには半分がガラガラであるように見える状態であった。

特別委員会が得た証言によれば、その日の午前中の早い時間のホワイトハウスで、トランプ大統領は、観衆が武装していることから磁気探知機を通過するつもりがないと告げられた。「大統領閣下、彼らは現在中に入りたくないと思っています。彼らは、シークレット・サービスに押収されたくない武器を持っています。」と、副首席補佐官のトニー・オーナートは、大統領に告げた

したがって、トランプ大統領が集会会場に到着し、彼自身で群衆を見ることができたとき、キャシディ・ハッチンソンが後にオルナートにテキストメールを送信したように、「大統領は、ひどく怒っていた。」ハッチンソンは、トランプ大統領は群衆に話しかける数分前に、彼のチームに対して、どなりたてたと証言した。「彼らが武器を持っていても全く気にしない。彼らは私を傷付けるためにここにいるのではない。いまいましい磁気探知機を取り払え。そして、彼らが、ここから議事堂まで行進することができるように、集まっている人たちを中に入れろ。いまいましい磁器探知機を取り払うのだ。」

正午には、トランプ大統領は、「エリプス」で登壇した。トランプ大統領は、磁気探知機を通過しなかった人々を含む参加者全員が演台の近くまで来ることを望んだ。「そして、私はこれらの数万人の人たちがここまでやってくることが許されるよう願っている。それは可能だろうか?どうか、彼らをここまで来させてくれ!」と、トランプ大統領は述べた。トランプ大統領は、彼の支持者と共に連邦議事堂まで行進したいと望んでいると、1月6日前の数日間、彼の周囲にいる人々に対して繰り返し明らかにしていた。すなわち、トランプ大統領が彼の支持者の動きに加わることを望んでいたということは、シークレット・サービスが「オフレコ(off-the-record=OTR)」な動きと呼んでいるものである。

大統領が演説をしている間、ハッチンソンは、オルナートに「大統領は、登壇する前に連邦議事堂までの大統領のオフレコな動きについて言及し続けていた。」とテキストメッセージを送信した。大統領が一歩踏み出そうとした数分前、首席補佐官のマーク・メドウズは、自分がそれについて動いていると大統領に確言した。

行進するというトランプ大統領の計画は、当初の演説原稿の中で言及されており、その後の新しいバージョンでは「連邦議事堂」の後に「建物」という用語が追加され、群衆がまさに向かうべき場所が明確にされた。そして、大統領は、自分が彼らの行進に加わると繰り返し群衆に告げた。

「この後、我々は行進を行う。そして私は、皆さんと共にそこに向かう。我々は行進を行う。行進するのだ。」トランプ大統領は、群衆に向かって述べた。「我々は、連邦議事堂まで行進する。そして我々の勇敢な上院議員と下院議員を激励するのだ。そして、彼らのうちの何人かに関してはおそらくそれほど激励することはないだろう。」

トランプ大統領は、彼のホワイトハウスのスピーチライターたちが書いた「平穏かつ愛国者的に」という言葉遣いを彼の約20分間の演説の中で一回使った。その後、トランプ大統領は、選挙に関する嘘で彼の群衆を盛り上げ、彼自身の副大統領と連邦議会の共和党議員たちを攻撃し、群衆に闘うことを勧めて次の50分程度を費やした。「そして、我々は戦うのだ。必死に戦うのだ。」大統領は、既に「トランプのために戦え、トランプのために戦え」と叫ぶことでその日を過ごしていた、そして連邦議事堂を襲撃するときにそのコーラスを続けることになる群衆に向かって告げた。

最終的に、トランプ大統領は、「我々の国を取り戻すために」向かうべきところを群衆に告げた。「したがって、我々は、ペンシルバニア通りを行進するのだ。私はペンシルバニア通りを愛している。 我々は、我々の支援を与えるのだ。我々は、我々の弱い共和党員に支援を与えるのだ。なぜなら強い共和党員は我々の支援を必要とはしていないからだ。我々は、我が国を取り戻すために彼らが必要としている種類の誇りと大胆さを彼らに与えるのだ。だから、ペンシルバニア通りを行進しようではないか。」

大統領がマイクロホンから彼の意図を発表したとき、人々は聞いていた。下院共和党院内総務のケビン・マッカーシーは、演説の最中に(訳注:ホワイトハウスに居た)ハッチンソンに電話をした。「君たち(訳注:ハッチンソンを含む大統領一行)は、私の事務所(議事堂内の)まで来たいと思っているのか?」と、ハッチンソンに尋ねた。
ハッチンソンは、彼らがまったくそのつもりがないことをマッカーシーに保証した。
「分かって欲しい。ここまでは来ないで欲しい。」

演台からの発表はシークレット・サービスに警戒態勢を取らせ、最先端にいた即応チームに対してEメールで大統領の連邦議事堂までの行進・車列に伴い群衆に紛れ込み、事態が悪化した場合に対する緊急プランを策定するようシークレット・サービスの要員に対する指示を急がせた。

ホワイトハウスのセキュリティ・スタッフは、リアルタイムで状況を監視しており、トランプ大統領が「連邦議事堂に行こうとしており、彼らが最良のルートを現在探っている」と発言していた。それにもかかわらず、これらのスタッフは、特に大統領がこれに加わった場合、これはもはや集会ではなくなるだろうと理解していたことから、「ある種のショック状態」にあった。

「もし大統領が物理的に連邦議事堂まで行進したなら、これは、反乱か、クーデターのような何か別のものになるだろうと誰もが理解していた。我々全員が、これが正常な、民主的で公的なイベントから別物になると理解していた。」

しかしながら、このロジステックスが、すべての動きを不可能にした。シークレット・サービスが大統領の動きを調整することは、通常の日においてでさえ複雑であった。しかし、その日は通常の日ではなかった。トランプ大統領の数万人の支持者が集会の数日前からワシントン特別区の中心部に殺到しており、シークレット・サービスは、その予測不能性を考慮しなければならなかった。大統領の演説が終了したときには、連邦議事堂での群衆がますます暴力的になることは明白であった。

午後1時19分に、シークレット・サービスのある大統領警護官は、トランプ大統領のシークレット・サービスの警備隊長であるボビー・エンゲル宛てに書いた。「貴職の状況認識のために送ります。。。[議事堂警察が]連邦議事堂の安全確保に深刻な挑戦を抱えています。現時点で優先的な安全対策に対する9件の違反の試みが行われています。事堂近くのいずれかの場所への[大統領による]オフレコの動きは。決してお勧めできません。時間があるときに、電話をください。議事堂への[大統領の]オフレコの動きに関して、(現場の)第一線は懸念しています。」

(「7.3 連邦議事堂に行進することができなかったときの大統領の怒り」に続く)