アツシは奥田に渡された名刺のビルの1室に着き、ドアをそっと開いた。
『失礼します。奥田さんからここに来れば解るって言われたんですけど。』
戸口に出てきた中年に声をかけた。
『少々お待ち下さい。社長!』
呼ばれて出てきたのは、20代半ばに見える綺麗な女性だった。
肩までの長さの髪の毛は見事な金髪に染め上げられている。ピタリと張り付いたパンツを履き、大き目のTシャツを身にまとっている。そのTシャツにプリントされた女性の顔と、目の前にいる女性の顔はよく似ていた。眉毛が無いこと以外は。
『驚いた?初めまして私がここの社長です。』
『いえ。あの。朗さんって』
『そう。私の名前よ。ア・キ・ラ。生まれてからずっと女よ。』
『はい。初めまして。池上アツシです。すいません。男の人だと・・・』
『内容は聞いてる?』
『いえ、奥田さんから行って来いとだけ言われて・・・』
『それじゃ紹介するわ。こっちへ来て。』
アツシはパーティションで仕切られた部屋に案内された。
何名かのスタッフがいるようだが、何をやっているのか皆目見当も付かなかった。
皆、無言でマウスをクリックする音とキーボードを打ち込む音だけが聞こえてくる。
『ここに座って頂戴。』
アツシは促されるまま席に着いた。
『ログインして』IDは苗字と0941で、パスワードは今日の日付と名前と誕生日である事を教えられたアツシは、その通りを打ち込んだ。
手つきを見ていたアキラは、アツシがキーボード慣れしている事を見抜いた。
『ここがアナタ用のフォルダで、ここ以外は開けないようになってるわ』
アキラは、これから画像データが送られてくる事、画像に加工を施し、作業完了フォルダに入れることを指示して、携帯電話を取り出した。
『20枚の画像データが入ってくるから、顔の部分にモザイクを入れて欲しいの』
モザイクを入れるツールの説明を一通り行って、アキラはその場を立ち去った。
少しするとアツシの端末にポップアップが出現した。"フォルダ内容が更新されました”と書かれている。OKとかかれたボタンを押すと、20個の画像データが表示される。アツシは先頭のデータを開いてみて驚いた。
そこに表示されているのは、真っ赤なロープで手足を縛られた女性の姿があった。思わず息を飲む。あるはずの毛は綺麗に剃り落とされ、性器が露出していた。
少しの間、あっけに取られていたが、すぐにアキラからの指示を思い出し、画像の加工に取り掛かった。
『お手並みを拝見するわ。』少し離れた所に座っていたアキラの端末には、アツシが見ているのと同じ画像が表示されていた。マウスの動きまでもモニターできている。
『顔にモザイクと言っても・・・こっちはどうしたら良いんだよ・・・』
アツシは迷っていたが、指示に無いことをする訳にも行かないと判断し、顔の輪郭に沿ってモザイクをかけて行く。5分ほどで作業を終わらせ、次のデータの処理に取り掛かる。作業を重ねるごとに時間は短くなっていき、最後の1枚は2分以内に仕上る事ができた。
作業完了フォルダにデータを移し替えたアツシの背後から、いきなり声がかけられた。
『驚いたわ。経験者?』
不意に声をかけられ椅子から飛び上がったアツシを見て、アキラが苦笑する。
『いいえ。でも、写真の加工には慣れてます。』
アツシは現場で写した写真を記録台帳に載せるときに、見えてはいけない部分をチェックして、それに修正を加えていた。加工がばれた事は無かった。
『もう少しで休憩時間なんだけど、あと20枚いける?』
『ええ。良いですよ。』アツシは画面に向き直った。
全ての画像を処理し終えるのにかかった時間は30分を少し過ぎた位であった。
『腕は十分ね。食事に行くわよ。好き嫌いは?』
『漬物以外は何でもOKです。』
アキラとアツシは会社を出て、近くのステーキハウスに入った。
今までの経歴と奥田との出会いを簡単に話した。いくつかの質問の後、アキラが尋ねた。『そっちから質問は?』
『この商売って儲かるんですか?』
『やり方次第ね。世の中色々な趣味の人がいるわ。私たちは、場所を提供しているだけ』『明日はどうしたら良いですか?』
『私もアナタが気に入ったわ。午後3時にまた来て頂戴。』
ナオアキは写真データの整理を終えて、データ転送を行っていた。
ダウンロード数に応じて変動するランキングの上位者には、ディスクスペースの優遇措置が取られていた。あと4つ順位を上げることで優遇措置を受けることができる。そして、ナオアキの順位は日を追う毎にジャンプアップしてた。最初はヨシエを陵辱している写真を見せたいだけだったが、ナオアキの興味はランキングに移っていた。ランキングによってネット上の知名度が上がり、収入があり、快楽を得る事ができる。一石三鳥の状況に深くのめり込んでしまっていた。
『ウチで働いてもらう事にするわ。』アキラは奥田と電話で話していた。
『時間の拘束はしない。期日までに仕上がっていれば良いの。』
アツシは繁華街を歩いていた。何処かにヨシエが居るのではないか?と行き交う女性の姿を目で追っていた。不意に後ろから肩を叩かれて振り返ると、リョータが立っていた。
『見つからないな。』リョータはすまなそうに呟いた。
『あぁ 何処にもいねぇよ。』
『学校は全部調べた。休学とか届けも出てないそうだ。』
『あの日の朝までは確かに居たんだよ。電話で話したんだ。』
『ちょっと付き合えよ。お前とはちゃんと話さないといけないような気がする。』
リョータはアツシを促して、馴染みのバーへ向かっていった。
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ヨシエはナオアキに出される食事に手を出すようになっていた。
毎晩のようにしつこく責められ続けており、体力も限界に近づいていたある晩、ソーセージをもって来たナオアキはヨシエの秘部にそれを挿入し、頃合を見て口の中に押し込んだのだ。
本能がそれを逃さなかった。ヨシエはソーセージに貪り付いた。
坂道から転げ落ちた石を止める事は不可能だった。
その晩、行為は中途半端に終わり、ヨシエの食欲だけが満たされた。
久しぶりに安らかに眠る事が出来た。首輪も手錠も足枷も気にならなかった。
次の日の朝。
おにぎりとぬるめのお茶が出されると、ヨシエは素直に手を出し口に運んでいた。
満足そうにそれを眺めるナオアキは服従させる事に一歩近づいた実感を味わっていた。
ヨシエの様子がいつもと違う。色気というか妖花のようなものが漂ってきた。
ヨシエを監禁してから8日目の事だった。
屈辱的な行為にしても抵抗はするが、本気で嫌がっている様子は無い。それどころか言われもしない事を自らするようになって来ていた。
ナオアキは満足そうに頷くと、ヨシエを部屋に残して出て行った。
再び戻ったナオアキの手にはコンパクトタイプのディジタルカメラが握られていた。
『記念撮影しながら楽しもうか?』
ヨシエの視線にはカメラなど写っていなかった。
目の前にあるいきり立った肉棒だけしか興味は無かった。
いつからだろう。私を呼ぶ声が聞こえる。
ヨシエは現実なのか、夢なのか解らなくなっている時間の存在に気が付いていた。
それが何分なのか?何時間なのか?もしかしたら何日?
日の射さない部屋。時計の無い部屋でヨシエの時間感覚は大きく狂っていた。
部屋の中は闇に閉ざされていた。
あいつは誰なんだろう?アツシは何をしているの?
幾度と無く繰り返された自問自答だった。答えは見つからない。
部屋の照明が点された。目が眩む。ナオアキが入ってきた。太い注射器を手にしている。ヨシエは自分で排泄する事は無くなっていた。いつもナオアキに浣腸されて、目の前で排泄する事を強要されていた。うつ伏せにさせられ、肛門に温い刺激が伝わった時、ヨシエの意識は段々と遠のいていった。
そして、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
『・・・サキ・・・そばに・・・守って・・・』
それっきり声が聞こえる事はなくなっていた。その後の事をヨシエは覚えていない。
『もっと舌を使うんだよ。そうだ。いいぞ。』
ぴちゃぴちゃと音を立てて、ヨシエはナオアキを口で責めていた。
ナオアキは堪らず引き抜いた。
後ろ手に縛られた姿で、ヨシエはそれを追いかけ、なおも口に含もうとする。
『ちょっと待ってろ。』ナオアキはそれを制して、大型のモニタに接続したディジタルビデオの角度を合わせた。横になり、自分の姿が45度の角度に映るようにする。
仰向けになったナオアキは、両足を大きく掲げると、いいぞと声をかけた。
ヨシエは前に這いずって行き、ナオアキの肛門を刺激し始めた。
そして3回昇天したナオアキは満足そうに、ヨシエにバスローブをかけると、ベッドへ促した。ロープを解き、縛り後をマッサージして行く。
『ゆっくり休むんだよ。』
そういって、ナオアキはビデオカメラと共に部屋を出て行った。
監禁室は再び闇と静寂に包まれ、ヨシエは深い眠りに堕ちて行った。
自室に戻ったナオアキは、録画映像を再生し始め、気に入った部分をスチール写真として切り出し始めた。SM系のサイトへ投稿するためだ。直接写真をアップロードするわけではなく、投稿専用のアップロードフォルダに投稿する。それをサイトスタッフが選択してサイトに貼り付ける方式を取っている。サーバー自体は海外に設置されており、警察の手が及ぶ事は無いが、サーバーが有るというだけで、実際の運営は日本で行われていた。
このサイトは有料会員制であり、ノーマル会員は顔にモザイクを施された画面を見る事になる。もちろん秘部はそのままの状態であるが、画像をダウンロードする事や印刷などは不可能な仕組みなっている。プレミアム会員になると顔のモザイクが除去され、投稿されたそのままの画像を見ることができ、ダウンロードも可能になる。
写真の閲覧された回数やダウンロードされた回数はシステムによってカウントされ、投稿者に数%のキャッシュバックがもたらされる。
近日中に動画の受付も開始すると告知されてあった。動画の場合はキャッシュバック率が跳ね上がる。ナオアキの投稿は常に上位にランキングされていた。機材に金がかかっているし、構図も計算されている。何よりもモデルの人気が高かった。丹精な顔立ちに対してのハードプレー。そのギャップが受けていた。
『そう言えばアツシ、お前仕事はどうしてんだ。』
エボリューションの事務所に居ついたアツシは奥田の問いかけにぶっきらぼうに答えた。『とっくの昔にクビになりましたよ。』
『金は?』
『貯金を切り崩しています。』
貯金はヨシエとの結婚を意識して密かに始めたものだった。
『警察は本腰入れてくれないし、貯金が無くなるまで探し続けますよ。』
捜索願は提出済みだった。ヨシエの両親とも連絡を取っている。
『お前パソコン詳しいか?』
『マニアじゃないけど、そこそこはいけますよ。』
『ここへ行ってバイトして来いよ。気晴らしも必要だろ?』
奥田から名刺を渡されたアツシは、困惑した表情で問いかけた。
『何の会社っすか?』
『いいから行って来い。俺の名前を出せば解るようにしておくから』
『はぁ』気の無い返事をしながらアツシは出て行った。
4人はお互いの携帯番号とメールアドレスを教えあった。
『変わった携帯だな。』アツシの携帯を見て奥田が尋ねるた。表示部分が大きい。
『最新版だからな。』アツシは携帯をスライドさせ、キーボードを出すと慣れた手つきでキーを打ち込んだ。そこにはエボリューションのホームページが表示されている。
『パソコンと変わらないんだ。』
そう言って、アツシはにやりと笑った。笑った途端に痛みが走る。
『何か判ったら俺に連絡をくれ。要点をまとめてメールを流すから』
奥田にそう言われ、アツシは皆と別れた。
『太平に行ってみるか。』
アツシは呟き、タクシーを捜して通りを見渡した。
『ちゃんと食べないとダメだっていったろう?』
ヨシエは出された食事に手を出さなかった。腹は空いている。しかし、プライドがそれを許さなかった。絶対に負けない。そう心に誓っていた。
『無理しちゃダメだよ。』
ナオアキはヨシエの目の前で食事を始めた。カレーライスだった。
わざと匂いが出るものを選んできている。そして、食器の音も大きく立てていた。
ヨシエの腹が音を立てた。
『さっき沢山出しちゃったからね。我慢しないで良いよ。』
ナオアキはニヤニヤしながらヨシエを見下ろした。しかし、目だけは笑っていなかった。
『いらっしゃい。おっ現場終わったのかい?』
アツシが店に入ると、大将が声をかけてきた。
『アツシじゃねぇか。お前なんでここへ?』
カウンターにいた山崎が声をかける。一番見つかりたくない人に見つかった。いや太平に行けば、山崎がいる事は判りきっていた事だ。
アツシは頭を下げて、山崎の隣に腰を下ろした。
『ヨシエは来てないですよね?』
山崎の問いかけに答えず、アツシは大将に話しかけた。
『今日はバイト休みの日だけどさ。連絡取れないの?』
『あっ いいんです。山さん失礼します。』
アツシは何も注文せず、店を出て行った。
『相当悪いのかな?』
『何がだい?』
『親御さんの具合が悪いようでさ、現場から戻ってきたんだよ。』
『そいつは大変だな。』
アツシが出て行ってから、大将と山崎はいつもと様子が違うアツシを気遣っていた。
『しかし・・・あの顔はどう見ても殴られた顔だな・・・』山崎は呟いた。
アツシはそれから3日間、街を歩き続けた。あてがあるわけでも無い。でも、部屋でじっとしていられなかった。朝早くに家を出て、深夜戻ってくる。疲れているが、熟睡する事は出来なかった。時折エボリューションに顔を出し、奥田に状況を聞いてみたが、これといった進展は無かった。
奥田は店のことがあるので、そうそう自由に時間を取る事が出来ない。
自分に進展が無い以上、カオルとリョータの成果を期待するのだが、そちらもこれといった収穫が無い状況が続いていた。
会社から何回か電話が来ていたが、アツシはそれを全て無視していた。
今のアツシには、奥田からの連絡が全てだった。収穫の無い夜を終えてアパートに戻ったアツシは、自分の部屋に明かりが点っているのに気がついた。
ヨシエが戻ってきた。そう思ってアツシは勢いよく階段を登り、玄関のドアを開けた。
部屋で待っていたのは、社長の中嶋と職人頭の山崎だった。
『アツシてめぇ何処をほっつき歩いてんだよ!』
顔を見るなり、立ち上がった山崎はアツシに詰め掛けた。
『山さん。離してくれよ。』
アツシは山崎をいなすと、中嶋の前に正座した。
『社長、俺、嘘をついてました。ご迷惑をお掛けしました。クビにして下さい。』
そういうなり、土下座したアツシを中嶋はジッと見ていた。
沈黙が続く。
アツシは顔を上げて、もう一度解雇を頼み込んだ。
『そんなに簡単なもんじゃねぇんだ。』
中嶋は重い口を開いた。
『お前の事だ。事情があるんだろう。それは現場を投出すほどの事なのか?』
アツシは顔を上げずに答えた。
『はい』
『事情は話せないのか?』
『はい』
『俺たちが助けてやれる事は・・・』
『いいえ。ありません。』
中嶋の問いかけを遮って、アツシが答えた。
長い沈黙の後、中嶋が腰を上げた。
『山ちゃん。帰るぞ。こいつは自分の都合を取りやがった。俺たちにも客にも迷惑を掛けておきながら、事情を話そうともしねぇ。今からクビだ。』
『社長、何か訳があるんだよ。クビだなんて』
『うるせぇ!コイツは金輪際、俺たちとは何の関係もねぇ奴だ。』
『アツシ おめぇ何とか言えよ。解雇と退職は違うんだぞ。』
『しつこいぞ山ちゃん。置いていくぞ。』
『アツシ』
『山崎!』
中嶋に一喝され、山崎は渋々と中嶋に従った。
アツシは姿勢を崩さず、中嶋と山崎が出て行くのを見送った。
社長、申し訳ありません。山さんごめんなさい。心の中で何度も繰り返していた。
『奥田さん。なんすか?あれ?』
外回りから戻ってきたリョータが奥田に声をかけた。
『お前YUKIの携帯番号知ってるか?』
『判るわけ無いじゃないすか。店の女の子に手を出したら、必殺ボディーブローでやられちゃいますからね。それよりアイツ凄い目で俺を睨んでましたけど・・・』
『お前には声をかけなかったんだな。』
『はぁ それと、ヨシエちゃん留守でしたね。』
リョータは、奥田がライセンスを剥奪される原因を作ったグループのリーダー的存在だった。事件の後グループを抜け、チクリを入れたメンバーを半殺しにして連れてきたリョータは、奥田に侘びを入れた。奥田が追い返した一月後、リョータは全身を包帯で包んだ格好で再び奥田の元へ訪れた。
それ以来、リョータは奥田のそばから離れようとしない。
アツシは待っていた。
あいつは何かを知っている。その事を聞き出さなければ、帰る事は出来ない。
途中で若い男が中に入っていくのを見た。あいつをやっても八つ当たりでしかない。
店長に聞き出さなければダメだ。アツシは座り込んで待っていた。
タバコを吸うと吐き気がした。それでもタバコを咥え続けた。
何本目かのタバコを踏み消したとき、裏口のドアが開き、若い男と店長が出てきた。
アツシはゆっくりと立ち上がった。
『なんだお前、まだ居たのか?』
『あぁ アンタに教えてもらわなきゃならない事があるからな。』
『おめぇ何もんだ コラ!』
前に出たリョータを制して奥田が言った。
『教える事は何もねぇよ。』
『俺が何をした?なんで殴られなきゃなんねぇんだ?』
奥田はあの後、ヨシエの携帯を何度か鳴らしていた。華姫に電話をかけて、ヨシエと連絡を取るように指示をした。リョータにもヨシエのアパートへ行き、所在を確認するように言っていたのだ。
だれもヨシエと連絡を取る事が出来なかった。
『ちょっと話をしようか?』
『また殴られるのはゴメンだぜ。』
『腹が減ったからな。飯だ。』
奥田とアツシ、そしてリョータの3人は24時間営業している、レストランに入った。
300gのハンバーグステーキを2人分頼んだ。アツシは食事を断った。
『食ったら全部出ちまうよ。』アツシはまだ苦しそうだった。
『奥田さんのボディーを喰らったのか?俺も暫らくダメだったぜ。』
セルフサービスのスープを運んできたリョータがアツシに声を掛けた。
それっきり会話は奥田の食事が終わるまで再開される事は無かった。
『来ましたよ。』リョータが言って席を立った。
女を連れて戻ってきた。
長くて真っ黒の髪の毛、大きく切れ長の瞳が印象的な女だ。華姫だった。
『カオル、ヨシエと連絡は?』
『ダメ。繋がんないわ。』
華姫・・・カオルは奥田の隣に座って返事をした。
アツシの隣にはリョータが腰を下ろしている。
『あら、この人ヨシエちゃんの彼氏じゃない?』
『間違いないな?』
『顔が変形しているけど、彼女の部屋にあった写真の人だわ。』
『そうか、済まなかったな。』
奥田はアツシに頭を下げた。
『最初からそう言ってたじゃねぇかよ。』
憮然とした表情でアツシが呟く。
奥田は前の日にあった出来事をアツシに語り始めた。
『食事の時間だよ。』
ナオアキはサンドイッチを持って、かつてはスタジオであった監禁室に入ってきた。
アンプ、ドラムスといったものは部屋の隅に固められ、カバーがかぶさっていた。
マイクスタンド等は、部屋の外へ出されてしまっている。
部屋の片隅の床に固定された金具には太い鎖が繋がっている。
鈍い光を放つ鎖の先には、首輪に繋がれたヨシエの姿があった。
両手には手錠をかけられ、足枷もはめられている。
ヨシエは裸の上にバスローブをはおっていた。室温は適度にコントロールされており、寒いと感じる事はなかった。
『ほら、ここにおいて置くからね。ちゃんと食べないとダメだよ。』
行為に及んでいる時以外のナオアキは、驚くほど優しかった。
水も与えてくれる。と言ってもペット用の給水器だったが・・・
ナオアキは驚くほど用心深かった。給水器の器はプラスチック製だし、箸、ナイフ、フォーク、皿といった食器を出す事はなかった。
アツシ・・・助けて・・・
ヨシエは声にならない叫び声をあげていた。
『俺がそんな物を仕掛けたと思ってたのかよ?』
『だから、謝っているじゃないか。』
時間が経つと共に、赤くなっていた部分が黒ずんできている。今のアツシの顔は右半分だけパンダのような痣が出来ていた。
『昨日鍵を取り替えたばっかりだったのよ。』
『でも、端末の処理なんて綺麗なもんだったぜ?』
カオルとリョータが答えた。
『とにかくだ』
レシートを持って奥田が立ち上がる。
『手分けして探すしか無いだろう。アツシだっけか?』
『池上アツシだ。』
『俺は奥田。こっちはリョータ、そしてカオルだ。』
『よろしくね。』
リョータは口を開く代わりに右手を差し出した。アツシはその手を握り、力一杯握り締めた。負けじとリョータも握り返してくる。
『ガキみてぇな事をやってんじゃねぇよ。』奥田は2人をどやしつけた。
待ちきれずに部屋を出てアツシは、真っ直ぐコスプレカフェに向かった。
店の名前は聞いている。場所も知っている。アツシは店のドアを開けた。
『お帰りなさい。ご主人様。癒しの間と裁きの間のどちらへいらっしゃいます?』
猫耳の女が言った。
『人を探しているんだけど、YUKIってキャラクターなんだけどさ。』
『YUKIちゃんは戦場へ赴いていて、こちらを留守にしているんですけど。』
『あの・・・店長さんに逢えるかな?』
『少々お待ち下さい』
困惑した表情で女が奥に消えていった。店の中ではキャラクターに扮した店員と客が
記念撮影をしている。アツシには考えられなかった。
暫らくして、体格のいい中年男が姿を見せた。
『アンタかい?YUKIを探しているってのは?』
『はい。連絡が取れなくてこっちに来ているんじゃないかと思って。』
『結構多いんだよね。そういう客がさ。教えられないよ。』
『ちょっと待ってくれよ。俺はアイツラとは違うよ。』
アツシは店の中の客を指差した。
『とにかく、個人情報は教えられないよ。』
『店に居るかどうかだけで良いんだよ。』
『YUKIは戦場に行ってるって言っただろう?邪魔だからさ。営業妨害で警察呼ぶよ?』
『これを見てくれよ。』
アツシはヨシエと2人で写っている写真を見せた。
『携帯だって知ってるよ。連絡が取れなくて困っているんだ。』
アツシは自分の携帯にヨシエの携帯番号を表示させて男に見せた。
『アンタの名前は?』
『池上アツシ』
『判った。中に入れよ。』
『どういう事なんだ?』
店の中にアツシを招き入れた奥田は、椅子に腰を下ろすなり問いかけた。
『何の事だよ?』
『アンタ電気屋だろ?何処に行ってた?』
『何の関係があるんだよ?』
『質問に質問で答えるなよ。とぼけやがって。』
『訳が判んねぇよ。居るのか居ないのか、どっちなんだよ?』
椅子から立ち上がった奥田は、アツシの胸ぐらを掴み、一気に壁まで押しやった。
『全部判ってんだよ。全部判ったから逃げたんだろ?』
アツシは膝を出した。奥田が一瞬ひるむ。
奥田の顎をめがけてアツシは頭を突き出した。手が離れた。
『てめぇ』
奥田が右を伸ばしてきた。屈んでかわす。
すかさず、足が出てきた。
アツシはその足を抱え込んで前に出た。残った足を払う。
アツシは喧嘩慣れしていた。工事現場では職人同士の喧嘩が絶えなかったからだ。
言いたい事ははっきり言う、意見を曲げない。そんな性格のアツシは職人から逆恨み
される事が良くあった。叩きのめした事もあれば、袋叩きにあった事もある。
勝っても負けても態度を変えなかった。
『立てよ』
『へぇやるんだな。』
立ち上がった奥田はステップを踏み始めた。
左。左。左。
アツシは立て続けに3発のジャブを浴びた。
早い。
アツシのパンチは空を切るばかりだ。
奥田は元ボクサーだった。日本タイトルに手がかかってった。
後はそれを握り締めて、自分の元へ引き寄せるだけだった。必死だった。
ロードワークをしている時に、数人の若者が目に入った。
中年の男が輪の中心で倒れていた。中年男の胸ポケットに若者の手が入っていた。
気がつくと、自分の周りに若者たちが倒れていた。
それが事件となり、ライセンスを剥奪された。
アツシは焦っていた。パンチが当たらない。
たまに当たっても、肩や腕でしっかりとガードされていた。
右が飛んできた。すんでの所でかわす。
いきなり腹に衝撃が来た。息が止まる。下半身から力が抜けた。
奥田のボディーブローが綺麗に入っていた。
襟ぐびを掴まれた。抗おうにも体に力が入らない。
アツシはゴミのように裏口から店の外へ放り出された。
アツシはヨシエの携帯に電話をかけていた。これでもう3度目だった。
2回目の時から30分ほどおいて、掛け直してみたのだ。
シャワーを浴びていたとしても、いくらなんでも長すぎだ。
ヨシエの待つアパートがある駅につくのは15時を少し回った位になる。
電車は空いていた。アツシ自身、タバコを吸うが禁煙車を選んだ。
以前、指定席の空きが無く、禁煙車両に乗った事がある。タバコが吸いたくなり、
喫煙車両の空席を探そうと、ドアを開けた時、濛々とこもった白煙を見た瞬間に
タバコを吸う気がなくなった事がある。
それ以来、限られた空間では極力タバコを我慢するようになった。
確保する事にした。前日はほとんど寝ていない。引継ぎもうまく行き、アツシは
安心していた。程なくアツシは寝息をたて始めた。
アツシは電車を降りて、すぐに電話をかけてみた。数回のコールで留守番センターに
つながった。アツシは用件を言わずに電話を切った。
『アイツ・・・何をしてるんだ?』アツシは軽い怒りを覚えていた。
ヨシエの携帯電話は、ナオアキの車の後部座席で空しく鳴り響いていた。
強制的に排泄させられ、その全てをビデオに撮られていたのだ。
そして、本来の目的では無い場所に、ナオアキをねじ込められていた。
『いくぞ。いくぞ。おぁう!』
ヨシエは直腸に生暖かい液体が注がれるのを感じていた。頭の中が真っ白になっていた。
アツシは電車を乗り換え、ヨシエのアパートがある駅に降りていた。
真っ直ぐヨシエのアパートに向かった。
合鍵はもらってある。これまで何度も足を運んだ慣れた道だった。
ヨシエの部屋の前に着き、呼び鈴を鳴らしてみる。しかし、返事は無かった。
アツシは合鍵でドアを開けようとした。
しかし、鍵が合わない。
『なんだ?鍵を間違えたかな?』
何度やってもダメだった。2階建ての2階にある部屋。部屋は3つしかない。その真ん中
がヨシエの部屋だった。間違えようが無い。
見直した。郵便受けの名前も確認した。郵便物は入っていないようなので、長く
部屋を空けているような感じではなかった。
同時に不安を感じていた。時間を見計らって太平に電話してみると、いつも通りバイト
に来ていたと伝えられた。ただ、最近妙な感じがして、夜は山崎に送ってもらって
いたとの事だ。アツシは電話を切って、山崎に電話してみた。
山崎はこんな時間に電話をしてくるアツシに驚き、ヨシエとは日曜日に送っていって
それから逢っていないと言った。それよりも、ヨシエが不安になっているから早く
現場を終わらせて帰って来いと諭された。
山崎には本当の事を言いたかったが、アツシは嘘をついた。
親の具合が悪いので、2,3日休暇をもらったと言った。
アツシは、暫らくの間、自分の部屋で待つことに決めた。下手に動かない方が良い。
『気持ち良いだろ?』男が執拗に聞いてくる。
ヨシエは返事をしなかった。
『体は正直だね。ホラ。』そう言って、男はヨシエの体から溢れ出る液体を指で掬って
顔に擦り付ける。
男はそういうと、ギャグ・ボールを外して、ヨシエの口元に男根を寄せてきた。
ヨシエは硬く口元を結んだ。絶対に嫌だ。
『あれ~嫌なのかい?』
男はヨシエの背後に回りこんだ。
ヨシエは悲鳴を上げた。指先から炎が吹き出たように痛む。
『痛いだろ?』男はヨシエの指と爪の間に針のようなものを差し込んだのだ。
『素直にしないともっと痛いよ?』
ヨシエは耐えた。
『ふ~ん。我慢強いんだね。これは?』
『ガッ・・・』今度は声にならなかった。肩に千枚通しが刺さっていた。
『元気にしてくれる気になったかな?次はこれだよ?』
男は小さなナイフを手に取り、ヨシエの太ももをピタピタと叩いた。
『ちゃんと返事しろ!』
ヨシエは小さな声で返事をした。
『もっと大きな声で言え!咥えさせて下さいと言え!』
さらに平手打ちが繰り返される。
ヨシエは涙に咽びながら
『ハイ・・・解りました・・・咥えさせて下さい・・・』そう言っていた。
堕ちた・・・
その目はそう語っていた。
気晴らしにつけていたテレビからアナウンサーの陽気な声が聞こえる。お笑いの
女性タレントが、貝殻のビキニを身にまとい持ちネタを披露している。
会場は失笑の渦に巻き込まれていたが、その姿も声もアツシには届いていなかった。
夢の中でヨシエは小さなネズミになっていた。
何かに追われて必死に逃げている。手足を必死に動かす。心臓が破裂しそうだ。
しかし、周りの景色は一向に変わらない。
突然目の前に大きな丸太が倒れてきた。すると、その丸太が大きくうねり、ねじれた
格好で持ち上がる。丸太の先端から長く、赤い舌が飛び出してきた。
苦しい。全身の骨が悲鳴を上げていた。
そして、爬虫類の冷たい目がヨシエを見つめている。
チロチロと全身を舐めまわしていた舌がゆっくりと納まり、やがてカッと大きく開か
れた口の中にヨシエは飲み込まれていった。
飲み込まれても、ヨシエは意識を失わず、消化されていく自分の体を見ていた。
自分の手足が溶けていくサマを、他人事のように見ていた。
ナオアキは意識の無いヨシエの中から己自身を取り出し、形の良い乳房に向けて
思いの全てを放っていた。
『ハァハァ くそっ!面白くねぇ!』
全身を駆け巡る快感とは裏腹に、ナオアキは焦燥感を募らせた。
『死体とやってるんじゃねぇんだよ!』
ナオアキは毒づきながら残りを搾り出し、ヨシエの顔にこすりつけた。
繰り返し、罵声の言葉を呟きながら、ナオアキは洗面所から剃刀を持ってくると、
ヨシエの陰毛を剃り始めた。
『綺麗にしてやるよ。』
全てを剃り終えると、未だ意識が戻らないヨシエの腰に枕を押入れて、そこがはっきり
と見えるような姿勢にした。
次々とシャッターを押し、ヨシエの全てをメモリーに落としていく。
やがてメモリーが一杯になると、パソコンに転送して様々なポーズのヨシエを保存し
ていった。姿勢が保てない時は、ロープを使って固定した。
あからさまに性器が露出する、服とは言えない服を着せて、次々と写真を撮っていく。
両手を後手に固定し、膝を伸ばせないように両足を縛る。ギャグ・ボールと呼ばれる
猿轡をかませ、緩みが無いことを確認したナオアキは、自身もマスクをつけてヨシエの
頬を軽く叩いた。
徐々にその強さを増していく。次第にヨシエの頬は赤く染まっていった。
いきなり水をかけられた。
頭が酷く痛む。頭を抑えようとした腕が背中の後ろで、繋がれている事に気がついた。
立ち上がろうとしたが、足が前に進まない。
やっとの思いで目を開けると、目の前には肉食動物をモチーフにしたプロレスラーの
マスクを被った男が立っていた。
『あなたは誰?』
言葉が旨く発せられなかった。ヨシエは自分が現実の世界にいるか、夢の続きをみて
いるのか、未だ理解できずにいた。
『中野ヨシエさん。おはよう。ご機嫌は如何かな?』
誰だろう?私を知っている?
『それとも、エボリューションのYUKIさんと言った方が良いのかな?』
この人は私を知っている。
でも、誰?ここは何処?
熟睡など出来るはずもなかったが、ハードな一日を過ごした疲労感と、
その要因を取り除いた安堵感からいつしかヨシエは睡魔に獲りつかれていた。
跳ね起きたヨシエはアツシからの着信だと解ると、安堵のため息をついて電話に出た。
『昼のJRには乗れるから、また時間がはっきりしたら電話するよ。』
『仕事の邪魔をしてごめんなさい。』
『何を言ってんだよ。俺は仕事よりヨシエのほうが大切だよ。』
『うれしい。待ってるね。』
そう言って電話を切ると、急に空腹感を感じた。
考えてみれば、昨日からまともに食事を取っていない。
冷蔵庫の中をみても、ロクなものは見つからない。
ヨシエは苦笑しながら近くのコンビニで朝食を買ってくる事にした。
ナオアキは急いで自宅を出た。駐車場に止めてある車へ向かう。
エンジンを掛けて、女の姿を追った。
女は丁度コンビニへ入っていった所だった。ここでは目立ちすぎる。
ナオアキは女が出てくるのを待った。
やがて女がコンビニからビニール袋を持って出てくるのを確認すると、女の
後をゆっくりと車で追いかけた。
出して話しかけてきた。
『スイマセン。YUKIさん?華姫さんから頼まれたんですけど』
『はい。そうですけど。どなたですか?』
『伝言です。ばれたのでそこを離れろと』
『え?』
『俺、華姫さんから貴女を連れてくるように言われてます。信じてくれますか?』
『そう言われても・・・』
『見せれば判ると言われています。ちょっと後ろのドアを開けてくれませんか?』
ヨシエは男に言われるままにドアを開けた。
男は運転席を出て、後ろに回り込み、後部座席下に手を伸ばしている。
『スイマセン。もうチョッとこっちへ来てもらえますか?』
『はい?』
ヨシエが身を乗り出した瞬間、男はヨシエの襟首を掴み、顔に布キレを押し当ててきた。抵抗する間もなく、ヨシエの意識は遠のいていった。
後部ドアも閉めた。ゆっくりとした歩調で運転席に戻ったナオアキは車に乗り込むと
周囲にひと気が無い事を確認して、車を発進させた。
半分隠れるようにブランケットを掛け、帽子を深めに被せた。
ヨシエは気持ちよく眠っているように見えるだろう。ナオアキは心の底から浮び上がっ
てくる黒い微笑を堪え、心配そうな顔つきでヨシエを見ながら、エレベーターに車椅子
を運んでいった。
テーブルはガラス製だった。近未来のSF映画に出てくるような部屋だ。
部屋に入った瞬間に感じる寒さが、ナオアキは好きだった。
気を失ったヨシエを乗せている車椅子をリビングの中央に放置し、ナオアキは寝室へ
入っていった。
1人で寝るには大きすぎるサイズのベッド、壁に組み込まれたクローゼット。
ベッドルームはモノトーンでまとめられていた。着替えを始めるナオアキ。揃えてある
洋服も色彩に欠けたものが多かった。
髑髏をモチーフにしたTシャツとヨガパンツというラフな格好に身を包みなおしたナオ
アキは、車椅子を押して特別な部屋に入っていった。
生前父親が趣味としてスタジオの真似事をして作った部屋だ。部屋全体が防音されてい
て、中で大きな音がしてもリビングまで響く事は無かった。
本来そこに置かれるべき楽器は別の部屋に保管されていた。温度、湿度を一定に保ち、
コンディションを最高の状態に保てるようにした、楽器専用の倉庫のような部屋だ。
そして、防音室の中には、およそ音楽とは無関係の様々な器具が置かれていた。
あろうかというバイブレーター、拷問にでも使われるような拘束具・・・
これも全て両親が残したものだった。遺品を整理していたとき、楽器のケースに巧妙に
隠されてあった。
股間は既に張り裂けそうになっている。
ナオアキは鋏を手に取り、ヨシエの衣服を切り刻み始めた。
YUKIなんてキャラ作りやがって、俺に恥をかかせた。その上邪魔までしやがって。
カメラや盗聴器を外して安心しているはずだ。
ナオアキはゆっくりと準備を始めた。
ナオアキは父親と同じ血が通っている事を実感していた。
自分の父親にこういう趣味があった事を知った時はショックだった。
今は感謝さえしている。何の手配もせずに環境を手に入れることが出来るのだ。
今までは受取る側だった。そして、今夜を境に提供する側に変わる。
ナオアキは黒っぽい格好に身を包んだ。
大き目のマグライトをポケットに忍ばせて、手術用の手袋をはめる。
液体を満たした小さなビンを胸ポケットに放り込み、ナオアキは自宅を出た。
注意深く周囲を見回し、階段を慎重に登る。
姿勢を低く保ち、ヨシエの部屋の前までたどり着いた。
鍵束の中からフリースにもらった合鍵を選び出し、静かに鍵穴に入れようとした。
『くそっ鍵まで・・・』
小さな声で毒づいたナオアキはその日の計画を中止して自宅に戻った。
女が自ら外に出る瞬間を狙うしかない。
周囲の目もある。
自然に誘い出すにはどうしたら良いのか・・・
ナオアキはなおも続く書込を楽しんでみていた。
ネットって素晴らしい。怖いものなんて無い。
してみる事にした。店長が居なくなり、華姫がヨシエの肩を抱いている。
そして、華姫はしっかりとヨシエを抱き寄せた。
"マジで乱交ですかぁ~"
ナオアキは自分のモノが硬くなってくるのを感じた。しかし、いくら経っても、
そこからの進展は無かった。
玄関の方へ移動していった。
そのままの映像がしばらく続き、唐突に画像が途絶えていた。
盗聴器をチェックするが、耳に入ってくるのはノイズだけだった。
怒りが顔面を高潮させた。全身の血が逆流している。
体の中から湧き出てくる感情に任せて、コーヒーカップを壁に投げつけるナオアキ。
その横でビデオは玄関の鍵を交換するリョータと鍵屋の姿を映し出していた。
ナオアキは怒りが収まらず、壁に向かって殴る、蹴るを繰り返していた。
そう言って、華姫は帰り支度を始めた。
『あの・・・』
『付いていて欲しいのかい?』
『いえ・・・お金は・・・鍵とかの・・・』
『心配しなくて良いよ。店のほうから払うから。不動産屋にも話を付けるし。』
奥田が続ける。
『迷惑を掛けたのはこっちの方だからな。これは店の責任だ。』
『それにYUKIちゃんの収入じゃ払いきれないよ。』
リョータが横から口を挟んだ。
『今度の鍵はイスラエル製の奴でね。滅多な事では破られないよ!ね?店長!』
『お前・・・それは・・・高級だな・・・』
『彼氏に早く帰ってきてもらいな。合鍵はリョータに言わないと作れないからね。』
華姫が締めくくり3人はヨシエのアパートを後にした。
店長とコートの男、そして華姫が部屋を出て行くところだった。
店長とコートの男が周囲を指差しながら何かを話していた。
ナオアキの脳裏には次の計画が浮かび上がっていた。
本当は余計な心配を掛けたくなかったが、アツシに傍に居てもらいたかった。
事務所のパソコンでエボリューションの掲示板を見たアツシは絶句した。
酷い内容だった。
5度目のコールで相手が出た。
『夜分遅くスイマセン。アツシです。』
『どうした?こんな時間に?』
電話の相手は社長の中嶋だった。
騒々しい。飲み屋に居るようだった。
『明日から2,3日休みを貰えないでしょうか?』
『何かあったのか?』
アツシはヨシエの事とは言えず、親の具合が悪いのだと伝えた。
『判った。明日朝一で代わりをやるから、引継ぎだけして戻って来い』
『有難うございます。スイマセン。』
最初の言葉は感謝の気持ちから、次の言葉は嘘をついた後ろめたさから出た。
『今、社長と話をしたから』
『うん。』
『明日、引継ぎをしてそっちに戻るよ。』
『うん。』
『暫らくは俺の部屋を使えよ。汚いけどな。』
『ゴメンね。』
『気にするな。夕方には逢えるから。いつもの綺麗な笑顔を見せてくれよ?』
『うん。わかった。』
『着く時間がはっきりしたら電話するから。じゃな。気をつけるんだぞ。』
『はい。おやすみなさい。』
この時間からじゃ宿に帰るのは無理だな・・・そう思いながら・・・