
「DVだったらどうお?」 「DVねぇ…。 まぁ誰(ダレ)の誰に対するものであっても、そこには加害者(カガイシャ)と被害者(ヒガイシャ)しか居(イ)ないでしょう。君は多分(タブン)夫の妻に対する一方的(イッポウテキ)で、しかも理不尽(リフジン)な暴力(ボウリョク)、勿論(モチロン)言葉による侮辱(ブジョク)、そんなパワハラ・セクハラも含(フク)めたプレッシャーの全体を云(イ)っているのだろうと思うけれど、そうなると、もう夫だ妻だっていうような立場は崩壊(ホウカイ)しているからね。そこに拘(コダワ)ったって仕方ない。壊(コワ)れてしまったものとして考えたほうが良いと、僕は思うけどね。」 「でも戸籍上(コセキジョウ)は妻であり夫であるわけじゃない? それが意外(イガイ)と多いと云われるような今日(コンニチ)の夫婦の実態(ジッタイ)を考えれば、夫つまり男は、妻、だから女を力で抑(オサ)えつけようとする潜在的(センザイテキ)な意識が元々(モトモト)あるからじゃない? 肩が触(フ)れたとかで喧嘩(ケンカ)になったりするヤツ。それも結局(ケッキョク)腕力(ワンリョク)に自信があったり、何かの後ろ盾(ウシロダテ)があったりするような、とにかく『力(チカラ)』を自負(ジフ)しているような人間がそうするわけでしょう? 私、あーいうの大っ嫌い(ダイッキライ)なの。人間ていつまでそういう次元(ジゲン)の生きものなんだろうって思っちゃうもの。この何百万年かを一つの種(シュ)として存在しながら、この程度(テイド)の内面(ナイメン)の進化(シンカ)しか果(ハ)たせない。だから世界レベルの環境(カンキョウ)や生態系(セイタイケイ)の破壊(ハカイ)といった決定的な過ち(アヤマチ)を平気で繰(ク)り返(カエ)している。しかもたいした痛痒(ツウショウ)も感じることなくね。貴方(アナタ)たち男性の根っこって、そこにあると思わない? 結局『力』なの。力あっての物種(モノダネ)なの。貴方たち男の在り方。違(チガ)う?」 「うーん。
。 まぁ言下(ゲンカ)にNO(ノー)とは言いかねますかな、さすがに…。なんだかさぁ、道を歩いてて、うっかりちっちゃな虫を踏(フ)み潰(ツブ)したりするようなことなんかあると思うけど…」 「ないわよそんなの。すごく用心(ヨウジン)してるもの、土の上を歩く時とか私。」 「うん。そう。君は用心する。だが多分、君ほど用心しない人のほうが多数派(タスウハ)だと考えられる。そう考えないと、僕の云わんとするところは根底(コンテイ)から理論的な修正(シュウセイ)を施(ホドコ)さなければならなくなる。」 「貴方のその根底にあるものって何なの? その人間観(ニンゲンカン)みたいなのって。」 「ハァ~。人間観ときたか…」 「男性観でもいいけど。それともこの場合は同性観と云うのかしらね。」 「まぁその辺(ヘン)は、君とたいして変わらないんじゃないかな。僕は、性別的には牡(オス)に分類(ブンルイ)される肉体的な特徴(トクチョウ)を備(ソナ)えているわけだけれど、牡の中ではかなり非力(ヒリキ)なほうだからね。電車なんかでも押し退(ノ)けるより専(モッパ)ら押し退けられるほうだし。でも、じゃあこれまで僕が誰も押し退けずに生きて来たか、あるいは今、誰も押し退けずに生きているかと問(ト)われたら、甚(ハナハ)だ怪(アヤ)しい。というか、たとえ電車内で誰かを押し退けてまで自分の場所を確保(カクホ)するなんてことを意識的に避(サ)けていたとしても、この国の、取り敢えず自由主義と云われている社会の中で、他人といっしょに居ることでいろいろ助けられて生きている以上、そういう自分の場所も、電車の中と同じように確保しているわけだけどさ、そうする時、僕が誰も押し退けずにそれができているかといったら、きっと誰かを押し退け、あろいは足蹴(アシゲ)にして、我れ先にみたいな行動を取っていることだろう。まぁ大抵(タイテイ)オブラートにくるんでというか、間接的(カンセツテキ)に押し退けているので、特定(トクテイ)はされない。たとえば僕が君にそうしているとは判(ワカ)らない。だから要するに顔の見えない加害者になり、その結果、罪(ツミ)の意識みたいなものは然程(サホド)でもなくなるんだけどね。」 「罪の意識…」 「屠殺場(トサツジョウ)で牛が殺されるのを見ると、普通の人は残酷(ザンコク)だと思う。だがスーパーに並(ナラ)んでいるステーキのパックを買うところを見て、同じくらい残酷だと思う人はまず居ないだろう。そういうことさ。」 「人間が人間を、ステーキにして食べているようなことをしているってこと?」 「ハッ、ちょっと端折り(ハショリ)すぎだけど、似(ニ)たようなことをして生きているには違いないだろうね。」 「それって、当然私たち女もよね…」 「まぁベジタリアンでもない限りはね。 しかも生活するための収入を得る方法までが、一切(イッサイ)肉食とは関わりがないということでもなければ。」 「ちょっと待って。何を話し合ってたんだっけ私たち…」
