隣の硝子の円形テーブルに肘ついて交わされる青い服の少女と痩躯の青年のあいだの外国語の談笑が燃える花を話に咲かせている。

 燃えることばの炎色反応もやはり青い篝火〔かがり〕を昼の陽最中なのに付き合わせている。

 どうやら今夜は十五夜らしいねとあなたは流眄〔ながしめ〕戻し脣を歪めながらわたしに言う。

 ちがうわ今夜は十六夜の月よとわたし言い返す。それがどうしたのとあなたまだにやにや笑ってる。君、酔ってるんじゃない?そんなこと俺に言うなんてさ。

 ちがうわわたし呑んでなんかいないわそんなつもりじゃないどうしてそんなこというのどうしてもさ、とあなたは藍色のデミタスから濃い珈琲啜って薄嗤い浮かべ、立待ちの月、居待ちの月、臥待ちの月、更待ちの月と数え嘯いて指追ってゆく。

  *  *  *

 青い軌道に乗ってリコリスの噂が匂やかに届けられる。

 奉書紙を転げ落ちる水銀の小毬を那由他劫から阿僧祇劫にかけて鞍坐型めくベルトラミ擬球面の斜面〔なぞえ〕/肌〔はだえ〕に滑らせ、わたしは疲労空間を好もしくベッドメイクする。

 プラシーボが連れてくる草臥れ休息の芝生の波打ちに横たわりながらソフトな曲率をつくりだす音色に寝入る/薄目のなかで積木じみた甍〔いらか〕と矩形の群らがいがトフとボフのミルクの海を/渾沌のスープを渺〔はる〕かから浮游〔およ〕ぐようにしてわたしに達するとき/わたしは睡る/植物のようにして。

 遠巻きに燃えるもの/ゴグとマゴグ。そのようにして世界が甘く柔らかに腐蝕してゆくとき、香りだけがある。軽鬆土〔けいそうど〕が凍原〔ツンドラ〕を煖かに覆い、しろく煙のようにわたしは茎を伸ばし一輪の罌粟に灯り、うっすらと咲いている。昼のなかに。冬の終わりをわたしは擬態する。

 作りものの日溜りに泊まり黙って翅を窄める紋白蝶のように――いやむしろアルビノの麝香揚羽のようにおとなしくして。

 そのわたしの翅は低温の炎で出来ている。その翅は軽い。