恐怖の大王イリヤはユリゼンともコロンゾンともクロノスともオーディンともいわれている。そいつが老齢の妖怪変化で錯乱した神であることは双魚宮時代が始まる当初からいわれていたことだ。この狂った神の命運は尽きつつあるが往生際はすこぶる悪い。老齢化した高度管理社会を捏造することによって、新しく若々しいアイオーンが到来するのを妨害するために陰険な裏工作をすることに余念がない。ゴヤは腐敗した権力の座に獅噛付くこのクロノス=サチュロスの息子を食らう浅ましい姿を描くことによって後代に警告している。オイディプスコンプレックスよりも問題であるのはクロノスコンプレックスである。私達は《汝殺すなかれ》の戒律の意味を読み誤ってはならない。それが父親殺しの禁止を意味するのか息子殺しの禁止を意味するのか、幼児虐待の奨励を意味するのか暴君抹殺の奨励を意味するのか、隷属と忍耐を命ずるものなのか叛逆と革命を命ずるものなのかを常に問いただす必要がある。

 恐怖の大王は一九八五年に天空にその憎しみと嫉みに満ちた白髪鬼のみにくい形相を顕現させ、地上にぞっとする妖術の息を吹きかけた。こうして不可視の戦争である第三次世界大戦つまりハルマゲドンが始まった。その戦争は現在も続いており、私達は奴の吹き付けた毒気からまだ抜け切っていない。死にゆく神は全人類を道連れにしようとしている。とりわけその魂を殺そうとしている。尤も別の見方をすれば第三次世界大戦は第二次世界大戦が広島長崎への原爆投下によってピリオドを撃たれると同時にハルマゲドンの次のステージとして既に始まっていたものであり、八五年はその戦いが新たな恐ろしい局面を迎えたものに過ぎないといっても良いかもしれない。この戦争は冷たい戦争(Cold War)と呼ばれているが、この名称は「戦後民主主義」や「平和な日本」と同程度に現実の暗黒面を美辞麗句によって覆い隠す欺瞞である。むしろそれは冷酷な戦争(Cruel War)と呼ばれた方が良いものである。
 東西冷戦構造におけるイデオロギー的対立という「冷戦の論理」は虚像である。冷酷な戦争は別の水準において進行してきたし現在もそれは変わっていない。この戦争は情報と洗脳の戦争であり、核の脅威よりも恐ろしい脅威として常にあり、そしてその陰鬱な影はなかなかわたしたちの上を去ろうとはしない。