心に〈嘘〉が忍び寄るとき、這いこむとき、人は愚かしくなる以上に醜く悪い者に変わってしまう。

 サーッと塗り変わるように同じ人が別人になる。

 

 別人とはしばしば虚栄である。

 虚栄が顔を凍りつかせる。それはふしぎな〈死〉だ。

 あなたは魅せられてしまっている者のキラキラと確信に輝く不安な瞳を見たことがあるか。
 殊更に美しく凍りついて目を瞠る哀れに輝くその裏切られた顔を見たことがあるか。
 そこでは愛が死に、幸福が死に、人が殺されているのだ。

 

 その顔は醜い。醜悪な瞬間だ。

 人間が別人のイメージにすり変わるカミソリのように薄っぺらな瞬間、そのとき、そこには誰もいない。抹殺が起こっているのだ。

 

 〈嘘〉はそれが忍び込む〈美しさ〉の閃きのなかで、心臓と眼球に壊死を創りだす。この壊死は実にみにくい。

 

 そこに〈嘘〉が住み着き、あなたの自我を怪我が歪め、やがて怪我は癌のように増殖して、あなたは〈嘘〉のケロイドのなかに窒息死し、〈嘘〉があなたの人格をすっかりのっとって、利いた風な口をききはじめる。
 みにくい〈嘘〉の塊がゾンビのように生きはじめるとき、あなたはどんな殺人者よりも悪く、どんな自殺者よりも惨めな存在になりはてているのだ。

 

 だれがあなたを救えよう? 

 どんな言葉があなたに届こう? 
 あなたは打ち捨てられた屍骸だ。

 復活もなく救済もない。
 おめでたい仏様であるあなたはそのときみにくくも悟り澄ましてしまっている。

 

 虚しい人よ、あなたは木偶坊、腐り果てて白蟻に食い荒らされた無力な仏像であるに過ぎない。

 悲しむべきときに泣きもせず、うすきみのわるい微笑みを唇に冷たく貼りつけて、優しげにただ笑ってみせるだけで、何ひとつ、他人どころか自分じしんですら救い出すことをしない。

 

 絶望的な人よ、可哀想な人よ、だが、あなたは同情にも値しない。あなたはもう滅びている。

 あなたは廃墟だ。すべてが焼き尽くされたニルヴァーナの廃墟に、そんなひどい滅びの地に、神は決して足を踏み入れはせず、そしてあなたのその見下げ果てた下劣な顔は余りにも醜いので、キリストにせよ弥勒菩薩にせよ、顔を背けてあなたを見ることもしないだろう。

 

 あなたはそのとき、身の毛のよだつような怪物に成り果ててしまっているのだ。