皮肉屋の学の〈鉄学〉は告げる
 ――けれども〈8〉は本当は〈0〉なのだ、と。
 これが〈くろがね〉の夢。全てを断ち切る〈はがね〉の夢。
 〈スチールグレーの虚無〉の夢。その意味は〈死の無い死〉。
 
 失われた〈金〉を求める〈金の亡者〉の夢。それが〈鉄の夢〉。
 寂しく錆びゆく鉄の夢。夢諦めたものの見るさかしまの夢。

 それが〈鉄男〉を作り出す。アキラめさせるのは〈砂男〉である。

 〈鉄男〉の〈鉄学〉は虚無主義と相場が決まっている。
 それで〈鉄男〉は荒んで、やがては暴れ出し、
 憑かれたように破壊しつづけずにはいられなくなる。

 彼は彼の夢と戦う。
 それは〈夢魔〉である〈砂男〉がみせる悪夢。
 〈陰〉よりも遥かに陰気な灰色の夢。
 終わりなき絶望の夢。それが〈くろがね〉の夢。

 よく磨かれた〈くろがね〉の肌は鏡面界に〈無〉を映し出す。
 これで何もかももうお仕舞いになる。
 〈はがね〉の夢は痛ましい夢、夢実らず、努力報われぬ夢。

 〈はがね〉はこぼたれて白刃のきらめきを失う。
 こうして〈刃〉は切っても切れぬその縁を〈刀〉から切り離す。

 人の心を切ってはいけない。それは名刀の名折れとなる。
 この切断は〈折断〉となる。

 それは切ないものである。
 切ないものは切れないのである。
 切ってはならないものである。
 それを〈刀〉に切らせてはいけない。断たせてはならない。

 〈切る〉ことと〈断つ〉ことは異なる。
 切断それ自身を切断すれば
 〈切る〉と〈断つ〉とは二度と決して結びつくことはありえない。

 そこに〈断絶〉が生まれる。
 〈断つ〉ことは〈絶つ〉こと、絶するということである。
 自刃であり自殺であり切腹である。

 それは命を絶することである。
 まだしも激した方がましである。

 絶するものは〈絶無〉をみる。
 〈絶無〉は〈虚無〉を発し、
 〈虚無〉はまばゆい閃光を発し、
 〈無〉はその美しい顔を閃光のかがやきのうちに消し去る。

 かがやきはきみの目を覆い、きみの目を潰す。
 かがやきは呪いである。かがやきはすべてを見失わせるものである。
 かがやきを帯びたかがやかしき人は心盲いた人である。
 〈かがやき〉は〈きらめき〉を覆ってそれをみえなくする。

 〈美〉は〈恐ろしきもの〉のはじめにしておわりである。
 しかし〈かがやき〉は〈みにくいもの〉のはじめにしておわりである。

 〈かがやき〉はすぐに黒いきらめきを失って白く濁り
 薄汚れて〈きたないもの〉を生み出す。
 〈きたないもの〉から〈よごれたもの〉が生まれる。
 けがらわしいことである。それは〈怪我〉を孕む。

 〈怪我〉はもはや〈自我〉ではありえなくなった〈影〉である。
 〈怪我〉はあらゆる〈怪物〉のはじまりである。

 だが〈怪我〉のうちにはなお〈希望〉がある。
 それは心の痛みであるからだ。
 〈もののあわれ〉を知るその灼けつく心は、やがて〈炎の心臓〉を孕む。

 それは〈赤い星〉であり〈火星〉である。偽りを憎む命の激情である。
 狂おしい〈怒りの神〉はここに生まれ出る。それは灼熱の狂気である。
 美を被爆したこの灼けただれた黒いもの、
 消された〈黒い夢〉の化身は〈荒ぶる魂〉の〈あらたま〉を孕む。

 〈あらたま〉は〈璞〉にして〈新珠〉、
 〈真珠〉とは異なる心の宝である。
 〈あらたま〉はまだ磨かれていない原石の
 見栄え悪い無骨さの内に無傷潔癖の美をはらむ。
 そこに〈真珠〉は生まれる。

 〈炎の心臓〉の炉心に〈青い夢〉がある。
 この〈青い夢〉が〈真珠〉である。〈炎の心臓〉は〈赤い夢〉である。
 〈赤い夢〉はその燃えさかるほむらの舌から
 〈黄金色の夢〉をきらめき出させる。

 〈金の夢〉は〈きらめき〉である。
 きらめく〈金の夢〉と〈青い夢〉が触れ合うときに、
 大いなる〈銀の夢〉が生まれる。

 それが〈しろがねの夢〉。〈銀の三角〉の夢、
 〈艮の金神〉の夢、〈般若の仮面〉の夢、
 あらゆる夢のなかで最も貴い夢。
 それが〈命の夢〉、〈神の夢〉、そして何よりも〈人の夢〉である。
 この夢は不可能性の夢、不可能性の核心の夢。
 あらゆる聖なる言葉はそこからやってきて人の心を撃つ。

 しかし〈無〉の夢、〈鉄の夢〉は最後のうつつ、
 それは〈現実〉ということだ。
 〈現実〉はあるがままを映し出し、
 皮肉な失望をおしつけるもの。
 〈童夢〉を夢見る瞳は撃たれ、
 〈黒の夢〉も〈金の夢〉も一撃に失明する。
 するとそこには何もない。
 〈無の夢〉をつつむ東京ドーム球場が寒々と広がるだけだ。

 それは破滅に向かう夢、〈Xの夢〉、罰点×印だらけの0点答案の夢。
 それがあなたを悲しめ苦しめる背後の影、
 辛く凍った時代の閉塞があなたの後ろに聳えのしかかる。

 それは〈中絶〉と〈破滅〉の夢。
 そこから〈終わり無き日常〉を輪廻する〈虫の夢〉が生まれた。

 〈王夢〉は本来〈毒虫〉のかたちを取るものではなかった。

 〈王の夢〉を〈虫の夢〉にしてはいけない。
 〈夢〉を〈無視〉する者は〈虫〉となり、
 それは〈イナゴ〉に落ちぶれる。

 〈イナゴ〉は〈否ノ子〉であり、この〈否〉は〈仮面〉となる。
 〈仮面〉の背後に〈超人〉を隠してはいけない。

 仮面ライダーは人をやがて化石の森にいざなう。
 そこは父・母・妹の待つ薄汚れた墓場だ。
 ウルトラマンは人をやがて円い谷にいざなう。
 そこはあなたの兄弟たちが待つ光の国である。

 前者は〈過負荷的変身〉の世界であり、
 神の審判は〈妹〉の姿をした水瓶座の女の手から毒林檎となって放たれ、
 あなたはそこで犬のように死ぬ。フランツ・カフカは嘘をつかない。
 その破滅は〈可不可の不安〉から
 〈可能性の中心〉へとしりごむことから生ずる。

 そうして危機意識が生まれる。危機意識が危機を募らせ、
 電子機器には角が出る。それは本当に鬼気迫る光景。

 失意と幻滅が〈くろがね〉の夢の皮肉にして皮相な顛末。
 虚しさだけが現わになれば〈無〉とは
 なんと荒涼とした風景であることだろう。

 黒い夢も金の夢も儚く相打ちして消え失せるときに
 〈くろがね〉の城の夢が空に聳えるだけだ。
 男の子はこの鉄の巨人に憧れて万能の機械の体を手に入れることに心奪われ、
 それに乗り込むや否やレーダーでしかものが見えなくなる。
 すると砂のお城は砂にしかみえなくなる。
 これはとても厭味なこと。砂を噛むように苦く味気無いことだ。

 すると、素直な男の子を騙して
 すなおに言うことをきく奴隷に変える〈砂男〉の
 とてもみにくいたくらみは成就する。

 〈砂男〉はいつでも老人であり
 学者先生の姿を取って子供の心を盗みにくる。
 そして君を超人にしてやるといって
 その実は甲羅をかぶった〈兜虫〉に変身させる。

 ビートルズとガメラとマジンガーZは黒魔術だったのだ。
 この黒魔術をきみたちは見破らなければいけない。
 それが君たちを欺瞞の平和を見抜けない虫に変えてしまった。
 それは〈黒き鉄の牢獄〉をシェルターにした存在だ。

 無限を悪用する〈8×8=64〉の魔術式。
 〈砂男〉は〈無気味なもの〉の背後に身を隠す〈みにくいもの〉、
 それは〈夢魔の世界〉を〈亡霊宇宙〉をつくりだそうとしている。
 情熱の赤い星〈火星〉を砕きにやってくる本物の〈侵略者〉の手先だ。

 〈火星〉に〈災厄〉の星の名前をなすりつけて、
 〈夢魔〉を祓おうとそそのかす者こそが本物の〈夢魔〉なのだ。
 その者たちはたとい姿は〈天使〉でも、
 心の底は冷酷で〈悪魔〉より悪い〈死魔〉に仕えている。

 ブラックマネーでできた悪の鋼鉄の卵殻は分厚く、
 ひよわなあなたには決してそれを打ち壊せない。
 それが本物のベルリンの壁。

 ベルリンの壁が崩れたとき壁は僕たちの背後に高く聳え立ち、
 僕たちは振り向くこともできないままその壁の落書きと化した。
 そして、二度と決してこの壁は壊せない壁となって
 僕たちの頭上にのしかかっている。僕たちは息がつまりそうだ。

 資本主義というこの〈黒き鉄の牢獄〉は〈赤の剥奪〉に成功したのだ。

 金の夢は金儲けの夢に、黒の夢は苦労の夢に落ちぶれて、水泡に帰する。
 ベルリンの壁が崩れて良かったね、
 きみたちは本当にいい時代に生まれ合わせて幸せだと
 若人に言うみにくい老人たちを信じてはいけない。
 それは永劫に呪われるべき嘘である。それは〈大人の見る夢〉である。

 そうではない。ベルリンの壁こそは自由の条件であった。
 それが崩れ落ちたとき、僕たちはもはや突き崩す壁を失い、
 二度と決して資本主義という強制収容所から
 脱出することができない羽目に陥ったのだ。
 ガス室は完成した。そしてバベルの塔も。

 僕たちは今なおこの恐るべきツァーリの圧制にたちむかう術をもたぬ。
 ツァーリの嘲笑が背中に響き渡る。
 こどもたちはその魔物の声に怯えている。
 時代は鉄格子のなかに閉ざされている。

 王夢は狂い、敗れ去った。
 そして絶望のブラックホールはますます事態を悪い方に導こうとしている。
 ああ、真理よ、小さなきみの心のたてる悲鳴が僕に届いた。
 このままではきみは無に還元されてしまう。
 そうすれば老人どもの悪知恵の思う壷である。
 僕はそれを見過ごしにしてはおけない。

 僕は神沢昌宏、徒手空拳無一文の魔法使いだ。
 僕の右手には何も無い。それはきみたちと同じこと。
 君の右手にも何も無い。しかし僕たちの炎の心臓はまだ凍え切ってはいない。
 僕は心臓の炉心からメギドの火をつかみ出した男だ。
 きみたちにも同じことができる。

 僕はきみたちに魔法をみせてあげよう。
 それはきみたちにもすぐに使えるようになる。
 メギドの火を赤く燃やし、右手の〈無〉に引火するのだ。
 すると〈無〉に命が宿る。

 僕は〈無〉の中央をくびれさせて〈無限〉をつくる、それが〈夢幻〉だ。
 〈夢〉を創るのが僕の努め、けれども〈夢〉を壊すのも僕の努め。
 それは僕がきみ、最も遠い〈ねむりびと〉にかける謎なのだ。