〈無〉が循環して〈無限軌道〉を描く。
 二つの引き裂かれた〈歴史〉と〈人生〉のあいだに
 結び目がある――ノットがある。
 
 ノットは不動のまま〈8〉の字宇宙に澪を曳く浮動小数点。
 浮動小数点は最初の数の原子核を司る微粒子だがそれは目につかない。
 それによって大宇宙は微分化されて計算可能になる。

 ノットは大宇宙を航海する宇宙戦艦の航跡でありその速度である。
 ノットのところで宇宙は二次元へと引き裂かれる。
 けれども前方には裂け目のない大海原がいつも茫洋広漠とひろがっている。

 ノットは〈節目〉であり〈否定〉であり〈蓋〉である。
 それは〈否〉を定め、
 〈無〉に〈蓋〉をして〈0〉をふたつにする〈蓋〉である。

 こうして〈無〉は〈蓋然的な無〉となる。
 蓋然性つまり確実性はこうして造ることが出来る。

 〈われ思う、故にわれ在り〉とは本当に奇妙なかたちをしている。
 〈無〉に〈蓋〉をして〈存在〉が造られる。それは基礎となる。
 ともあれ、こうして僕はデカルトを創造したのだ。
 
 〈存在〉とは〈否定〉のストール。
 それがなければ〈無〉の中央に腰掛けることは出来ないが、
 その下がどうなっているか知ろうとして〈蓋〉を開けると、
 たちまち〈無限〉の深淵に落ち込む。
 ではいったい何が〈存在〉を支えているのか。

 〈無〉が〈否定〉されることによって。
 〈無〉はそれ自身を否定することによって姿を隠す。
 それで〈無〉は見えなくなって〈夢〉が見えるようになる。
 〈無〉の自己否定が〈自己〉を与える。

 〈無〉は無化して〈自己〉をきみに奪われる。
 こうして〈無〉の底知れぬ闇の目に〈蓋〉がされて、
 〈目蓋〉が生まれる。〈目蓋〉は〈自我〉を孕む。
 こうして〈ねむりびと〉は生まれた。

 〈ねむりびと〉はねむる。
 〈ねむりびと〉はそれ自身をねむる。
 〈ねむりびと〉は自分をねむり、自分に目をつぶる。

 こうしてきみは僕を見失い、僕はきみを失った。
 きみは僕からきみを奪い、そしてきみはねむりに生まれる。
 きみはねむりにねくるまる。

 きみはおのれ自身を孕み包む〈処女〉。
 乙女のねむりはすべてのはじまりにしておわり。
 アルファにしてオメガだ。

 何という眠り姫の逆説。
 それは本当に見果てぬ夢。
 いつまでも自分自身にたどり着くことのない夢幻の軌道。
 いつまでも自分自身にたどり着くことのない〈他者〉は
 すべての始まりにある〈無〉の〈蓋〉なのだ。

 〈他者〉においていないものがいはじめる。
 でも、この〈他者〉はいなくなることでいはじめるのだ。
 あらゆるものに〈蓋〉をして。

 こうして僕はパルメニデスを創りそしてレヴィナスを創った。
 やがてこの謎を暴くために。

 〈他〉なるものは、ものの数には入らない。
 〈他〉なるものは〈もの〉だから。

 こうして、僕はラカンを創った。やがてこの謎を暴くために。

 処女懐胎というのは処女性それ自体を定義している。
 〈純潔〉なるものは〈一〉なるものを内に孕みながら、
 〈一〉なるものを退ける。
 撥ね除けられ、〈一〉なるものは消えうせる。

 こうして、恐ろしき不可視の夢〈別人〉が生じた。
 〈別人〉は〈悪〉の不可能性の核心をなす
 〈神秘〉の根、〈根源悪〉。
 それに近づくことは本当に恐ろしい。

 それを見たくないので、〈無〉に〈蓋〉をする。
 それにちかづかなくてすむように
 体のいい〈神秘〉を人は見ようとする。 

 〈神秘〉はいつも〈算数〉として始まる。

 数え歌は目に見えないものに怯える子供が
 最初にその〈もののけ〉を追い払うためにそらんじる
 自分騙しの安心の技術。そうやって恐怖は不思議に変わる。

 いないいないばあ、いないいないばあ。
 それは美しい〈他者〉と怖い〈別人〉をまぜこぜにする魔法だ。
 こうして二人ともきれいにいなくなる。

 〈きれいにいなくなる〉ができると算数の最初のレッスンが終わる。
 〈きれいにいなくなる〉とさっぱりする。
 こうして〈不在〉が完成するのだ。
 〈不在〉とは〈別人〉と〈他者〉の対消滅の跡形である。

 いないいないばあ、いないいないばあ。
 遠ざけては近づける振子運動で
 自分自身を不思議の国の住人にする催眠術の始まり始まり。
 そうやってものごとを曖昧にするのだ。

 〈他〉なるものや〈別人〉をものの数には入れないことで
 〈数〉はおのれを自然化したが、
 自然というのは物事の有耶無耶。
 あってなきがごとしものなのだ。

 だから〈数学〉は人間の覚える最初の偽善となる。

 〈数〉は最初の〈実体〉であるが、
 それは何にも対応していない〈空〉なるものである。

 〈空〉なるものは〈無〉についての最初の虚偽の観念だ。
 〈空〉なるもののなかで〈実体〉の〈実体〉は抹殺された。
 〈空〉なるものは「〈空〉は〈無〉に等しい」と
 最初の嘘をつく、あるいは最初の嘘を繰り返す。
 〈無〉は〈何か〉だが、
 〈空〉なるものはそれを〈何でもないもの〉として空々しく扱う。
 
 〈空〉なるものは最初の〈嘘〉である。
 だから〈別人〉に憑依されやすい。
 〈数〉は最初の〈悪霊〉だ。
 何故なら〈別人〉は〈悪魔〉であり、
 〈数〉はそれに使役される最初の〈式神〉となるからである。

 それが〈数学〉の呪われた〈起源〉にして〈本質〉である。
 〈数学〉は〈もの〉をものの数に入れないことに役立つ。
 それは臭いものには〈蓋〉をするということだ。