Noli Me Tangere 1994年版(未完)より [冒頭]
第二章 神聖秘名 3-6 白痴の悪霊

   私は、アメリカが嫌いだ
   アメリカを憎んでいる
   奴らのファシストの総統は決断を下す
   価格は奴らの意のまま
   だから、アメリカが嫌いなんだ
   憎んでさえいるのさ
   閉ざされたドアの背後につみ上げられ
   どうして戦争に勝つために死んでゆくのか
   だから、私はアメリカが嫌いだし
   憎んでいるんだ

   I hate America
   I hate America
   いつわりの名誉を聞いた時
   言論の自由――人々の選んだ
   甘やかされた子供っぽい攻撃
   全ての破壊的な兵器に守られている
   I hate America

   THE WORK “I HATE AMERICA" 1980(フールズメイト訳詞)


  *  *  *

 そして誰もいなくなり、TVはTVに向き合って目配せを始める
 崩れた壁の向こうに広がったのは、
 新しい電気仕掛けのノイズの空
 己れの願望だけを雲の鏡に映し出す
 不思議な魔法の杖が振られる
 目にみえぬ白いものが空から降って地球を覆う
 それはマナではない、
 心に染み通って人間を変成進化させる大いなる意志
 誰もが争いをやめようと言い、
 仏陀の悟った微笑に染まる
 しかし、時代を言祝〔ことほ〕いだのは、
 聖霊ではない、それは悪霊の降誕祭〔ペンタコステ〕
 彼らの笑いは抜け殻の笑い、
 平和な空しさが虚ろな者どもを笑わせる
 その瞳には鈍い確信、
 TVの見過ぎで腐り果てた魚のまなこのように鈍い
 白くひろがるこの麻痺の下で、
 地球の回転が狂い始める

 崩れる壁の向こうで始まる
 様々な見世物のあげくの果て
 こじつけめいた茶番の結末は
 クーデターのスペクタクル
 ぼくらは歴史を見せつけられる、まるで陳腐な
 ハリウッド映画の再放送のような演出で
 お涙頂戴のハッピーエンドの銀幕の後ろで
 偉大な人が殺される。
 奴らはミカエルをすげかえ、
 レプリカントの代役が手を振って
 シナリオは強引に大衆向けのTVドラマで落ちをつける。
 和尚のミカエルと
 ぼくらのデレクの皿にもAIDSが盛られる。
 これが奴らの救済(AID)のやり方、
 邪魔物は殺せ、異なる者は消せ。
 すべてはWASPの色に染め上げねばならぬ。

 ああ、だが、この人を見よ〔エッケ・ホモ〕、
 ホモとは人間を意味している。
 きみたちはAIDSにかこつけホモを差別し、
 人間を殺そうとする。

 これこそがきみたちのエコロジー、
 地球環境はきみたちの独占私有財産。
 毒を盛られてラジニーシが死に、
 ぼくらのソヴィエトが滅んだとき、
 偽の世界が始まった。

 嘘の情報と嘘の祈り嘘の音楽に嘘のムービー
 きさまらは誇らかに歌う、
 We are the world.We are the children
 まるで世界はアメリカ人のものだというかのように
 すべてはハリウッドの呪縛の下に
 置かれねばならないというかのように

 万人を子供扱いしてTVの力で屈服させ、
 巻き上げた金でする慈善は
 飢えた人々の文化を侮蔑する精神的な植民事業
 おまえたちは真面目な書物と深刻な現実を抹殺する、
 ありとあらゆる真剣な芸術と共に。

 それは大衆の仮面をつけた権力
 アメリカよ、おまえは災いだ。
 おまえたちは全世界にディズニーランドを押し付ける。
 深刻なもの、高邁なもの、苦しむものをおまえは蔑む。
 真の大人に人を育てようとする苦悩を、
 教養を、思考を、葛藤をおまえは断ち切る。

 われわれは皆アメリカ合衆国民になれとおまえは言う。
 だがそれは何を意味する? 
 なりばかり大きな永久の幼稚園児でいろというのか。
 おまえのわがままの玩具にされ、
 捨てられて遂に牙を剥いた狂人フセイン。
 だが、アメリカよ、
 おまえの唱える新秩序に理性はあるか、真心はあるのか。
 そしてアメリカよ、ぼくは信じない。
 何よりもおまえの感性こそ汚らわしい。
 フセインは石油のヘドロで海域を汚し、
 炎を放って資源と環境を損なった。
 だが、黒いタールまみれの海鳥の無残な姿で
 ぼくたち皆を欺けると思ったのか。
 おまえが買い上げるはずだった
 石油が燃えたのがそんなに腹立たしいのか。
 おまえの国益を守るわがままのために
 どれ程の資源をわれわれから搾取したか。
 そしておまえは全世界を代表すると大言壮語、
 地球全土はおまえの領地なのか。

 見え透いた美辞麗句で
 全世界の人を小学生扱いにして騙すおまえの愚劣なニュース。
 現実の湾岸よりも世界の心と誇りの方こそ
 そのときもっと汚く汚染された。
 おまえは見えない電波で世界を汚す、それこそ新しい核兵器。
 情報、情報、情報の絨毯爆撃で、全人類の精神をホロコーストする。

 ああ、あのとき寧ろぼくらのケイトが大統領であったなら
 ダサいジョン・ウェインにうつつを抜かすような輩は
 金歯の太った背広のオジンどもだけ
 奴らは遠くから人を殺せるような
 ポップミュージックを作り
 淫乱な聖母と滑稽な猿が
 白粉まみれでその中で踊り/みんなを阿呆にするために
 ライヴ・ハウスにはブルドーザーをさしむける
 そのときフセインを応援したかどで
 ぼくらのブレインをぶっ壊し、ポップコーンに変えて、
 ヤッピーどもの餌にするために

 ぼくらの希望のソヴィエトとゴルビーを
 埃だらけの墓穴にぶちこみ
 白ばっくれたアナウンサーと必然づらに
 取り澄ましたスポークスマンの茶番が終われば
 その手を拭う白いタオルには
 麗々しくも《歴史〔イストワール〕》の刺繍文字
 ニュースが終われば、さあ、イッツ・ア・ショウタイム!
 深々とシルクハットを振ってお辞儀する手品師のご登場
 観客席の鼻垂れ小僧どもに向かって、彼は言う
 ――レディース&ジェントルメン
 取りいだしましたるは、
 豚のようなジャップとアメ公の腐った息子
 ゾンビのヘーゲルを墓から掘り起こし、
 その巨大な腐れる頭脳に魔法をかけて
 大脳縦裂の隠微な割れ目から、
 ヌルリと如何わしいミネルヴァを分娩させ
 その卑猥なヌードの真下に守られながら
 とぼけたフクロウのうわ言を言う
 それはありとあらゆる小賢しさと言いくるめの生けるテクストブック
 《歴史は終わった、その目的はアメリカ資本主義による世界の統一だった》

 すると世界の高層ビルの
 あらゆる高みから拍手喝采の嵐が起こる。
 そして翌日彼らは思う
 《全社員に英会話の研修をさせよう、
  無駄なことを考えるのはやめさせよう、
  悩める者にはセラピーセラピー
  今後の世界はすべてビジネスビジネスそれ以外は娯楽の時間》

 喘息病みと豆の木の賢者は
 さぞかし呆れた顔をしたことだろうが
 和尚亡き後のフランスの白いロッジは、
 白痴の企業家に買収され
 大学と哲学を潰すために
 経済のブタと新聞の犬が差し向けられる
 奴らの間抜けで高貴な甥、
 ナポレオン三世を復活させるために。
 そして最後の人間どもは愚鈍な豚の帝王コザールを
 われらの偉大な獣の王、ト・メガ・セリヨンと呼んで拝むのだ。