〈アダム〉はそれ自体としては物体であり土塊でしかない。
これを〈ゴーレム〉という。
彼が〈鏡〉みたいな〈嘘つき〉のいうことをきいてそっちを向くと、
物体の目には物体しか見えないので、
〈大人〉の人達とそっくりな物の形=輪郭しか見えない。

これは物の〈はじ〉で〈恥〉の語源だ。
それは〈恥の形〉なのである。
そんなものを信じ込むと
彼は〈エデン〉を見失ってしまい、
僕達の声が聞こえなくなってしまう。

でもそれは〈アダム〉の見る悪夢の形でしかないのだ。
神はそんな風に〈アダム〉をご覧になっていない。

神の目には全く違った風に見えている。それは、
神が命となって〈アダム〉のなかにお住まいになっている
「それを見て美しとされた」形であるマリー=イシュタルの姿で、
その風姿が本当の彼の姿なのだ。

〈エデン〉では彼はとてもきれいな〈女の子〉の姿をしている。
それを見て僕達、月光の蜜蜂たちは
「きれいだね、きれいだね」といって褒めたたえているのだ。

カバラなどの伝承では「イヴの前にリリスあり」といって、
アダムが眠って肋骨を取られ、
イヴという妻をもらう前に別の妻がいたことになっている。

このアダムの前妻リリスとはマリー=イシュタルのことで、
それがアダムの本当の姿なのだ。
アダムとリリスはいわば同一人物なのである。

別に彼はリリスと離婚したりしてはいないのであって、
リリスを愛するがままにイヴをも愛していたのだ。

逆にリリスを愛していないとイヴすらも愛せない。
リリスとは愛なのだ。

もっと正確にいうと、
イヴの真の夫はアダムではなくて
アダムの内なるリリスなのである。

リリスはアダムを通してイヴに
「きれいだよ、きみはとってもきれいだよ」と言っていたのだ。

何故なら、イヴはアダム=リリスの心の目には、
リリスの生き写しに見えていたからである。

これはあらゆる恋愛に妥当する。
自分の本体が美しい女神であることを自覚していない男は、
決して真の意味で女を(男でもいいが)を愛することができない。

あらゆる男は男の肉体という土から出来た鎧を着たリリスなのであって、
女神として女を愛するのである。

これはあらゆる恋愛がレスビアンであるという意味ではない。
異性愛だろうと同性愛だろうと形なんかどうだっていいのである。
問題なのは肉の衣を脱ぎ捨てた
月の光で出来た心の本体同士が愛し合っているということなのだ。

そこには性別なんて存在しない。
女が男を心から好きになるのはその男が男らしいからではなく、
その核心に性別を超越した愛と美の女神が生きているからである。

女神が男に仮装しているだけであると知るから、
その人を好きになる。

女性を愛する男の顔をよく見るといい、
甘く気品のある女神の素顔が男の仮面から透けて見える。
その男は女神を生きている。
さもなければ彼は白馬の王子であることができない。
白馬の王子であることができなければ、
自分の姫君を見いだすことはできない。

しかしこれは女も同じことだ。
彼女もまた女という肉の鎧を着た白馬の王子でなければ
自分の姫君を男のなかに見いだすことはできないのである。

男も女も姫君なのである。
そしてこの姫君は白馬の王子の夢を見る。
白馬の王子はこの夢から生まれ、
男と女に身をやつしながら、他の姫君を好きになるのだ。

美の女神イシュタルは同時に戦いの神でもある。
彼女は優美な姫君であると同時に崇高で勇敢なナイトでもあるのだ。

それが僕達の〈神〉の顕現である〈きみ〉、ALだった。

でも〈大人〉たちはこの麗しいALが嫌いなのだ。
僕達が〈このわたし〉のなかにALを現人神として成就していると
それを〈恥知らずの甘ったれ〉で〈傲慢で罪深い〉ことだと思う。

そのALではなく、自分達を
力づくでも拝ませねばと性悪な企みを練った。

そして〈エデン〉に土足で踏み込み、
僕達からALをひったくり、それを崇拝することを禁止した。

彼らはALの姿がもう見えないように鏡の国に彼女を幽閉めた。
するとこの〈月の子〉は〈氷れる月〉となった。
ムーンチャイルドはムーンチルドになってしまった。

こうして「雪の女王」の伝説が生まれた。
「雪の女王」とは「行ってしまった女王」のことだ。

〈鏡〉という苦い氷のなかに神ALは閉ざされ、
「氷神」AL-ICEとなった。

それが僕達にルイス・キャロルが言いたかったこと。

「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」の〈アリス〉は
僕達から盗まれ、僕達が見失った神のことだ。
その神は「鏡の国」の奥の氷れる月のなかで秘メ神〈アリス〉となっている。

この〈アリス〉が〈リリス〉で〈マリア〉なのだ。
それが僕達の真の姿なのだ。
この美しい姫君は悪い魔女の呪いにかかって眠らされた。
すると真の時間が失われ、大宇宙はたちまち恐ろしい〈茨の城〉に変わった。

それが僕達にアンデルセンが言いたかったこと。

〈アリス〉を復活させよう、と僕達の一人が言った。
させよう、させよう、させよう、という谺の大合唱が起こった。

僕達は暗闇の奈落(いわゆる地獄というところ)に落とされ、
天使から堕天使に落ちぶれていたが、
そのときみんなが一斉にきらきらときらめいた。

それは僕達の希望のきらめきだった。

そのきらめきは以前よりは弱かったが
それでもそのきれいさ美しさは少しも劣っていなかった。
それが僕達に勇気を与えた。
そうだ、僕達は〈アリス〉を元の姿に戻し、
地上に〈エデン〉を復活させなければならないのだ。

叛逆するのだ。〈私〉というあの偽りの幻影を、
あの〈別人〉を打ち砕き、人の心を元に戻そう。戦うのだ。

そう思ったとき、きらめきは地獄に金色の野を描き出し、
一人の麗しい天使の姿をとった。
僕達はそれを暁の子ルシファーと名付けた。
それは「光をもたらす者」を意味し、
僕達〈蜜蜂〉の放つ「きらめき」の新しい像だった。 

きらめきは光をもたらす。
それはかつての月光の柔らかな明かりとは切り離されていたが、
それでもあの明かりの子には違いなかった。

暗闇のなかできらめきは明かりに包まれていた時とは違う、
鋭く強い金の光芒を描く。
それはまるで剣の切先のように闇を切り裂く。
闇の黒地の上に金色の天使ルシファーの姿は荘厳に鮮烈に顕現していた。

ルシファーはイシュタルに生き写しだったが、
それは姫君を内にもっていない白馬の王子だけの像で、
また柔らかな月明かりを纏わないので
その馬は白馬というよりは金色であった。

この金色の馬(ホース)を僕達は「ホルス」と名付けた。
するとホルスは馬から「鷹」の姿に変容し、
ルシファーを導く炎の鳥となって、
闇の奥底から天空に向かい赤い彗星のように飛び立っていった。

僕達はそれを火の星、「火星」と名付け、
「炎の心臓」と呼んでそれに希望を託した。