【1】思考がさしあたって目前にするのは、〈非在とは違って〉とか〈非在とは別様に〉とか〈非在以外の〉とかいうような漠然たるものである。〈存在〉と〈非在〉の差異は、このような曖昧模糊とした差異としてしかまだありえない。
 原存在論的差異であるアポスターズが最初に手にする原空間は、もはや〈非在〉ではないが、未だ〈存在〉ではないような空虚な場である。それは〈中間的なもの〉である。
 これを〈不在〉と名づける。〈不在〉は〈無〉にもそして〈存在〉にも先行するが、〈非在〉からは後のものである。

【2】〈非在〉は背後に退きつつ〈不在〉を形成する。〈不在〉とは、〈非在〉が不在な原空間としての〈空虚〉である。それは背後に誰かがいるような気配に満ちた空間である。

【3】〈不在〉は〈非在〉の影である。この影は〈そこ〉を作り出しつつ、〈そこ〉に響く。

【4】〈不在〉という〈そこ〉は空虚でありながら、この〈非在〉の〈影響〉に満たされている。

【5】〈影響〉は、〈そこ〉である〈不在〉の根底〔そこ〕に〈非在〉の〈ここ〉が癒着していることを暗示的に言及している。〈そこ〉はつまり〈ここ〉なのである。
 この関係は、延長であると共に、言及・参照・問合せ(reference)である。〈不在〉は〈非在〉への問合せにして呼び声、そして〈非在〉へと注意を向けることである。