【1】思考は大前提となる不可能性を〈考えられないが故にありえない〉という背教的否認において把握し、これを虚偽の根拠、〈非在〉と名付ける。


【2】〈非在〉は単純な〈無〉(単に無いもの)ではなく、否認された実在、あってもありえないが故にないものである。


【3】〈非在〉の命名は思考の原判断に基づくが、この原判断には〈ありえないが故にない〉という思考の原推論が働いている。


【4】〈非在〉は不可能性に大前提されながら、思考によって最初に帰結された概念である。〈ありえないが故にない〉は〈不可能であるが故に非在する〉ということである。


【5】不可能性の観念から〈非在〉の観念は類推的に抽出される。そして、〈非在〉の観念から〈無〉の観念が要請される。
 〈不可能であるが故に非在する〉が、その者は何かが反問される。思考はこの反問に応答して、その者は〈無〉であると解答する。〈無〉は最初の問いに対する最初の解答である。かくして、〈無は不可能であるが故に非在する〉という、思考にとっての最初の命題が完結する。