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宏は絢子が、可愛い服を、

身につけようとしないのは

わかっていた。

 

それでも、宏は絢子に、

ピンクのワンピースをプレゼントした。

 

可愛い服を着た、絢子を、

見てみたかったから。

 

喜ぶと思っていた絢子が、

切れて狂ったように暴れ出した。

 

 

 

 

 

宏は、暴れて喚き散らす絢子を、

押さえ込もうとした。

 

耳をつん裂くような、絢子の悲鳴。

 

容赦無くぶつかる、手足。

 

絢子が手当たり次第に、

ところ構わずぶん投げた、雑多な物。

 

その中に、宏は、血痕の染み付いた、

ピンクのワンピースを見つけた。

 

宏の頭の中で、何かが、

カチッとハマった。

 

「これは、証拠になるんだぞ!」

 

宏は叫んでいた。

 

養父母の家を飛び出す時、

絢子は、衝動的に、

リュックの底にワンピースを押し込んだ。

 

養母の助けを乞うた後、

一縷の望みも見つけられずに、

家を飛び出した時に。

 

宏は、気の触れたような形相で、

ワンピースを切り刻み続ける、絢子に、

何度も繰り返し、

 

「これは、証拠になるんだぞ!」

 

ひたすらに叫び続けた。

 

絢子の手が、

宏の声に反応して、止まった。

 

宏は、ハサミを握る絢子の手首を、

そっと抑えて、ハサミを絢子から遠ざけた。

 

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