「絢ちゃんは子どもみたいだな」
と宏が言う。
頭の中を見透かされてるみたいで癪に触り、
絢子は聞こえなかったかのように、
知らん顔をする。
「出掛けるなら、鍵持っていってよ。
昨日作っておいたから」
テーブルの上に、
カタンと鍵の置かれた音がする。
不意を突かれてビックリしている絢子に、
「嫌なら、
そのまま置いていってくれていいよ。
だからって、
二度と来るなとか言わないよ。
いつ戻って来てくれても構わないよ」
「嫌なわけじゃないんだけど、
ビックリしたから。
住みつかれたら迷惑なんじゃないの?。
私のこと何も知らないのに」
と絢子が言うと、宏は笑って、
「俺は自分のこともよくわからないよ」
と笑う。思わず絢子は、
「私もそう。
自分のことが、一番、わからない」
と返して笑っていた。
起き抜けの絢子の素足に、
フローリングの感触が冷たい。
雨音に閉じ込められて、絢子は、
この世界に、
宏と自分しか、
居なくなってしまったかのように、
感じた。