埼玉県上尾市の自費リハビリ施設「リハフィット」で働いている、脳卒中認定理学療法士の實(みのる)と申します。
みなさんは、このような経験はありませんでしょうか?
「ありえないほどの眠気が急に襲ってくる…」
「午後は頭が全くまわらず、何もできなくなってしまう」
「家族からは『わかるよ、俺も疲れたらそうなる』と言われるけれど、それとは全く違う気がする」
これらに共通するのは、脳卒中後疲労(PSF:Post Stroke Fatigue)という症状です。専門家の間ではPSFと略されることもある、脳卒中の後遺症の一つです。
この脳卒中後疲労は、健常者が経験する普段の疲労とは全く異なる症状です。しかし、周囲からは「単なる疲れやすさ」として想像されてしまいがちなため、なかなか共感されず、つらい想いをされている当事者の方を私はたくさん見てきました。
そこで今回は、脳卒中後疲労について詳しく解説したいと思います。この記事が、脳卒中当事者の方やご家族が、お互いを理解し合うきっかけになれば嬉しいです。
なお、本コラムでは分かりやすさを重視し、脳卒中後疲労を「脳疲労」と略して解説します。
本コラムのポイントは以下の3つです。
-
脳疲労とは何か
-
脳疲労で起きる具体的な症状について
-
脳疲労の対策
脳疲労とは何か
脳疲労とは、「慢性的かつ持続的な過度のエネルギー不足」を特徴とする状態です。うつ症状がないにもかかわらず、「疲れやすい、倦怠感がある、努力するのがしんどい」といった感覚を患者さん自身が強く感じます。
ある報告(文献1)によると、脳卒中患者さんの約7割に見られるとされており、決して無視できない後遺症の一つです。
発症のタイプは大きく3つに分けられます。
-
早期発症タイプ
-
発症から持続するタイプ
-
晩期発症タイプ
特に、入院中はそれほど感じなかった脳疲労を、退院した後に強く感じるようになるタイプがいることには注意が必要です。
明確な原因はまだすべて明らかになっていませんが、現在は主に3つのメカニズムが指摘されています。
原因1:脳のネットワークの変化
脳のつながりが変化してエネルギーの効率が悪くなるため、同じ作業をしていても、以前より多くのエネルギーを消費してしまいます。
原因2:炎症反応
脳内で炎症が起こることで、体が慢性的に「風邪を引いたときの体のだるさ」のような状態(病気モード)になってしまいます。
原因3:感覚フィルターの機能低下
不要な刺激(周囲の音、光、視覚情報など)を脳が遮断できなくなるため、休んでいるつもりでも脳が常に情報を処理し続け、エネルギーを使い果たしてしまいます。
脳疲労で起きる具体的な症状について
まず知っていただきたいのは、健康なときに感じるような疲労感とは「質が全く違う」ということです。
例えば、私も論文の執筆や動画編集などで、睡眠時間を削って作業することがあります。極限までくると頭が回らなくなりますが、そこにはやりきった「達成感」や、ベッドに倒れ込んで眠る「心地よさ」があります。
しかし、脳卒中後の脳疲労にあるのは、ただただ「つらい、苦しい、困る」という感覚なのです。ここが大きな違いです。
では、具体的にどのような症状があるのかを見ていきましょう。
症状1:ありえない眠気が場違いな場面で襲ってくる
前日もしっかり寝たし、念のために昼寝もした。それなのに、楽しみにしていた友人とのカフェで、目を開けているのもやっとの猛烈な眠気が襲ってくる。自分の努力や気合ではどうしようもないレベルの眠気です。
症状2:スイッチが切れたように言葉が出なくなる
さっきまでは楽しく会話ができていたのに、ある瞬間、急にスイッチが切れたように言葉が出なくなってしまう。周りから見ても、明らかに「心ここにあらず」という状態になります。
症状3:午後にエネルギーが切れてしまう
午前中は掃除や洗濯、料理を効率よくこなせた。さあ、午後は自分の時間を楽しもうと思った瞬間、急に頭が全くまわらなくなる。何もできず、かといってぐっすり眠ることもできない、つらく苦しい時間が訪れます。
脳疲労の対策
何か一つの方法で劇的に良くなるというよりは、いくつかの方法を組み合わせて実施していくことが大切です。
対策1:認知行動療法とペーシング
ここでは、今からでも実践できる具体的な流れをご紹介します。(文献2)
ステップ1(知識)
脳疲労は「後遺症」の一つであると正しく知りましょう。手足の麻痺と同じように症状の一つですから、本人の努力不足のせいではありません。
ステップ2(記録)
疲労や活動、睡眠の日誌をつけてみましょう。どのような活動のあとに強い疲れが出るのか、自分の傾向を把握します。
ステップ3(スケジューリング)
無理のない範囲で、自分が楽しいと感じる活動や、生活の中で重要な役割をこなすための具体的なスケジュールを決めます。
ステップ4(認識の修正)
「疲れたら絶対に動いてはいけない」という極端な思い込みをなくし、同時に「休むのは怠けだ」という罪悪感も手放しましょう。適度に休むことは大切な治療です。
ステップ5(ペーシング)
エネルギーを節約しながら、活動の合間にあらかじめ適度な休憩を挟むようにします。
ステップ6(トラブルへの対処)
計画がいつもうまくいくとは限りません。うまくいかなかったときは、その原因を振り返り、将来の疲労悪化を防ぐための方法を、ご家族や周囲の人と一緒に考えておきましょう。
対策2:漢方薬の活用
脳卒中当事者である鈴木大介さんは、その著書(文献3)の中で「抑肝散(よくかんさん)」という漢方薬で脳疲労が軽減されたと述べています。
これは本来、神経過敏による不眠などに用いられる漢方薬です。なぜこれが脳疲労に有効だったのかというと、鈴木さんは「自分は音や光といった外部情報に対する感覚過敏(感覚フィルターの低下)の傾向が強かったからではないか」と自己分析されています。メカニズムの3つ目にアプローチできた好例です。
対策3:適度な運動
座りっぱなしでいるよりも、適度な運動を行うほうが疲労軽減に有効です。無理のない範囲で、自分が続けられそうだと感じる楽しい運動を見つけてみてください。ご自身で見つけるのが難しい場合は、ぜひお近くの理学療法士へ相談してみてくださいね。
まとめ
今日のポイント
-
脳疲労は脳卒中の後遺症であり、「疲れやすい、倦怠感、努力するのがしんどい」という、苦しさを伴う疲労感のことです。
-
具体的な症状には、「場違いな場面での強い眠気」「急にスイッチが切れて言葉が出なくなる」「午後に何もできなくなる」といった特徴があります。
-
対策としては、活動のペース配分(ペーシング)、認知行動療法、漢方薬の活用、適度な運動などがあります。
最後に
脳疲労で悩まれている方は本当に多くいらっしゃいます。ただ、完全に症状をなくすことは難しくても、自分のペースを掴みながら、少しずつ生活や活動を再構築されている方もたくさん見てきました。
ぜひ一人で悩まずに、信頼できる当事者仲間や専門家に相談してみてくださいね。
今回この記事を依頼してくださった、脳卒中当事者会「春日部脳knowカフェ」の主催者さんも、まさにこの脳疲労と上手に向き合い、少しずつ活動を広げられているお一人です。ぜひ、脳knowカフェにも足を運んでみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
埼玉リハビリセンターリハフィット上尾店
脳卒中認定理学療法士 實(みのる)結樹
店舗ホームページ
https://rehafit.jp/
SNS等の活動一覧
https://lit.link/minorupt
参考文献・書籍
1) Amélie Ponchel et al. Factors Associated with Poststroke Fatigue: A Systematic Review. Stroke Res Treat. 2015:347920
2) 佐藤美紀子, 百田武司. 脳卒中後疲労(Post-Stroke Fatigue)に関する国内外の文献レビュー. 日本看護研究学会雑誌. 2024年
3) 鈴木大介.「脳コワさん」支援ガイド. 医学書院. 2020年
