「・・・・・・んー?」
暗殺部隊の部隊長を務めている3年生、実夏月璃季は耳に携帯電話をあてながら首を傾げていた。
「どうかしたんですか?璃季ちゃん」
そう璃季に尋ねたのは諜報部隊に所属する2年生、苺咲ちょこ。
ちなみに、璃季とちょこは友人でもある。
「いや、駿に現地の様子を聞こうと思って電話してるんだけどさ・・・全然電話に出ないんだよねーあいつ」
駿、というのは璃季の後輩である長瀬駿という男子生徒だ。
今は関東に不可解な動きを見せている白軍の様子を探りにいっているはずなのだが、どうも連絡が取れなくなっている。
少し考え込むような仕草を見せた後、璃季はこう結論を出す。
「・・・まあ、ここで待ってればそのうち帰ってくるでしょ」
「そうですね」
この2人が駿がどんな目に遭っているかを知るのは、もう少し先の話である。
*
(うーん・・・・ちょっとまずいかな、この状況は)
手足を縄的なもので縛られていて身動きは取れないし、よりにもよって白軍の学生達に取り囲まれているし。
おまけにその白軍の学生達の先頭に立っている少女とは顔見知り・・・・というか腐れ縁の関係にある。
「ねえ奈緒・・・これほどいてくんない?ぜんっぜん身動き取れないんだけど」
私がそう言うと、その少女・・・秋風奈緒は溜め息混じりにこう答えた。
「無理に決まっているだろうそんなもの。君はバカか」
「だよねーあはは・・・ってバカじゃないし!!」
ムキになってみても、状況が変わるわけもなく。
「・・・で?私をどうするの?」
尋ねたところ、返ってきたのは意外な答えだった。
「・・・そうだな。少し2人で話をしないか?」
「・・・・へ?」
*
「・・・・・おかしいわね」
そう呟いたのは「安藤玲奈(あんどうれいな)」という少女。
赤軍に所属している彼女は、夏希が所属している「チーム」の司令塔を務めている。
「白軍の気配が消えた・・・・?」
夏希を含めた彼女達の「チーム」は、「ある目的」のためにこの森林地帯までやって来た。
ところが、その「ある目的」の対象となっている白軍の学生達が、玲奈達との戦闘を放棄してどこかへ消えた。
何かしらの事情があると予測した玲奈は、携帯電話を取り出して番号を打ち込んでいく。
『はいはーい。どうした?玲奈』
「白軍の気配が消えたわ。そっちはどう?」
玲奈が簡単に用件を伝えると、電話の相手は「俺の方もだ」と答えた。
電話の相手は「蒲原清人(かんばらきよひと)」という少年で、こちらも同じく「チーム」の一員である。
清人も同じ事を考えていたようで、玲奈に連絡を取ろうとしていたところで玲奈から電話が来た・・・との事だった。
「あんたはどう思う?」
『そーだなー・・・・色々可能性はあるけどどれも確証に欠けるってとこだな』
「・・・・そうね。じゃあひとまずそこで待機。桃花と夏希に連絡を取ってからまたかけるわ」
清人が「ああ」と答えたのを確認し、玲奈は通話を切る。
と、その時。
「・・・・・黒軍の制服?」
彼女が隠れている茂みの少し先の方で、辺りをきょろきょろと見回しながら歩く黒軍の少年がいた。
向こうは玲奈には気づいていない。
玲奈は一瞬、彼女の武器でもあり懐に隠してある拳銃に意識を向ける。
しかし、
「・・・・・・・・・・」
黒軍の少年が玲奈の射程距離から遠ざかっていく。
無駄な人命の損失は望まない。
それが、「学生戦争」の暗黙のルールである。
最も、そんなルールがなかったとしても玲奈が少年を撃つ事は無かっただろう。
赤軍とは、目的の対象外の人物には基本的に危害を加えないものなのだ。
*
手足を縛られていた縄的なものはほどかれた。
逃げようと思えばいつでも逃げられるんだろうけど・・・・、
「逃げようとはしない方がいいだろうね」
奈緒の言う通り、逃げるのはあまり得策とは言えないようだ。
私達の話が聞こえない程度に、それでも私が何らかの動きを見せた瞬間に対応出来るような位置に白軍の学生が立っている。
・・・・ここは諦めるしかないみたいだ。
「話って?」
「・・・・君はどうして白軍を抜けたんだ?」
・・・・いきなり嫌なところを聞いてくるなあ。
「・・・言ったでしょ?嫌気が差したからだ、って」
私の脳内に、白軍に所属していた頃の記憶が蘇る。
・・・あまりいい記憶とは言えないそれは、今となっては昔の話だ。
「嘘だ」
奈緒はきっぱりと否定する。
「君があの事件に責任を感じているのはわかっている。だから君が白軍を抜けたっていう事も」
「・・・・・・・・」
思えば、奈緒は昔からこういう人間だった。
曲がった事が大嫌いで、誰よりも友達や仲間の事を考えて動くような。
だから私は奈緒が好きだったし、だから私の事情に巻き込むわけにはいかない。
「でも、僕は・・・!!」
「しつこいよ」
私の言葉に、奈緒は驚いたように黙り込む。
私は立ち上がりながら、
「もう関わらないで、とも言ったはずだけど」
奈緒は俯いて唇を噛んでいた。
頭のいい奈緒の事だから、きっと私が考えてる事なんてお見通しなんだろう。
「じゃあね」
見張りをしていた白軍の学生達が、歩き始めた私に反応する。
でも、彼らが私を取り押さえる事はない。
部隊の指揮を取っている奈緒があの状態だから、どう動けばいいのか迷っているのだ。
「待って」
奈緒に声をかけられ、私は足を止める。
「また・・・昔みたいに、笑いあえるかな」
「・・・・・・・・」
少し意外だった。
変わらないな、と思いながら、私は小さく笑みを浮かべる。
「どうだろうね。じゃ」
その後、少し歩いていると、同じ「チーム」に所属している蒲原先輩とばったり出くわした。
「お、いたいた。今までどこいたんだ?」
「いやあちょっとね。安藤先輩は?」
「さあな。近くにいるんじゃねえの」
蒲原先輩と合流した私は、とりあえず他のみんなを探そうということで歩き始めた。
白軍の状況については伝えていない。
(・・・・ていうか、あの黒軍の子はどうしたかなあ)
*
(・・・・・どうしたものか)
今の状況はあまり芳しくない。
夏希がここにいると知ってムキになってしまったからか、少し独断で動きすぎたかも知れない。
本来の「目的」とも外れているし、そろそろ本腰を入れるべきかな・・・と、僕がそう思っていた、その時だった。
「やっと見つけたわよ。アンタがこいつらの親玉ね?」
聞きなれない声が僕の耳に届く。
「・・・・赤軍か」
声の主は、勝ち気な笑みを浮かべる赤軍の少女。
手には拳銃を持っていて、周りには夏希と話をしている時に見張りをさせていた学生達が倒れている。
銃声が聞こえなかったということは、大方拳銃のグリップで殴って気絶させたのだろう。
どうあれ、この少女が僕に敵意を抱いているのは間違いない。
僕は武器として使っている刀に手をかけながら、
「・・・・・随分手慣れているようだけど、僕は今苛立っているんだ。手加減はできないぞ?」
対して、赤軍の少女はニヤリと笑う。
「・・・上等!!」
そして。
戦いが、始まる。
*続く*
こんばんは!
というわけで今回は夏希と奈緒の過去に少し触れてみました。
そして次回からはいよいよ戦闘パート!
戦闘シーンは久しぶりに書くので今から既に緊張気味です。
では、次回お楽しみに!