発売されて二ヶ月以上経っちゃいましたけれども。感想です。


 

 

 




この作品がこれだけ人気を博したのはリアルな中学受験事情描写だけじゃなく、子供たちの愛くるしいキャラクターやその保護者たちの身につまされる造形、もあるけど、何より、「夢」を大事に、「愛」を根底にする大衆性があったからだということに気付きました。そんな最終巻。



・受験を終えた子供たちの描写が今までと違っててよかった!とくに毛利くん、





旦那がかけてた時間制限をパスワードアタックで勝手に破って、ありえない時間までスマホやってたうちの息子にそっくり!笑


うちの息子、学校端末でもチャット制限がかかってる夜は「Googleドキュメントの共有」という手段で友だちと連絡とってた(言いたいことを1つのドキュメントを共有して互いに入力する)。障害が立ち塞がればあらゆる手段をつかって越えようとするのは子供らしくてよろしい




・命を燃やしながらつくったお金を子供の未来の可能性に支払う、そのこと自体が愛だ、と子供に告げた後、お金がなければ愛がないということではない、違う形で与えるのも愛だと言えますが、と続け、少し沈黙し、「珍しく、自分が何を言っているのかわからなくなりました」と笑う黒木。そのへんの問題はこうやっていなすんだね、まあこの問題をマンガとして美しく処理するのは想像がつかないよね(誰かやってください)




・何よりも嬉しかったのは、私が花恋に対して抱いていたモヤモヤに作中から答をもらったこと。正直花恋嫌いだったんですよ、ああいう、勝ち気で勉強ができることを自慢にしていて、それを根拠に女王であるアイデンティティを持ってるキャラって、他の価値観を知らないかわいそうで人間性が貧しいひとにしか見えなくてね。


桜蔭に受かった花恋は夜眠れない。入学説明会で「最難関大学を目指そう」というチラシを受け取ってしまったから。


「終わったんじゃない、また『始まってる』んだから、休む暇なんてない、走り続けなきゃ。どこへ?わかんない、でも。どうせ この先も、ずっと、闘いなんでしょ?違うの?違うのなら、どこに行けばいいのか教えてよ。」顔を覆ってしまう花恋。


黒木からの「宿題」に答えに桜花に行くもスターフィッシュに連れて行かれ、そこで「恵まれない」子たちの現状を目の当たりにする。「恵まれない」という言葉は作中で遣われてはいないが、「恵まれてる」者については明確に言及があって、「『学習』する環境は『自分を認めてくれる』という安心感がなければ整わない。その『安心感』を最初から持っている僕は『恵まれてる』。」OK生ショーマの弁。ショーマは続ける「今回前田さんだけ呼んだのも、僕のときと同じ、『持っている者』の傲慢さのようなものが彼女にもあったのかも…」


この前の上野千鶴子の東大入学式講演といっしょ。多くの場合、『恵まれてる』者にとって『恵まれない』者は視界にも入らない。そういう傲慢をなんとかするのが人間性であり教育の目的だろうと思うんだがね。





・黒木の旅立ちと指輪の件に関しては、やっと自分で枷を外せる日が来たんだねと。それには「人生を壊しちゃった」彼が一歩を踏み出したことも大きいかな。初めて表情が見えて、キラキラしたいい眼をしてた。

指輪は最初気が付かなくて、人の感想読んで気付いてびっくりした。まあどなたがお相手でもいいです(笑)




・エンディング面白かったですね。「佐倉先生が本当の二月の勝者ですね」「ええっ私?!」End予想外。




・そして優勝はなんと言っても島津くんですね。開成進学を止めたのは黒木が思うような、大人が経済事情によって子供の夢を潰したとかってことじゃない。単に「女子が…いる学校に行きたいな、って…」


もう最高ですよ。この語は島津順というひとりの男児が、大人の男の入口に立つまでを描いた物語だったんですね(ニッコリ)






以上終了。愛知県の片田舎に住む、子に中受させてない私のような親にも、中学受験の解像度を上げさせてくれた作品でした。

高瀬さんは本当にいい描き手ですね。キャラの造形、表情、愛に溢れた感じがホントいい。「この親にしてこの子あり」の、ヘンにリアルな描写も観察眼を感じさせる。編集サイドと協力して、作品をつくっていける大人の作家というように感じられます。

これから先はできれば、全く毛色の違うものを描いて欲しいですね。これだけのものを描いちゃった以上、どうしても中学受験の仕事が来るんだろうけど。