8月30日に投開票が行われた衆議院選挙は、民主党が308議席を獲得するという圧勝に終わった。北海道でも12選挙区中、11選挙区で民主党が勝利を収めた。
 小泉元首相の郵政解散のときでさえも、北海道外では自由民主党が圧勝する中、民主党が8勝4敗の大勝をするという「民主党王国・北海道」の地域性を考えると、今回の選挙結果も当然のことかもしれない。




 現在、民主党のマニュフェストに関して、マスコミや諸外国、各界の専門家たちから賛否両論が噴出している。


 しかし筆者は、それ以前のことをここで論じたい。「民主党の議員たちは、どこまで民主党のマニュフェストを理解し、選挙活動で訴えていたのか? 『民主党のマニュフェストが履行されれば、本当に景気が回復する』と、民主党の候補者自身が本当に信じていたのか?」という点だ。




 筆者は民主党当選の興奮が、まだ覚めやまない8月31日、北海道から当選した民主党の現職大物議員(次期総理大臣の鳩山由紀夫代表ではない)のもとを訪れた。その議員は、16年前の細川護熙政権下で「次期首相候補」と報道されたこともある人物だ。
 ほとんど寝ていないであろうその議員は、当選の喜びなのか、はたまた政権交代の喜びなのか、疲れを見せることなく終始上機嫌だった。



 筆者が「景気が悪くて困りますね」と話しかけると、その民主党の議員は驚くことに「そうだね。これからもっと悪くなるね」と答えたのだった。



 この言葉を聞いた筆者は、思わず心の中で「あっ!」と叫んでしまった。

 民主党は、どの候補も「民主党が政権を取ってマニュフェストを実行すれば、日本の景気が良くなる」と言っていたはずだ。それが、政権を取った翌朝に「そうだね。これからもっと悪くなるね」と他人事のように話すのは、どういうことだろうか?





 民主党は、政権を取った与党なのだ。つまり、景気を良くしなければならない側に立った訳だ。民主党は、決して日本共産党のような野党ではないのだ。

 責任政党である与党として、果たして政権を取った翌朝に話すべき言葉だろうか? 前日まで、「日本の景気を良くします」と声高らかに訴えていたマニュフェストは、なんだったのかという思いだ。



「もしかしたら、民主党の議員の中には万年野党の気分が抜けていない人もいるのではないか?」と思ってしまうのは、筆者だけだろうか?




 その民主党大物議員は、たたみ掛けるようにこう続けた。「失業者の職業訓練って、あるじゃない。あれって、たった3ヶ月間で覚えられるものなの?」。



 筆者は、「ちょっと待ってください」という言葉をグッと押し殺した。現在、日本の失業率は、過去最悪の5.7%を記録しているのだ。さらに、失業者の職業訓練に関しては、毎日新聞でも8月29日付で「(職業)訓練受けても職なし」というタイトルで、大々的にその問題点と効果の無さが報道されているのだ。
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20090829ddm003020121000c.html



 しかも、北海道の有効求人倍率は、なんと0.32倍。つまり、北海道で失業者がハローワークに行っても、4人に1人分の求人しかないのだ。

 今や、日本経済の根幹を揺るがす失業者問題にもかかわらず、投票日の翌朝に「失業者の職業訓練って、あるじゃない。あれって、たった3ヶ月間で覚えられるものなの?」と発言するのは、あまりにも勉強不足ではないのだろうか?




 そうかと言って、体たらくを露呈する自由民主党には政権を任せられず、有権者は「NO!」を突きつけた。その分、民主党に対する有権者の期待が大きい。




 しかし、冷静に考えてほしい。民主主義の日本において、政治の主役は政治家ではなく、私たち国民1人1人なのだ。衆議院の任期である4年間で景気回復などの諸問題が解決しない限り、私たち有権者は何のために政権交代を選んだのか、私たちは何のために政権選択選挙に臨んだのか、分からなくなる。




 私たち有権者が新しい日本の政治を選んだ以上、私たちで日本の政治を育てていかなければならない。誤解の無いよう申し上げるが、これは「民主党を応援しよう」という意味ではない。

 与党になった民主党にも、野党になった自由民主党にも、大きく成長してもらわなければならない。
 そのために、私たちは政治の一挙手一投足に注目し、その都度大きな声を上げていく必要があるのだ。



 そして、4年後の選挙では、今回のような「単にどちらかの政党が堕落(だらく)したから、片方の政党が政権を取りました」というものではなく、海外の先進国で見られる政権交代のような「さらに国政を良くするためには、どの政党が良いか?」というハイレベルで緊張感のあるものにしなければならないのだ。



 4年後、今回以上に緊張感のある選挙になるかどうかは、私たち国民1人1人に懸かっている。そのために、私たちが政治に対して常に声を上げ、与党も野党も育てていかなければならない。「選挙が終わったから、おしまい」ではなく、選挙が終わった今だからこそ、私たちの手で日本の政治を育てて行こう。



 最低限、不景気の現状や失業者の現状を理解していなかったり、マニュフェストや演説と裏腹のことを言う政治家を生み出してはいけない。

 そういう政治家を生み出しているのも私たち有権者なのだ。政治家を勉強させるには、まず私たち有権者が勉強しなければならないのだ。