爆音が遠く近付いてきている。
もう行かないと。そう言って、彼女を振り返った。
ほんの二、三歩置いた先で、彼女は立ち尽くしている。
その顔が、まるで行き場の判らない迷子のようなそれだったから、
思わず歩み寄って抱き締めた。
大丈夫、
大丈夫だよ。
人生、しんどいことばかりじゃないからさ。
そう言って、ぎゅうと腕に力を込めた。
生きて帰ってこれるかもしれないけど、
もし死んだら、すまないけどうちの私物は処分してくれな。
きっと、もう生きて帰っては来れないけど。
それは言わなかったけれど、彼女は察してくれたらしい。
顔は見えないけど、彼女がそっと背中に腕を回してくれたから、
自分は酷く安堵した。
元気でな、
最期の言葉にしては安直すぎるかもしれないけど。
けど、こんな時に気の利いた台詞なんて出てこないから。
それだけ伝えられたら、御の字なんじゃなかろうか。
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"あいつ"が出てくる定期夢