唖然とした。
そりゃあ誰だって、唖然とするだろうさ。
鏡に自分の姿が映らないのであれば。
自分は確かにそこに立っているはずなのに、
輪郭すらもそこには映っていない。
後ろの家具と壁が映っているだけだ。
実は何となく予想できていたことにせよ、
いざ実際にそうなっているのを見ると、とにかくぎょっとするものだ。
夢の中であるにせよ、
夢の中と理解していない自分は、ああ、自分は今、幽霊のような状態なのだ、と
だから鏡に映らないのだ、と不思議に納得した。
幽体離脱、という言葉が出てきたのは起きた後のことだけれど、
夢の中の自分は、とにかく自分の体を探すことに決めたらしい。
外へ出て割とすぐに体の方を見つけて、
えい、とばかりにぶつかってみようとしたらひょいと躱されて。
自分の癖に何だこいつ、と思いながら、
もう一度、勢いよく体当たり(?)してみると、
勢いよく目が覚めた。
ああ、
苦しかった、
悪夢だったのか、と。今更ながら気が付いた。
それにしても。
鏡に映らない自分というのは、たいそう気味が悪いものだ。
世界の理を外れてしまったかのようで。
存在そのものが強固に否定されているようで。
お前はあちらの世界へいってしまったのだと、
こちらの世界の住人ではなくなってしまったのだと。
鏡を見るまでそれに気付きもしない、
憐れなやつだと諭されているようで。