悪夢に分類される、嫌な夢オチ。根本というか、本音だけど。

津波出てくるんで、苦手な人は読んじゃだめっすよ

 

 

 

 

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人混みを雑に掻き分けて、ひたすらに走る。

同じように逃げる人達、呆然と立ち尽くす人達、好奇心から向かう人達。

掻き分けても掻き分けても人々の壁は続いていて、焦りに苛立つ。

お陰で、大切な人とも逸れてしまった。

 

この人ごみの中の、どこかにいる筈なのに。

きっと、どこかで自分と同じように、恐怖に囚われて、

必死に逃げ道を探しているに違いないのに。

 

何も知らない人達が、興味津々に人壁を作って邪魔をする。

何も知らないんだ。

何も知らないから、そんな悠長にしていられるのだ。

あまつさえ、期待の目をして。

 

他人事だと断じているから、そんな目ができるのだ。

いいさ、ここに留まっている人達はどうせいずれみんな死ぬ。

今すぐ逃げ出したって間に合うかどうか判らないのだ。

一体何が起きているのかと、醜い好奇心から逃げ道を阻む人間たちなんて、

 

死んでしまえ。

死んでしまえ。

死んでしまえ。

 

 

人ごみをどうにか掻き分けて、階段を昇り切った先でまた降りて、

ようやく建物の外へ出た。

とにかく高いところへ、と周囲を見渡したけれど、

高く高く登れそうな場所は見当たらなくて。

 

眼前に、遥か遠く、空を覆うような津波が姿を現した。

 

ーーああ、あの波が我々の死だ。

 

 

せめてもの気休めに、と近くにあった細い塔の上へと登った。

あの津波からしたら爪楊枝みたいなもんだろう。

途中で折れて、水の中へと飲み込まれる未来が容易に想像できる。

波はあっという間に街を飲み込んで、眼下には恐ろしい小さな渦があちこちで塒を巻いている。

 

冷たい水の中に投げ出されて、息ができずに苦しくて、

そのまま深い深い水の底に沈んでいくのだろうな。

徐々に上がってくる水位を見ながら、恐怖にただ凍える。

 

ああ、でも、

こんな時に考えるのは、逸れてしまった大切な人のこと。

逃げ出さずに、人ごみを掻き分けて探すべきだっただろうか。

今になって、独りにしてしまった背徳に胸が押し潰される。

もしくは、銛で心臓を貫かれたかのように、

ずくり、と見えない心が血を噴き出しているかのよう。

 

一縷の望みであっても助かる道を捨てて、

大切な人と共に終わりを迎えるべきだったのかもしれない。

きっと、今頃自分と同じように、ひとり恐怖に怯えている筈なのだ。

その手を取って、抱きしめて、

終わりを迎える前に、せめてもの、なけなしの安寧を与えてあげるべきだった。

 

魚を逃さないように、反り返った鉤爪が胸を引き裂いていく。

どこまでも深い、赤くて暗い背徳の海に沈んでいく。

 

 

ああ、いつもこうだ。

大切な人がいるから、いつもこの心は引き裂かれる。

後悔と背徳に苛まれて、潰されて。見えない血を流して、涙を流して。

 

だから、

だから、大切な人なんて欲しくない。

これ以上、大切な人を増やしたくない。

こんな風に、誰かの終わりを想うたびに心が壊れるというのなら、

 

早く死んでしまいたい。